“人”を軸にイノベーションが生まれるエコシステムの構築へ、スローガンが1.9億円を調達

スローガンの経営陣と投資家陣。前列右から2番目が代表取締役社長を務める伊藤豊氏

人材採用支援を軸に、新産業を生み出すエコシステムの構築を目指すスローガンは4月24日、XTech Ventures、ドリームインキュベータ、一般社団法人RCFを引受先とした第三者割当増資により総額で1.9億円を調達したことを明らかにした。

2005年の創業期よりベンチャー企業の採用支援をメインの事業としている同社だが、近年は若手経営人材向けのコミュニティメディア「FastGrow」やフィードバックに特化したクラウドサービス「TeamUp」など新たな事業にも取り組んできた。

同社の目標はこれらのサービスを繋ぎ合わせることで、新産業やイノベーションが生まれるエコシステムを作ること。スローガンで代表取締役社長を務める伊藤豊氏いわく今回の調達は「共創パートナーを増やすことが大きな目的」で、調達先との連携も見据えながら事業を加速させていきたいという。

なお先に開示しておくと、僕は2011年から2012年にかけて数ヶ月ほどスローガンの京都支社で学生インターンとして働いていたことがある。

2016年の外部調達を機に単一事業からの脱却へ

現在もスローガンの核となっているのが、スタートアップやベンチャー企業などの新産業領域に対して人材を供給する採用支援事業だ。

Goodfind」ブランドを中心に学生インターンから新卒採用、中途採用までの各層でサービスを展開。人材紹介に加えてメディアやイベント、コンサルティングを通じて事業を成長させてきた。

僕がインターンをしていたのもまさにそんなフェーズだったので、ベンチャー企業の採用支援に注力している人材系ど真ん中の企業という印象が強い。少なくとも当時はベンチャーキャピタルなどから出資を受けてエグジットを目指す「スタートアップ」のイメージはなかった。

そんなスローガンにとって1つの転機とも言えるのが2016年8月に実施した初の外部調達だ。

「ベンチャー向けのHR事業という単一領域で約10年にわたってサービスを展開していたが、本気で『新事業創出エコシステムを構築すること』を目標に掲げるのであれば、そもそも自分たち自身が新事業を作れないとダメだという考えもあった。外部から資本を入れることで経営体質を変え、会社として本格的にギアチェンジをしていくきっかけとなったのが2016年の資金調達だ」(伊藤氏)

その際はエス・エム・エス創業者の諸藤周平氏が立ち上げたREAPRA Venturesのほか、社員持株会や数名の個人投資家から1.4億円を調達。そこから既存事業のアップデートに加え、別軸の新サービスが複数生まれることになる。

HR領域のSaaSやコミュニティメディアが成長

フィードバックの仕組みを変えるTeamUpはまさに前回のファイナンス以降にリリースされたプロダクトだ。

もともと社内でインターン生のマネジメントをしていた中川絢太氏が一度会社を離れ、再度戻ってきた際に自身が感じていた課題を解決するツールとして立ち上げたのがきっかけ。スローガンでは同サービスの運営に特化した新会社チームアップを2016年10月に設立し、起案者でもある中川氏が代表を務める。

「(中川氏のアイデアと)当時会社として抱えていた問題意識がちょうど合致した形。採用支援を頑張ってクライアントが優秀な人材を採用できたのは良かったけれど、それ以降のフォローや人材育成のサポートまでは十分にやりきれていないという課題を感じていた」(伊藤氏)

プロダクトとしては360度フィードバックと1on1ミーティングにフォーカスしたニッチなSaaSで、目標管理やOKRの要素を入れる話も出たが、それを捨てて機能を絞り込み開発してきた。スプレッドシートやエクセルに記録していたような情報をクラウド上で効率的に管理できる仕組みを提供することで、営業開始から1年半の間に有料課金社数が100社を超えるところまで育ってきているそうだ。

同じく2017年4月にスタートしたFastGrowも独立した事業部で社内スタートアップ的に運営している。

若手経営人材向けにスタートアップやイノベーションに関する題材を扱った取材記事や考察記事を配信。コンテンツを届けるメディアとしての役割をベースにしつつも、コミュニティとして会員向けのイベントなども定期的に実施している。

最初はてっきりGoodfindにユーザーを送客するためのオウンドメディア的にスタートしたのかと思っていたのだけど、当初から1事業としてグロースさせる目的でスタート。企業がスポンサードする記事広告や有料イベントなどを通じてビジネスとしての土台は積み上がってきているそうで、すでに単月では黒字化も達成しているという。

投資家のXTechともFastGrowを通じて関係性を深めてきたそうで、1月には起業家向けのブートキャンプを実施。1泊2日で13万円の合宿費用がかかる本格的なイベントだが、なかなかの反響だったようだ。

「もともとスローガン自体がベンチャー領域を対象に、マス向けというよりもある程度限られた層の企業・人材に対してどれだけ質の高いサービスを提供できるか追求してきた。FastGrowに関しても根本は変わらない。すでにメディア自体はいろいろなものがあるので、立ち位置を明確にするためにもニッチな層に対して良質なコンテンツを届けることを重視している。最初は本当に事業として成立するのかという声もあったが、思っていた以上に軌道に乗っている」(伊藤氏)

パートナーとの連携で新産業創出エコシステムの強化目指す

前回ラウンドから約2年半、社内で新規事業の創出に向けて取り組んできたことが徐々に成果に結びつき始めた中での今回の資金調達。スローガンでは調達した資金やパートナーとの連携も通じて、新産業が生まれるエコシステムの強化に向けた取り組みを加速させる。

創業時から手がけてきた採用支援領域(キャリアマッチング創出)を軸にしつつも、イノベータ人材自体を増やすための場所としてFastGrowにさらに力を入れる。また企業内でのイノベーションを支えるサービスとしてTeamUpを含む複数プロダクトを手がけていく計画だ。

基本的には上の図の右側にはTeamUp同様に特定のシーンに合わせたプロダクトが複数マッピングされるようなイメージ。反対に左側の部分ではたとえば「FastGrow ◯◯」のような形で、事業を拡張していく構想を持っている。

伊藤氏の中では将来的にFastGrowが1つの大きな基盤に育っていく考えのようで、このコミュニティをより強固なものにしていきたいとのこと。中長期的には月額課金制の有料コミュニティやスクール、法人向けの研修など、オンラインとオフラインを融合させたサービスも検討する。

また複数事業の共通基盤として、Goodfindを始め各サービスで蓄積されたデータや知見を基にイノベータ適性を可視化できるテクノロジーの研究開発も進める方針。研究開発ラボのような機関の設立も考えているようだ。

「Goodfindは就活時や転職活動時など、その時々で使うユーザーが多い。一方でFastGrowはユーザーと日常的に接点を持ち続けられるコミュニティとしてポテンシャルが高いと思っている。現時点では人材採用領域が売上のほとんどを占め、ようやく他の事業が育ち始めた段階。ただ新産業創出エコシステムの構築に向けて、前回の調達から確実に前進できている」(伊藤氏)

今回同社に出資するXTech Venturesやドリームインキュベータのインキュベーション部門は起業家やスタートアップだけでなく、大手企業とのネットワークも豊富。社会事業コーディネーターとして活動するRCFは政府や自治体、大学との繋がりもある。

「本当の意味で新産業創出のエコシステムを作っていく上では、大企業やパブリックセクターと連携していく必要がある。(今回の調達先は)スローガンに足りないパーツを持っているので、その力を借りながら雇用市場における社会課題の解決やイノベーションの創出に取り組んでいきたい」(伊藤氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。