成功報酬型でコロナ時代の飲食業を支援、「シンクロライフ」運営が2.8億円を調達

写真右からGINKAN代表取締役CEO 神谷知愛氏、同CTO 三田大志氏

グルメレビュー投稿や加盟店利用で暗号通貨が貯まるグルメSNS「シンクロライフ」を運営するGINKANは6月2日、MTG Ventures、ギフティ、オリエントコーポレーションなどから総額約2.8億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達は同社にとってシリーズAラウンドに当たり、これまでの累計調達額は約4億円となった。

シンクロライフはグルメSNSとして、レストランの口コミ投稿・閲覧機能のほか、AIが口コミを分析してユーザーの嗜好に合ったレストランをレコメンドする機能を備える。ユーザーは、投稿やレストラン利用により暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」をアプリ内のウォレットに貯めることができ、貯まったシンクロコインをギフティが提供する「giftee for Business」のeギフト購入に使うことが可能だ。

「シンクロライフ」アプリ画面イメージ

飲食店側は、初期費用・月額費用0円、売上の5%の成功報酬で加盟店として参加ができる仕組みとなっている。

シンクロライフのスキーム

インバウンド重視からリピーター見直しへシフトした飲食業界

新型コロナウイルス感染拡大にともなう自粛要請や、緊急事態宣言の発令により、特に都市部の飲食店では営業を自粛したり、テイクアウト販売への転換を余儀なくされていた。

GINKANでは5月1日から、シンクロライフへのテイクアウト商品情報の無料登録を受付開始。同時にユーザーが、情報を掲載した飲食店のテイクアウト利用やレビュー投稿などで飲食店を応援することで、将来のイートイン来店時に利用できる優待券を受け取ることができる機能を追加した(優待券配布はシンクロライフ加盟店が対象)。

また5月28日には、テイクアウト対応店舗をAIがレコメンドする機能も追加。食レビューにもテイクアウト情報の投稿が可能になったほか、タイムラインにもテイクアウト特設フィードを追加した。

テイクアウト情報、レビュー掲載に対応したシンクロライフ

GINKAN代表取締役CEOの神谷知愛氏は、この3月から5月にかけての消費者・飲食業界それぞれの変化について、次のように述べている。

「まず消費者のほうでは、テイクアウト対応店舗が増えたこともあり、“食”の消費方法として、あまり経験がなかった人でもテイクアウトを体験する機会が増えた。またSNSユーザーの動向は緊急事態宣言前の3月から既に変化していて、アクセスの良い街から住居の多いエリアへと投稿・行動はシフトしていた」(神谷氏)

飲食業界の方でも2つの変化があったと神谷氏は言う。「飲食業界というのは従来売上が大きく変動しない業界だが、コロナショックのスタートからウィズコロナに続く過程で大きく売上が変動したことで、固定費が注目されるようになった」(神谷氏)というのが1つ目の変化だ。

「固定費が必要なマーケティングの需要が低下している中で、成果報酬でマーケティングが可能なシンクロライフのような仕組みの需要は上がっている」と神谷氏。実際、4〜5月はリモートのビデオ会議で営業を行っていたGINKANだが、営業活動は増えたそうだ。

もう1つの変化は、飲食店から見た顧客のターゲットだ。「感染拡大前は、一見客、特にインバウンドの顧客に対する戦略が立てられてきたが、今は固定客・リピーターが見直されて、一定以上の割合がないといけないという見方になっている」(神谷氏)

コロナ禍で飲食店の状況は2極化していると神谷氏は言う。「固定客やファンがついている店、地域密着型の店はこの状況でも強い。緊急事態宣言で大幅な営業自粛が始まるまでは、それほど大きく売上を落としていない。4〜5月の緊急事態宣言発令はさすがに影響が大きかったが、宣言解除後、売上が戻らない店もあれば、100%近くまで戻したところもある」(神谷氏)

今後、緊急事態宣言が解除されたとしても、公的な会食などが一気に戻るわけではないだろう、と神谷氏は見ている。「宣言解除で『まずどこへ行こうか』となったときは、好きな店、いつも通っていたところが選ばれる。せっかく外食するなら質を重視したい、という動きは5月後半ごろからあり、しばらく続くのではないか」(神谷氏)

アフターコロナまで活用できるサービス提供で飲食業界に貢献

「消費者・飲食業界両方の変化に対して、GINKANとしては、成功報酬で利用できるCRMプラットフォームとして対応していけると考えている」と神谷氏は話している。新型コロナ感染拡大の影響についても「我々はまだ駆け出しで、これから伸びるところなので、インパクトもそう大きくなかった。指標などもそれほど変わっていない」という。

神谷氏は、今回の調達資金の使途について「アプリ機能、飲食加盟店向けサービス拡充のための開発と、サービス認知、ユーザー獲得のためのマーケティング費用などに充てる」とコメント。また、「新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響を受ける飲食業界のためにも、アフターコロナまでを一気通貫で活用いただけるサービス提供に取り組み、飲食業界の未来に貢献していきたい」とも述べている。

GINKANの本ラウンドにおける第三者割当増資の引受先は以下の通りだ。

  • MTG Ventures
  • ギフティ
  • オリエントコーポレーション
  • セレス
  • 三生キャピタル
  • オークファン
  • DDホールディングスベンチャーキャピタル
  • 三菱UFJキャピタル
  • エスエルディー

GINKANは、2月18日にギフティのeギフトとの連携を発表しているが、「今後さらに各社との連携を深めていく」としている。神谷氏は「大手との事業連携も進んでおり、近く発表できるだろう」と述べており、「株主とはシナジーもある。我々だけでは取り組めない課題に、今ラウンドでは全力で取り組む」と語った。

グルメSNS「シンクロライフ」が「giftee」と連携、貯めた暗号通貨でeギフト購入が可能に

ユーザーレビュー投稿や加盟店利用で暗号通貨が貯まる、グルメSNS「シンクロライフ」を運営するGINKANは2月18日、ギフティが提供する「giftee for Business」と連携したことを発表。連携により、シンクロライフのアプリ内で貯めた暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」で、コンビニやマッサージなど、7ブランド・24商品のeギフト購入が可能になった。また対象ブランドの実店舗でアプリ内のチケットを示して、eギフトを利用することもできるようになっている。

シンクロライフはグルメSNSとして、レストランの口コミ投稿・閲覧機能のほか、AIが口コミを分析してユーザーの嗜好に合ったレストランをレコメンドする機能を備える。シンクロライフでシンクロコインを集めるには、「1. レビュー投稿やレストラン情報作成などによる、SNSへの貢献」「2. 加盟店で支払った飲食代金からの還元(1〜5%、キャンペーン時最大20%)」といった方法がある。現在の加盟店は首都圏を中心に200店舗超。2020年内に3000店舗に拡大する予定だという。

これまでは、ユーザーは集めたシンクロコインの使いどころがなかったのだが、今回の連携で「サーティワン アイスクリーム」「上島珈琲店」など、下の画像にある7つのブランドでeギフトの購入が可能になった。

eギフトは自分で商品交換して利用することもできるが、人にプレゼントもできる。取扱商品は「giftee for Business」のラインアップから、および新規開拓により順次ブランドを追加していく予定だという。

なお、ギフト購入に必要なシンクロコインは、市場取引レートによって一定期間ごとに変動する。ユーザーは従来通り、アプリ内のウォレットにシンクロコインを貯めたまま、価値変動を待つこともできる。GINKANでは今後、ほかにもシンクロコインが利用できる範囲を広げていくもくろみだ。

暗号通貨が貯まるグルメアプリ「シンクロライフ」運営がオリコと資本業務提携

グルメSNSにトークンエコノミーの概念を取り入れた「シンクロライフ」は、ユーザーがレビューや加盟店の利用で暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」をゲットできるアプリだ。

シンクロライフを運営するGINKAN(ギンカン)は7月17日、オリエントコーポレーションとの資本業務提携を発表した。オリコからの出資金額は非公開。出資は現在GINKANが実施中の資金調達ラウンドの一部に当たるという。

シンクロライフはSNS形式での口コミ投稿アプリとしてスタート。2018年8月にはレビュアー・口コミの信頼スコアに応じて、暗号通貨を付与するベータ版を公開している。また今年7月1日には、ユーザーが加盟店を利用すると食事代金の1〜5%をシンクロコインで還元するサービスも開始した。

サービスに加盟するレストランにとっては、飲食店専用アプリを初期費用・月額費用なしで利用でき、シンクロライフ経由の飲食代金の5%を支払えばアプリに広告を掲載できる。

一度来店したユーザーには、自動的に再来店を促すCRM施策を実施することが可能。7月中に50店舗が登録を予定しており、2019年中には1000店舗の加盟を目指すという。

GINKAN代表取締役CEOの神⾕知愛氏は、飲食店からの還元リワード導入については「東急不動産との実証実験を経ての本格リリース」とコメント。「ボーダーレスな暗号通貨を使ったトークンエコノミーの実社会実用化のスタート。まずは日本の飲食業界、その後アジアへも展開を図る」としている。

グルメアプリとしては、AIがレストランをレコメンドする機能を備え、検索要らずで使える点も特徴とするシンクロライフ。現在155カ国・4言語(日本語、英語、韓国語、中国語)で展開され、口コミは19万件、掲載店舗数は10万店舗を超えた。

今回の資本業務提携により、GINKANでは80万店以上の加盟店と1000万人以上のクレジットカード会員を抱えるオリコとともに、新しいプロモーションサービス提供や顧客向けサービス、Fintech事業などで協業を目指す。

神谷氏は「飲食店の課題へ強くフォーカスし、飲食業界の広告モデルを破壊する」という暗号通貨によるリワード還元についても「オリコと組んで挑む」と述べている。

グルメSNS「シンクロライフ」にレストラン検索不要の「AI厳選」機能が追加

グルメSNS「シンクロライフ(SynchroLife)」は、SNSとAI活用により、ユーザーのレストラン探しをサポートするアプリだ。ほかのグルメアプリとの大きな違いは、トークンエコノミーの概念を取り入れていること。良質なグルメレビューの投稿者にはトークン(暗号通貨)による報酬を付与する。また来店ポイントのような形で、飲食代金からの還元リワードをトークンで受け取れる仕組みもアプリ内に持っている。

シンクロライフを運営するGINKAN(ギンカン)は4月4日、同アプリへの「AI厳選」機能追加を発表した。従来のレストラン検索機能は廃止され、現在地点などのエリア情報に基づき、AIがオススメする店を写真中心のインターフェースから選ぶスタイルに変更された。

またSNSのタイムラインには、ユーザーの日頃の生活圏などから優良なレビュー投稿をパーソナライズして表示する「For You」フィードが登場した。

2018年8月にベータ版が公開されたシンクロライフ。今回の一連のレコメンデーション要素の強化により、「これまで以上に直感的に良質なレストランをすばやく発見できる」ようなユーザー体験の実現を図ったという。

確かに従来のグルメレビューサービスでレストラン探しをするときには、エリアやカテゴリーだけではまだ多くの店から候補が絞り込みきれず、レビューの文面など、さまざまな要素を自力でチェックして選んでいくので、決定までに時間がかかることもしばしばだ。

シンクロライフのAI厳選機能では、SNS上の人気指標やリピート指標などを分析しているため、あらかじめ一定以上の人気があり、投稿者のリピート率が高い店をレコメンドしてくれる。エリアやジャンルは指定することができるので、現在地だけでなく、これから訪れる旅行先などの土地勘のない場所でも、ほかのユーザーが薦めるレストランを知ることができる。

また新たな指標として「リピート希望」の表示も加わった。実際に来店して投稿したユーザーの評価指標をもとに「10人中8人がリピート希望!」といった表示がリスト上の各店に示される。

iOS版/Android版が提供されているシンクロライフは現在、155カ国・4言語(日本語、英語、韓国語、中国語)で利用可能。累積19万件以上のレビューが投稿されている。

GINKAN代表取締役CEOの神谷知愛氏は「もともとレストラン選びに時間をかけずに済み、検索しなくても表示されるシステムを目指して、レコメンドエンジンやロジックを改善してきた。今回のAI厳選機能で、ようやく作りたかったものができたというところ」と話している。

とはいえ、中には自分が選んだ細かい条件で検索をかけたいユーザーもいるのではないだろうか。神谷氏は「世の中には詳細な検索でレストランを探せるサービスは既にいくつもあるし、僕自身も利用している。だが、予算やシーンなどの細かい条件検索と“場所と食べたいものが大体決まっている人”向けの提案を両立するのは、インターフェースが複雑になって難しい」と述べ、「“大体決まっている人”へのサービスは、ありそうでなかったので、そこへフォーカスした」と答えている。

「シンクロライフは、テレビ番組や雑誌と同様にレストラン情報を眺めたいというシチュエーションには、SNSフィードでパーソナライズした表示を、場所と食べたいものが大体決まっている人には、AI厳選機能でレストラン提案を行う。“提案されたものからレストランを選ぶ”というのは、あまり体験したことがないユーザー体験になるのではないか」(神谷氏)

GINKANでは、今後もユーザーのアクションや閲覧データをもとに、さらにシンクロライフ収録レストランの評価の質を高めていく予定だ。

シンクロライフは、トークンエコノミーの概念を導入することで、レストランのマーケティング課題の解決に取り組むプロダクトでもある。今年3月にはこうした取り組みが評価され、MUFG Digitalアクセラレータのプログラム第4期に採択された。

神谷氏は「ユーザー体験に関しては、SNSとAIでハズレなしのお店選びを、ということで、消費者のニーズや課題に合わせたアップデートをして、最終形に近づいてきた。またレストランのマーケティング課題については、東急不動産の協力で飲食店来店客へのトークン還元の実証実験も行い、準備が進んでいる」と話す。

さらに「飲食店の広告宣伝費率の課題を、ブロックチェーンを活用した暗号通貨で解決した暁には、ユーザーである消費者は今までの『飲食店での食事で消費する』スタイルから『デジタルアセットをもらう』スタイルに変わっていく」と神谷氏は述べ、「一般消費者がアセットを持つ、ということでフィンテックの入口にもなるサービス」としてシンクロライフを構想していると語る。

今後、さまざまな金融機関やペイメント事業との接続により、ほかの暗号通貨への変換や資産運用、国内外での決済なども、シンクロライフで可能にしたいという神谷氏。「まずは飲食店の参加により、O2Oビジネスとしての土台を確立し、そこから加盟店の決済手数料の軽減やユーザーの支払いをシンクロライフで完結させるなど、課題を解決していきたい」と話している。

日本のスタートアップ成長に重要な5つの要素とは——Plug and Play SHIBUYA開設から1年

シリコンバレー発のアクセラレーターPlug and Playが日本法人を設立し、国内での活動を本格化したのは2017年9月のこと。それから1年が経ち、彼らが年2回実施するアクセラレーションプログラムも「Batch 0」「Batch 1」の2期が完了した。現在は59社のスタートアップが参加する「Batch 2」が走っているところだ。

12月4日、東京・渋谷のコワーキングスペース「Plug and Play Shibuya」で開催された「メディアラウンドテーブル」では、Plug and Playが日本のスタートアップ成長に向けて考えていること、そしてBatch 1参加企業2社の成果と、Batch 2採択企業1社の現状についても紹介があったのでお伝えしたい。

日本でイノベーションを進めるために大切な5つの要素

Plug and Playは、2006年の創立から2000社を超える企業を支援し、70億ドルを超える資金調達を達成しているアクセラレーター・投資家だ。米・シリコンバレーに本拠地を置き、全世界26カ所にオフィスを構えるPlug and Playは、スタートアップを中心にしたエコシステムを形成を目指し、14にわたる幅広いテーマのそれぞれでアクセラレーションプログラムを実施している。

Plug and Play Japan代表 マネージングパートナー フィリップ・ヴィンセント氏

Plug and Play Japanの代表でマネージングパートナーのフィリップ・ヴィンセント氏は、まず世界のスタートアップエコシステムの状況を紹介。各国のPlug and Playの拠点の中でも、特にエコシステムがうまく発展している地域の特徴を紹介した。

ドイツではシュトゥットガルト、ベルリン、ミュンヘンに拠点があるが、このうち2016年に開設されたシュトゥットガルトの「Startup Autobahn」はクルマ、交通に関連したモビリティを対象領域とする。パートナー企業にはダイムラー、メルセデスベンツなどが参加している。

ヴィンセント氏は「ここでは、パートナー企業が大企業として乗り込むのではなく、カルチャーをスタートアップに合わせて一緒にイノベーションに取り組むことが、成果につながっている」と話す。シュトゥットガルト大学キャンパス内の研究開発施設「ARENA2036」内に拠点を置くことで、大学とも企業ともコラボレーションが可能になっているそうだ。

続いて紹介されたシンガポールでは、2010年からプログラムが開始されている。金融・保険、モビリティ、旅行・観光、サプライチェーンが対象領域のシンガポールでは、マリーナベイに近いCentennial Towerとシンガポール国立大学近くに位置するBlock 71が拠点となっている。

Block 71は、250社のスタートアップが参加し、複数のインキュベーターやアクセラレーター、VCも参画する、スタートアップハブ、起業家のためのコミュニティだ。ヴィンセント氏は「シンガポールでは大学との連携が強い」という。またシンガポールでは、政策でスタートアップ支援が強く打ち出されていることから、政府との連携も行われているということだった。

パリではフィンテックと流通領域を対象に活動する2拠点が、いずれも2016年に開設された。このうち主にフィンテックを扱う「BNP Paribas-Plug and Play」は、2017年の夏にオープンした3万4000平方メートルの広大なインキュベーション施設Station Fを利用している。大きな一つの屋根の下で、起業家同士のコラボレーションも生まれやすい環境のStation Fには、約3000社のスタートアップが入居でき、20〜30のアクセラレーションプログラムが実行されている(Station F オープン時のTechCrunchのレポート)。

フランスでは政府のイノベーション推進施策により、海外から起業のためにフランスに移住する人のためのFrench Tech Ticketや、テック系人材とその家族のためのFrench Tech Visaといった特別なビザプログラムが用意されている。また政府の後押しを受けた、スタートアップエコシステム醸成のためのイニシアチブ「La FRENCH TECH」もある。

最後に紹介されたのは中国だ。北京、上海、深圳など、中国にはPlug and Playの拠点は8カ所あり、近いうちに10拠点に増える計画だ。中国でも政府がスタートアップエコシステムを力強くプッシュしている。また、スタートアップへの投資は中国が世界の半分を占めており、今では、評価額10億ドル以上のユニコーン企業の数が米国より多くなっているという。

さて、翻って日本の状況はどうだろうか。

日本でPlug and Playは、フィンテック、IoT、保険、モビリティの4領域でプログラムを実施。2019年春からはブランド・流通のエリアもカバーしていくことになっている。

ヴィンセント氏は、日本のスタートアップの成長、イノベーションが進むために大事なこととして、以下の5つの要素を挙げた。

1つめは「カルチャーとマインドセット」。社会や企業のイノベーションへの積極性や、パートナーとなる企業がスタートアップと対等に、スピード感を持って、柔軟に対応できるかどうかがカギになる、とヴィンセント氏はいう。「日本でも、社会がスタートアップを見る目が変えられるかどうかが大事になってくる」(ヴィンセント氏)

2つめは「政府の後押し」。ただし一方的に関与しすぎるのも良くないようで、ヴィンセント氏は「関わるも関わらないもバランス良くあることが大切」と話していた。「政府が民間同士、スタートアップ同士の横の連携を作ることを勧めてくれて、(フランスのように)海外からの参画もしやすいのが理想だ」(ヴィンセント氏)

3つめは「教育と大学」。ヴィンセント氏は「CTOではなく、CEOを増やす教育が必要」という。また「海外へ飛んで学ぶためのプログラムも重要だ」とも述べている。

4つめは「先進的な考えを持つ企業」。大企業のコミットメントが得られるかどうかは、スタートアップエコシステムが育つための大切なファクターとなる、とヴィンセント氏は話す。

最後の5つめは「アクセラレーターや支援者」の存在だ。「スタートアップをサポートする会社が増えることが、エコシステムの醸成には欠かせない」(ヴィンセント氏)

SynchroLife「大企業へのイメージが180度変わった」

続いてBatch 1参加企業2社から成果の発表と、Batch 2採択企業1社から現状のレポートがあった。

まずはBatch 1に参加したスタートアップGINKANと、パートナー企業・東急不動産による実証実験の事例が紹介された。

GINKANは、グルメSNSアプリ「SynchroLife(シンクロライフ)」を提供している(過去紹介記事)。GINKAN創業者でCEOの神谷友愛氏は「SynchroLifeは良い体験を発信するSNSとAIにより、ハズレなしのお店を提案するアプリだ」と説明している。現在4カ国語に対応、17万件以上のレビューが掲載されている。

SynchroLifeでは、ブロックチェーンを活用したトークンエコノミーを取り入れ、良質なグルメレビュアーにはトークン(仮想通貨)で報酬が付与される。また、飲食代金からの還元リワードをトークンで発行。来店を促すマーケティングに利用できる仕組みとなっている。

飲食店は、タブレット端末に加盟店向けアプリを導入。初期費用・月額料金なしで、売上の3%を支払う完全成功報酬型でサービスを利用できる。利用客であるユーザーは、支払い時にアプリで飲食店から提示されるQRコードを読み取ることで、食事代金の1%以上相当のトークンを還元してもらえる。

実証実験はこのリワードの部分について検証するものだ。東急不動産の協力により、2018年9月〜10月の1カ月間、東急プラザ銀座のレストラン21店舗で実験が行われた。

GINKAN CEO 神谷友愛氏

実証実験では、QRコードを使って飲食代金の3%分の暗号通貨をユーザーに還元。ユーザーエクスペリエンスおよび店舗のオペレーション負荷を検証した。還元は10秒で完了でき、障害もなかったということだった。

また、レストラン開拓インフルエンサー送客による、グルメSNSとしてのマーケティング効果の部分の検証では、来店者の投稿の92%が高評価に。投稿数の増加に伴って来店客数も向上しており、SNSの特徴である「良い体験」が「来店」に影響した、と神谷氏は分析する。

Plug and Play Batch 1と実証実験で学んだこととして、神谷氏は「3カ月という短いBatch期間でキッカケの創出と、期間目標のコミットができたことで、Plug and Play Japanの強力な“お見合い力”を実感した。また東急不動産との実験取り組みで、大企業へのイメージが180度変わった。(SynchroLifeという)プロダクトでビジネスをまだしたことがなかった僕たちが、いきなり東急不動産と組めるというのはすごい経験だ」と話している。

また、ビジネス上の課題認識の一致が重要であるとして「実証実験は結果ではなく、過程だとあらためて認識した」とも述べていた。

一方、パートナーとしてGINKANを支援した東急不動産。渋谷で次世代のビジネス共創を目指し、2020年に向けて100のビジネス創出を目指すプロジェクト「SHIBUYAスタートアップ100」を立ち上げて、スタートアップを支援。その一環として、2017年11月にはPlug and Playとともに渋谷にインキュベーション施設を開設した。

東急不動産 都市事業ユニット 事業戦略部の伊藤英俊氏によれば、インフラとしての施設提供のほか、スタートアップとの事業連携も20社が確定しており、近く30社になる見込みとのこと。GINKANとはPlug and Playを通じて、Fintechパートナーとして組むことになった。

「QRコードで暗号通貨を付与するという新しい試みと、SNSマーケティングで集客できるのかという実務の部分でともに検証を行った。今後、実際の導入へと進みたい」(伊藤氏)

伊藤氏は、Plug and Playでのパートナーシップと実証実験が成功したポイントを3つ挙げている。「1つはプロダクトや事業について、具体的なイメージの共有ができたこと。2つめはリアルな場での交流があること。そして、相手の時間を大切に考えられるカルチャーだ」(伊藤氏)

Batch 1での取り組みでは、最終的に「経緯、信頼、そして両者の情熱と覚悟が噛み合った」と手応えを感じている伊藤氏。Batch 2でも既に複数社との取り組みが検討されているとのことで、「Batch 0、Batch 1からの継続案件の具現化も進める。また渋谷区や東京都とのパイプも生かし、行政とも適度な距離感を持ちつつ、いろいろ調整して支援を進めたい」と話していた。

Trillium「世界に羽ばたくスタートアップにとっていい場だ」

Batch 1採択企業からはもう1社、モビリティ関連スタートアップTrilliumの事例が紹介された。

Trilliumは2014年の設立。米国カリフォルニア州サニーベールにあるTrillium本社は、シリコンバレーのPlug and Playから支援を受けており、東京でもBatch 1に参加することになった。Trilliumでは、ほかにも世界各地のPlug and Playでプログラムに参加している。またTechCrunch Disrupt Berlin 2017のStartup Battlefieldではピッチも披露している(英文記事)。

Trillium日本法人 執行役員 事業開発部長 山本幸裕氏

Trilliumが提供するのは、モビリティに対するサイバー攻撃に対抗するセキュリティ、特にコネクテッドカーのサイバーセキュリティソリューションだ。

日本のTrilliumで執行役員 事業開発部長を務める山本幸裕氏は「OBD 2(自動車の自己診断機能の規格)やWiFi、Bluetoothなどを通じてネットワークに接続されたクルマは、外部から無線でハッキングが可能だ」と説明する。

「現状、既にハッキングは行われている。今のところは、メーカーからの報賞金やエンジニアとしての売り込みによる雇用を目的にしたホワイトハッカーが多いが、より悪意を持った動作を目的としたブラックハッカーも出てくる可能性が大きい」(山本氏)

さらに、「以前に比べてクルマの寿命が延びたことにより、発売当初のクルマが最新のセキュリティで守られていたとしても、ハッキングの進化により乗っ取りがいずれ可能になるという面もある」と山本氏は指摘する。

Trilliumでは、サイバー脅威からクルマを守るためのソフトウェアに加え、収集した攻撃データを分析した上で、OTA(Over the Air:無線)で車載システム、ネットワークのセキュリティをアップデートする仕組みを提供している。

今後さらに、自動車メーカーや、物流やレンタカー、交通などで車両を保有・運用する企業、保険会社などと提携することで、安全なモビリティプラットフォームを構築したいとして、パートナーを探しているという。

東京のBatch 1では、パートナー探しに加えて「インベストメントでも成果があった」と山本氏は述べる。2018年7月のシリーズA2ラウンドで、総額1100万ドル(約12億円)の資金調達を実施したTrillium。山本氏は「このラウンドでMUFJグループ(三菱UFJキャピタル)が参加したことは、Plug and Playの日本のBatchに採択された成果として大きい。出会って3カ月で投資が決まった」と話している。

またシリコンバレーのPlug and Playでも「ピッチを行ったところで(パートナー企業との)出会いがあった」と山本氏。世界中に拠点を持つPlug and Playは「世界に羽ばたくスタートアップにとっては、大変いい場所だ」と評価する。

「Plug in Play SHIBUYAでも、パートナーとなる企業と出会うことができた。今後PoC(概念実証)を目指していく」(山本氏)

Nauto「日本でのPoCと認知・ブランド向上図りたい」

最後に、11月にスタートしたばかりのBatch 2採択企業の中から、Nauto(ナウト)が現況をレポートした。

NautoはIoT領域で、Plug and Playのプログラムに参加するスタートアップだ。Nautoが提供するのは、自動車運転の安全性を高めるためのソリューション。Batch 1 EXPO(デモデイ)でピッチを行い、採択に至っている。

NautoもTrilliumと同様、米国カリフォルニア州パロアルトに本社がある。本社設立は2015年、Nauto Japanは2017年6月に開業している。Nautoには既に、General Moter VeunturesやToyota AI Venturesなど、自動車系ファンドが多数出資しているほか、2017年7月にはソフトバンクがシリーズBラウンドで1億5900万ドル(約180億円)の出資を行っている。

Nauto Japanで日本代表を務める井田哲郎氏は、「Nautoはテクノロジーを使って収集したデータを、運転の安全に使う。今日の運転の安全、そして将来の運転の安全に貢献するプロダクトを開発している」と説明する。

Nauto Japan 日本代表 井田哲郎氏

Nautoのプロダクトは、車載器と、車載器からのデータを収集・分析するプラットフォーム、運行管理アプリから成る。

Nautoは車載器として、人工知能を搭載したドライブレコーダーを開発。Bluetooth、LTE通信でネットワークに接続できるデバイスには、2つのビデオカメラと各種センサーが内蔵されている。クルマの内部に向けられたカメラでドライバーの様子を、外部へ向いたカメラは進行方向の道路を撮影する。デバイスから集められた映像やセンサーデータは、クラウドプラットフォームで分析される。

分析データをもとに、運行管理アプリではさまざまな機能を提供するが、顔認識や映像ベースでのリスク評価がその大きな特徴となっている。

「コンテクスト分析を内側カメラと外側カメラの双方向で行い、エッジでは車間距離を測定。社内の運行管理者によるモニタリングも実施できる。ほかにもクルマのセンサーからの情報なども合わせて、総合的に分析を行い、必要に応じてドライバーに危険を警告する」(井田氏)

米国で行われた実証実験では、独自のアルゴリズムによって、ドライバーの集中・わき見の状況を分析した。「運転の荒さだけでは、実はリスク評価は十分ではない。したがって加速度センサーによる加減速のデータだけでは、事故につながるとは断定できなかった。これを顔認識も加えて、わき見の状況をモニターすることで、Nauto搭載のクルマでは35.5%の事故削減につなげることができた」(井田氏)

「この実験は米国で行われたもので、日本では事例がまだない」としながら、井田氏は「日本でもスマートフォン使用による交通事故件数は、2011年から2016年にかけて2.3倍に増えているという統計がある。Plug and Play Japanのプログラムに参加することによって、PoCを実施し、日本でも導入実績、ケース事例を作りたい」と述べる。また「(日本での)認知向上やブランドづくりも図りたい」とBatch 2参加による成果に期待を寄せていた。