グローバルTVサイトのVikiが日本向けサービスを開始、楽天ID統合で月額400円のプレミアム会員も

2013年9月に楽天が2億ドルで買収した「Viki」が今日、ベータ版として日本向けサービス(http://viki.jp)を開始した。Android、iOSのモバイルアプリも日本語対応となり、PC、タブレット、スマフォなどで視聴できるという。公開時には無償会員でも視聴できる数千時間相当の日本語字幕付きのテレビ番組、映画コンテンツを用意しているという。この中には漫画作品「花より男子」の米国リメイク版ドラマ「ボーイズ・ビフォア・フレンズ」や、韓国の恋愛ドラマ「20s」、現代中国の女性を描いた中国ドラマ「Group of Women – 女人帮」 、コロンビアの人気テレノベラ「Broken Promises」などがあるという。

日本語版サービス開始にあたり、楽天会員IDによるログインを可能としたほか、月額400円のプレミアム会員サービスも提供開始。プレミアム会員は広告非表示で、プレミアムコンテツやHD画質のストリーミングが利用できるそうだ。Vikiは日本市場本格進出にあたり、9000万の楽天会員IDからユーザー獲得ができる形だ。Viki共同創業者でCEOのラズミグ・ホヴァジミアン氏は発表文の中で「楽天会員という大きなユーザーベースに加え、楽天グループの支援により、Vikiは日本を次のコンシューマ市場として優先することができた。ベータ版リリース後の今後数カ月でコンテンツとサービスをより充実させてくのを楽しみにしている」と語っている。

楽天は2月14日にモバイルメッセージアプリの「Viber」の9億ドルでの買収を発表するなど、顧客基盤のグローバル化を進めている。VikiとViberを足がかりにモバイルで消費されるデジタルコンテンツのグローバル流通市場を押さえる布石を着々と打っているように見える。

Vikiはシンガポール発のストリーミング動画サービスで、世界各地で放映されるドラマや音楽、ニュースといったテレビ番組などの著作権取得済みの動画コンテンツに対してオンラインの翻訳者コミュニティが字幕を付けるサイト。ファンたちが翻訳を手がけつつ、コメントなどで視聴体験を共有している。これまで160言語以上にわたるボランティアが累計4億5000万語以上の翻訳を行っていて、総視聴回数は30億回を数える。200カ国に視聴者がいて、韓国ドラマが中東で見られたり、南米のテレノベラと呼ばれるドラマ、日本のアニメ、ボリウッド(インド)映画など世界中のコンテンツが国境や言語の壁を超えて流通している。ファンがViki上で付けた字幕は、HuluやNetflix、Yahoo!といったパートナーにも提供している。Vikiは2007年創業で2010年にサービスを一般公開している。


楽天がGoogle、Yahooを押しのけてビデオサイトのVikiを2億ドルで買収した理由―クラウドソース字幕翻訳をeコマースにも利用へ(三木谷浩史インタビュー)

日本のeコマースの巨人、楽天はシンガポールのビデオストリーミング・サービス、Vikiを2億ドルで買収した。Vikiは世界各地のユーザーコミュニティーがビデオコンテンツの字幕を翻訳するというユニークな国際化手法を取っているのが特長だ。

楽天のファウンダー、CEOの三木谷浩史にインタビューした結果、楽天はVikiのビデオコンテンツだけでなく、eコマース市場での世界制覇に向けてクラウドソース翻訳というシステムの利用も視野に入れていることが明らかになった。

当然ながらこの買収契約の締結までにはさまざまな曲折があったようだ。Vikiの共同ファウンダー、CEOのRazmig Hovaghimianが私の取材に答えて語ったところによると、楽天との交渉が本格化する前に、VikiはシリーズCの資金調達ラウンドの準備を進めていたところだったという(VikiはそれまでにAndreessenHorowitz、Greylock、Charles River Venturesに加えて個人投資家から総額2430万ドルを調達していた)。また別の情報源によると、Vikiに興味を示していたのはベンチャー投資家ばかりではなく、GoogleとYahooも買収を望んでいたという。

楽天のCEOの“Mickey”こと三木谷浩史もHovaghimianもVikiの買収を他にどんな会社が試みたかについては明らかにしていないが、GoogleはYouTubeを持ち、Yahooは長年にわたって、ビデオコンテンツの強化策を模索してきたから、この両社が含まれているのは意外ではない。また両社のビデオサービスはVikiと同様、広告ベースのビジネスモデルであり、海外での事業拡大を目指していたからVikiは魅力的なターゲットだったはずだ。

一方で、両CEOは、楽天がVikiがどのように出会ったのか、楽天の大戦略におけるVikiの位置づけ、また楽天が単なる投資ではなく直接買収に踏み切ったのか、その理由についても語ってくれた。

Vikiと楽天の出会い:. しばらく前にVikiはBlake Krikorian(Slingのファウンダー、現在Microsoft副社長)、Dave Goldberg(Survey MonkeyのCEO)という2人の戦略的投資家を取締役に加えた。 私は就任のタイミングからしてこの2人が今回の買収に何らかの役割を果たしたのではないかとHovaghimianに尋ねたところ、実は最初の出会いをもたらしたのはMITメディア・ラボの所長、Joiこと伊藤穣一であることが判明した。伊藤はVikiの最初期の投資家であり、以前からの取締役である。「JoiはVikiの日本市場進出を助けてくれた。Mickeyを紹介してくれたのもJoiだ」とHovaghimianは語った。その頃、Hovaghimianはシリコンバレーで投資家を探しており、買収については考えていなかったという。「よそ者がシリコンバレーで資金調達しようとするのは非常に疲れる経験だった」とHovaghimianは認めた。

「VikiはアジアでYahooと密接に協力しているし、YouTubeからもマルチチャンネル・ネットワークとして認められている。しかし楽天は企業文化からも相乗効果からもVikiによりよくフィットすると考えた。われわれがアジアをベースにした企業であることも大きかった」という。

「1ヶ月で10回ほど会った。最初から良い雰囲気で、交渉は非常に速く進んだ。私は〔三木谷浩史という〕人物が気に入ったし、楽天のビジョンにも共感した。彼らは全力でホームランを打ちに来ている。Vikiはさまざまな方面から関心を持たれてきたが、楽天がもっとも魅力的な相手だった」という。

Vikiは当面独立して事業を継続: Hovaghimianによれば、Yahoo、YouTubeとの提携関係には当面変化はないという。またNetflixその他、楽天の潜在的ライバルとの関係も継続される。「楽天はVikiに長期的な効果を期待しており、当面、大きな自由を認めている」とHovaghimianは言う。【中略】

投資でなく買収に踏み切った理由は? 私は三木谷に「なぜ楽天は単なる投資ではなくVikiの完全買収を決断したのか?」と尋ねた。事実、2012年に楽天はPinterestに1億ドルの戦略的投資を実施している。「Pinterestは(当時ブームの絶頂で)高すぎて買収できなかったからね」と三木谷はジョークを飛ばした。実際にはPinterestは楽天の事業にとってVikiほど直接の影響がなかったからだという。三木谷によれば、Pinterestは楽天のLinkshareアフィリエイト市場に大量のトラフィックを送り込んでくるという点が重要だった。ただし、Pinterestが公式な日本版の運用を開始していないので、日本の楽天はまだこのメリットを享受していないという。

ビデオストリーミングを超えた長期的視野:. 三木谷によれば、もっと重要だったのはVikiが楽天がこれまでビデオコンテンツで努力していた分野を強力に補完する存在だったことだという。楽天はNetflix式のOTTビデオストリーミング会社Wuakiをヨーロッパで運営している。また 楽天が買収したKoboデバイス向けにビデオコンテンツを拡充する計画 もある。こうした分野でVikiは直接的に役立つが、三木谷は「Vikiの買収はビデオだけを考えてのことではない」と語った。

三木谷によれば、PinterestとVikiの最大の差は、Pinterestはアメリカに重点を置くアメリカ企業であるのに対して、Vikiはグローバル化を目指す企業だという点にある。「われわれは世界の数多くの国に進出中だ。楽天のビジョンは楽天市場を全世界に広げることだ。そのためには多数の言語への翻訳がきわめて重要な課題になる。Vikiのクラウド翻訳テクノロジーは、字幕だけでなく、eコマースでも利用価値が高い。それが楽天がVikiを買収した大きな理由だ。われわれはビデオのことだけ考えていたわけではない」と三木谷は語った。

〔VikiのサービスについてはこちらのTechCrunch Japan記事参照。〕

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+