SecretやWhisperといった匿名アプリケーションが大流行だ。これは考えてみれば「当然」のこととも言えそうだ。主要なソーシャルネットワークが、実名の利用を求めたり推奨したりする中、そうした流れに対して出てきた当たり前の反応であると考えることができると思うのだ。
「実名」推奨の潮流がもたらしたのは、気の抜けた、キレイ事ばかりを共有する風潮であると考える人もいる。誰もがいつもハッピーで、Instagramにぴったりの風景の中でバケーションをとる。子供がいればもちろん子供はいつも笑っていて、赤ん坊は最高に可愛い。楽しい時間は無限に続いていくという様子がネットワークに溢れることとなった。わざわざ言い争いをしたいと思う人はほとんどおらず、言いたいことがあっても「不適切だ」として本音を隠す。そして空港やビーチ、あるいはパーティー会場からの写真を投稿して、幸せを演出して過ごすわけだ。
実のところ、こうした「実名制」の流れができたのは最近のことだ。ネットワーク上では匿名で行動できるというのが以前の常識だった。しかしいつの間にか、内緒で行っていると思っていたコミュニケーションも誰かに傍受されているという時代になってしまっている。NSAだけでなくGoogleや、広告配信サービスなどが、さまざまな情報を収集しようとやっきになっている。
自らの行動がトラッキングされていると知れば、たいていの人は無意識にせよ自らの振る舞いに気を使うようになる。友人や家族が、自分の行動のすべてを知っているとなれば、投稿する写真などにも配慮するようになり、発言内容も吟味するようになるのが普通だ。
そうした部分に注目して、逆を行こうとしたのが匿名アプリケーションだ。「ソーシャル」から煩わしさを取り去って、楽しい部分だけを抜き出そうとする意図があるわけだ。他人の反対意見を気にせずものが言えるようになるし、いつも楽しいバケーションじゃなく、嫌な仕事があるということも書き込むことができる。憂鬱に感じたこと、病気のこと、下品な話やシモネタなども自由に投稿することができる。そしてその投稿に対する、やはりストレートな反応を期待することができるわけだ。
もちろん自由度が増すことによるマイナスもある。たとえば学校の中で、外見上はとてもおとなしい子が、ネット上ではひどいいじめっ子に変貌するということもある。また有益な議論がノイズに邪魔されることも多いだろう。誰もがトラブルに巻き込まれてしまう可能性も増える。こういうことに対してはきちんと(Yik Yakなどのアプリケーション開発者も含めて)対応策を考えておく必要があるだろう。問題になったサービスを閉鎖するという、付け焼刃的対応で済む問題ではないはずだ。
ちなみに、匿名アプリケーションであれば、何をしても個人が特定されないと考える人がいるなら、それは誤解だ。利用者が「ホンネ」を投稿していることから、一般的なSNSなどよりも多くの個人情報を得ているともいえる。直接的にではないにせよ、匿名アプリケーションも個人の情報を利用することで利益をあげようとしているのだ。もちろんサービス側から「秘密を漏らすぞ」などという強迫行為がなされる可能性は少ないだろう。しかし「秘密にしたい個人の情報」こそマネタイズに利用される可能性があるということも意識しておきたい。
現在、4chanなどの匿名掲示板はちょっと使いにくいという人にも、匿名アプリケーションを使う人は多い。少し前のようにネット上の「匿名文化」を楽しんでいる人も多いのだ。いじめやガセ情報などに振り回されることがあっても、「自由」を感じることができるのが魅力なのだろう。GoogleやFacebookなどは、オンライン上でもしっかりとしたアイデンティティを確立し、フィードへの投稿にも気を配って欲しいと考えている。そちらの考えにも一理ある。しかし、当然にそうした考えに対抗する動きも生じてくることになるわけだ。
匿名アプリケーションが人気を集めるのが現段階だ。ここからどのような未来につながるのか、注目していきたい。
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(翻訳:Maeda, H)