MITの匿名ネットワーク通信プロトコルRiffleはTorの長年の王座を揺るがすか

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Torはこれまでずっと、匿名通信の定番的なサービスだった。しかし、だからこそTorは、NSAやFBIにとっておいしいターゲットのひとつだった。でも、今度MITで作られた新しい匿名化プロトコルは、こんな、金も権力もたっぷりある攻撃者に対して、Torよりももっとしなやかで強いかもしれない。

Torの問題は、敵がネットワーク上の十分にたくさんのノードにアクセスできれば、パケットがどこをどう辿って来たかを、調べられることだ。通信の内容は分からなくても、パン屑をたどることによって、最初の送信者を突き止められるだろう。少なくとも、理論的には。

そこでMITの院生Albert Kwonが率いるチームはスイスのEPFL(国立工科大学)と協働して、Torの匿名化技術を跳び越えるためのまったく新しいプラットホームRiffleに取り組んでいる。

Kwonはこう言う: “Torは攻撃の隙(すき)を作らないため、レイテンシーをできるかぎり低くしようとしている。Riffleのねらいは、できるだけ多くのトラフィック分析に対して、抵抗性を持たせることだ”。

Torは”The Onion Router”(玉ねぎルーター(router, 経路作り))の頭字語で、メッセージをまるで玉ねぎのように複数の暗号化層で包む。Riffleはこれに加えて、攻撃者を困らせるための二つの方法を導入している。

まず、受信したメッセージの順序をサーバーが変えて次のノードに渡す。そのようにして、メタデータを利用して入信と送信のパケットを調べようとする行為を、妨害する。

また、本物のメッセージをダミーに置き換え、それを追ってターゲットを捉えようとする悪質なサーバーを、二段階で防ぐ。まずメッセージは、一つではなく複数のサーバーへ送られる。そして、送信メッセージを、そのサーバーが受信したメッセージであることを証明できるための、それ単独で真偽を検証できる数学的証拠で署名する。このようにすると、メッセージに手を加えたサーバーを一度に見抜くことができる。

これらのテクニック…mixnetsdining-cryptographerネットワーク(DCN)…はどちらも前からあるが、深刻な欠陥が両者の採用を妨げていた。二つを同じシステムで使うなんて、ましてや…である。DCNはスケーラビリティがなくて帯域を大食らいする。mixnetsが必要とする証明は、計算が高価すぎて低いレイテンシーを維持できない。

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Kwonらのチームは、これらの弱点を避けることのできる実装方法を考案した。その技術的詳細はこのペーパー(PDF)に載っているが、そのキモは、公開鍵と秘密鍵(対称鍵)を併用することだ。それは、Webで使われているやり方と、あまり変わらない。

古い技術をこのように変えることによって、それらを実装したネットワークはアクティブとパッシブの両方の攻撃に耐性を持つだけでなく、スケーラビリティもよくて、処理時間も多くない。彼ら研究者たちの推計では、数百名のユーザーによるファイル共有が理論値で100KB/s、マイクロブログのように帯域集約的ではない使い方では、10万名のユーザーを10秒未満のレイテンシーで扱える。

Kwonによると、開発と試行に利用したのはギガビットLAN上の3台のサーバーだが、意外にも、サーバーを増やすと、ある面では性能が低下した。

“サーバーが多ければセキュリティは増すが”、とKwonは書いている。“しかしながら、パフォーマンスの点では、すべてのメッセージがすべてのサーバーを経由するのだから、サーバーが少ない方がよい”。

このプロトコルは、普遍的で大きなグローバルネットワークよりも、小さなセキュアなネットワークがねらいだが、でもほとんどの国や地域社会で、匿名ノード10万は十分な数だろう。

Riffleのダウンロード可能なバージョンはまだないが、Kwonによると、現状はプロトタイプだから、公開するためにはまずコードの掃除が必要、ということ。商用化の計画はないし、Torを置換する気もない。もちろん、ある面では、Torよりもずっと優れているのだが。

TorとRiffleの両者について、“設計目標は互いに排他的(両立しない)面もあるが、しかし一方ではそれらは互いに補完的でもあり、Riffleのセキュリティと、Torの大きな匿名集合の両方を利用できる”、とKwonは書いている。

Kwonのサイトをときどき覗いて、今後のアップデートに注目したい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Facebookの匿名アプリは、荒らしやスパマーを撲滅できるか

モグラたたき。匿名コミュニティーにおける、荒らし、いじめ、スパマーとの戦いは、往々にしてそうなる。削除してもすぐに新しいアカウントを作る。その人が誰であるかをFacebookが知っているという事実が ,来たるべき匿名アプリの鍵である理由はそこにある。

他のユーザーに対しては匿名でいられるが、背後にあるFacebookアカウントがならず者を追跡し排除できる。Facebookは、その反対命題の力を得て、匿名性のもつ潜在力を活用することで、人々が心を開き弱さを見せられる場を作ろうとしている。

そもそもFacebookの価値は、あなたが誰であるかを知っていることにあった。MySpaceの長年にわたる疑似匿名性は、オープン性を育くむと共に、誰が何を言っているのかわからないという決定的な不信感を生み出した。実名の使用を要求し、大学のメールアドレスによってそれを認証したFacebookのやり方は、真正アイデンティティー時代の先がけとなった。

これによって、礼儀にかなった議論ができるようになった。人々はそのコメントや振舞いに責任を持つことができる。人は自分の評判がかかっていると、いじめ、荒らし、スパム、性差別、人種差別、同性愛嫌悪、脅迫、等々の破壊的行動に出ることは少ない。その結果、たとえ二極化するような話題でさえ理性的議論可能になる。

やがてFacebookは、埋め込み可能かコメントウィジェットを作り、他のブログやウェブサイトにも、個人認証付きコメント欄を導入した。これは効果を発揮した。TechCrunchでも、Facebookのコメントシステムに切り替えたところ、明らかにゴミが減った。

しかし真正の認証は、礼儀にかなっていても議論を呼ぶような、不人気で自分の名前とはひも付けさたくない意見を抑制する。あるいは、医療、性的、人間関係、宗教などの繊細あるいはごく個人的な話題にも参加しにくい。残念なことに、それこそが、荒らしやヘイトスピーチに影響されやすいタイプの議論なのだ。

つまり匿名性は、脆弱な発言を可能にすると共に議論の崩壊を呼び、一方本物の認証は、セーフガードになると共に心を開いた議論を妨げる。、

Facebookの匿名アプリは、両者のいいとこ取りができる可能性を持っている。New York TimesのMike Isaacは先週、Facebookがハンドル名による議論が可能なアプリを近々公開するらしいと報じた。Facebookで開発チームを率いるプロダクトマネージャー、Josh Millerも、同社がその種のアプリを開発中であることを認め、しかもそれが単なる匿名アプリにはとどまらないと話した。

これは初の試みではないが、恐らく装備は最強だ。例えば、匿名アプリのSecretは、ユーザーを電話番号で認証する。このため、追放されたユーザーは単にアプリを削除、再インストールして新しいアカウントを作るということができない。これは、電話番号をもう一つ取らなければ、という意味であり,金銭的動機付けのあるベテランの荒らしやスパマーにとっては難しいことではない。

ここでFacebookの持つ可能性は膨大だ。なぜなら、誰かが本物であるかをチェックするための、極めて偽装が困難な方法を持っているからだ。それは友達の人数。

Facebookは、長年にわたり、偽プロフィールと偽友達リクエストの排除に努めてきた。その結果、偽アカウントが本物のユーザーである友達を一定人数集めることは、かなり難しくなった。しかも時間がかかる。この手間と時間は悪行を抑止する。

私が想像するFacebookの礼儀正しい匿名議論アプリはこんな感じだ。

ユーザーは既存のFacebookアカウントと、おそらく電話番号を使ってサインアップする。Facebookはそのプロフィールが、一定の正当性、例えば友達15人以上、Facebook登録後数ヵ月以上等の条件を満たしているかどうかをチェックする。アプリの中では、ユーザーは他人に対して完全に匿名あるいはハンドル名で扱われる。Facebookだけが、背後に誰がいるかの秘密を知っている。

もしユーザーが、他のユーザーから迷惑であると通報されると、Facebookはアカウントを停止することができる。そして、再度サインアップするためには別の正当なアカウントが必要になり、それは一夜にして作れるものではない。よって悪党共は締め出される。

もうモグラたたきは起きない。

これは、紙の上ではすばらしいが、一つ大きな問題がある。ユーザーがFacebookを信頼しなければならないことだ。プライバシー設定の度重なる変更、Beacon、危険なデフォルト設定、さらにはFacebookの、ユーザーの保護よりも「世界をもっとオープンでつながったものにする」という認識に対する疑念。

そのすべてがここへ来てFacebookにはね返ってくる。自分の匿名の議論をFacebookアカウントにひも付けすることに、人々は懸念を感じるかもしれない。たとえ誰にも素性はわからないと約束されていても。

この不信感は、Facebookがその匿名アプリで何をする場合にでも、成長の大きな妨げになる。f8カンファレンスで発表した、Secret同様電話番号のみを使用する新匿名ログイン機能を使うかどうかは不明だが、議論を呼ぶ話題や秘密の内容を、Facebook支配下のサービスで話すことに、ユーザーはやはりまだ抵抗を感じるだろう。

Facebookの挑戦は、人々が懐疑心を捨てサインアップする気になるだけの価値を持つアプリを作ることにある。もしできれば、共感を生み理解を共有できる親密な議論の場が作られる。もしできなければ、ことプライバシーに関して、因果は必ず巡ってくることの決定的証拠が得られるだろう。

[Image via PSU]

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


「匿名アプリケーション」は、「本来の自分」を取り戻す手段となるか?!

SecretWhisperといった匿名アプリケーションが大流行だ。これは考えてみれば「当然」のこととも言えそうだ。主要なソーシャルネットワークが、実名の利用を求めたり推奨したりする中、そうした流れに対して出てきた当たり前の反応であると考えることができると思うのだ。

「実名」推奨の潮流がもたらしたのは、気の抜けた、キレイ事ばかりを共有する風潮であると考える人もいる。誰もがいつもハッピーで、Instagramにぴったりの風景の中でバケーションをとる。子供がいればもちろん子供はいつも笑っていて、赤ん坊は最高に可愛い。楽しい時間は無限に続いていくという様子がネットワークに溢れることとなった。わざわざ言い争いをしたいと思う人はほとんどおらず、言いたいことがあっても「不適切だ」として本音を隠す。そして空港やビーチ、あるいはパーティー会場からの写真を投稿して、幸せを演出して過ごすわけだ。

実のところ、こうした「実名制」の流れができたのは最近のことだ。ネットワーク上では匿名で行動できるというのが以前の常識だった。しかしいつの間にか、内緒で行っていると思っていたコミュニケーションも誰かに傍受されているという時代になってしまっている。NSAだけでなくGoogleや、広告配信サービスなどが、さまざまな情報を収集しようとやっきになっている。

自らの行動がトラッキングされていると知れば、たいていの人は無意識にせよ自らの振る舞いに気を使うようになる。友人や家族が、自分の行動のすべてを知っているとなれば、投稿する写真などにも配慮するようになり、発言内容も吟味するようになるのが普通だ。

そうした部分に注目して、逆を行こうとしたのが匿名アプリケーションだ。「ソーシャル」から煩わしさを取り去って、楽しい部分だけを抜き出そうとする意図があるわけだ。他人の反対意見を気にせずものが言えるようになるし、いつも楽しいバケーションじゃなく、嫌な仕事があるということも書き込むことができる。憂鬱に感じたこと、病気のこと、下品な話やシモネタなども自由に投稿することができる。そしてその投稿に対する、やはりストレートな反応を期待することができるわけだ。

もちろん自由度が増すことによるマイナスもある。たとえば学校の中で、外見上はとてもおとなしい子が、ネット上ではひどいいじめっ子に変貌するということもある。また有益な議論がノイズに邪魔されることも多いだろう。誰もがトラブルに巻き込まれてしまう可能性も増える。こういうことに対してはきちんと(Yik Yakなどのアプリケーション開発者も含めて)対応策を考えておく必要があるだろう。問題になったサービスを閉鎖するという、付け焼刃的対応で済む問題ではないはずだ。

ちなみに、匿名アプリケーションであれば、何をしても個人が特定されないと考える人がいるなら、それは誤解だ。利用者が「ホンネ」を投稿していることから、一般的なSNSなどよりも多くの個人情報を得ているともいえる。直接的にではないにせよ、匿名アプリケーションも個人の情報を利用することで利益をあげようとしているのだ。もちろんサービス側から「秘密を漏らすぞ」などという強迫行為がなされる可能性は少ないだろう。しかし「秘密にしたい個人の情報」こそマネタイズに利用される可能性があるということも意識しておきたい。

現在、4chanなどの匿名掲示板はちょっと使いにくいという人にも、匿名アプリケーションを使う人は多い。少し前のようにネット上の「匿名文化」を楽しんでいる人も多いのだ。いじめやガセ情報などに振り回されることがあっても、「自由」を感じることができるのが魅力なのだろう。GoogleやFacebookなどは、オンライン上でもしっかりとしたアイデンティティを確立し、フィードへの投稿にも気を配って欲しいと考えている。そちらの考えにも一理ある。しかし、当然にそうした考えに対抗する動きも生じてくることになるわけだ。

匿名アプリケーションが人気を集めるのが現段階だ。ここからどのような未来につながるのか、注目していきたい。

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(翻訳:Maeda, H