「愛されよう、100人にだけでもいいから」–Airbnbのたった1つの海外戦略

Airbnbで北欧・アジア太平洋地域のマネージング・ディレクターを務めるOle Ruch氏

11月11日、12日に開かれたイベント「TechCrunch Tokyo 2013」のゲストの中でも最も急成長を遂げたのが、家の空き部屋を提供する人と、宿泊場所を探す人をマッチングするサービス「Airbnb」だ。

2008年に創業者が自分のアパートに人を泊めたことから始まったAirbnbは、現在までに全世界で累計900万人のゲストを宿泊させ、各都市に多くの利益をもたらした。

そんな成長企業で北欧およびアジア太平洋地域のマネージング・ディレクターを務めるOle Ruch氏が、Airbnbがどのようにして世界で使われるサービスになったかを語った。

「Airbnbはもともと非常にシンプルな形で始まった」とOle氏は言う。サンフランシスコに一緒に住んでいたジョーとブライアンという共同創業者が、家賃の支払いに困って、自分たちの家の一角を旅行者に貸し出したのがきっかけだった。

たまたまサンフランシスコで大規模カンファレンスが開催されていたため、周囲のホテルはすべて満室。彼らはエアーマットレスを買い込み、宿泊者を募集するサイト「エアーベッドアンドブレックファスト」を立ち上げた。

ユタ州から来た3児の父親、女性デザイナー、インドの大学院の学生という3人が最初の宿泊客だったそうだ。「この3人の宿泊者が、それまでの“人の家に泊まるという概念”を変え、創業者の考え方を変えた」とOle氏は語る。

創業者たちはこの3人をサンフランシスコのさまざまな場所に案内し、お気に入りのカフェに招待し、そして1000ドルの収入を得た。最後に宿泊客から「このようなサービスを他の都市でも使えるようにしてほしい」と請われた。それがAirbnbの始まりとなった。いまではアパートに1晩泊まるのはもちろん、お城に1週間でも、別荘に1カ月でもあらゆる条件の施設がAirbnbで予約できるという。

「これは非常にグローバルなコミュニティです。我々の信念とは、“最善の旅行体験は、ローカルな人と一緒に滞在すること”というものです。そのホストが街を案内し、どこに行くべきか、何をすべきかを教えてくれます。このAirbnbのようなシェアリングエコノミーが、この世界を転換しようとしています。どのように資産を持ち、そして消費をするのかという考え方が変わってきているのです」(Ole氏)

Airbnbは最初の宿泊客を迎えてからわずか1年後の2009年には、米国のほとんどの主要都市で知られるようになった。世界中から米国に集まってくる旅行者がAirbnbを利用し、また地元に戻った時に口コミで広げた。噂を聞いた旅行者が同じようにAirbnbで新しい旅行体験をするというサイクルがまわっていたという。

旅行者としてAirbnbを使うだけでなく、自分でホストになりたいと考える人も世界中に広がっていった。Ole氏はこう説明する。「たとえばニューヨークのホストがお気に入りのバーや公園、カフェなんかに案内してくれたとする。ゲストはそこで素晴らしい体験をし、そして旅行から帰った後、地元の街で自分たちのコミュニティを形成し始めたのです」。

このようにしてゲストとホストは急拡大。2012年には世界中に50万件もの登録物件を抱え、そして3万5000都市、192カ国で使われる国際的なサービスに成長した。Airbnbで予約可能な城の数はなんと500に上り、ボートといった変わった物件も登録されているという。

Airbnbで宿泊した累計ゲスト数は2011年1月には400万人だったが、2013年にはさらに400万人が増えた。そして現在では900万人に到達している。Ole氏は、「こうした膨大な数のホストとゲストは、そのコミュニティ自体に大きな影響を与えることになる」と述べる。

Airbnbで宿泊した累計ゲスト数の推移

「Airbnbの宿泊施設は都市の中に広く分散しています。そこで我々が調べたところ、Airbnbの利用者は滞在地域の中で消費をすることがわかった。近所でパンを買ったり、夜は近くのバーに行ったりする。これはローカルコミュニティとビジネスにとって非常に重要です。パリでは2013年は2億4000万ドルの経済活動に貢献した。シドニーでも2013年だけで2億ドル近くの貢献を行っています」(Ole氏)

一般人であるホストたちも恩恵を受けている。シドニーの場合、ホストは2013年に平均して4500オーストラリアドル(日本円で約42万円)の収入を得ることができたという。こうして収入を得て、自分たちの住宅ローンを払ったり、あるいは自分たちの事業を始める人もいるそうだ。

「でも最も重要なのは、そこで構築される関係だ」とOle氏は強調する。一緒に食事をし、時間を過ごし、宿泊することでもたらされる人間関係こそ財産であると言う。

Ole氏の初めてのAirbnb経験はコペンハーゲンでの出張の時だった。Airbnbで見つけたホストに対し、コペンハーゲンに出張で行くので止まらせてほしいとメールしたところ、ホストの5歳と7歳の子どもたちと一緒に過ごすことを条件に予約が取れたという。

「ある日、仕事から戻って、一緒に食事をしていると、子どもたちにいろいろな質問をされた。どんな仕事をしているのか、どこから来たのか、次はどこに行くのかと。私の話をしたら彼らは非常に喜びました」(Ole氏)

Ole氏は夕食の後、ホストである母親からお礼を言われたそうだ。そしてなぜAirbnbでホストをしているのか尋ねた。

彼女の答えはこうだった。「私は子供がいるのでもう旅行することができない。でも母親として子どもたちが異なる文化に触れる機会を作りたい。Airbnbによってゲストが世界中から家に訪ねてきてくれる。たとえば先週は香港からゲストがきた。来週はイタリアから人が来る。5歳と7歳の子どもにとっては世界中の人達と一緒にストーリーを共有できる素晴らしい体験になるんです」。

Airbnbが米国外から世界に展開しつつあった2011年頃、初めて競合他社が現れた。そこで彼らがとった戦略はアンバサダーマーケティング。つまり“伝道師”になることだった。

「競合他社の存在は不思議な感覚だった。我々はできるだけ最高の経験を子どもたちにも提供したいと考えていたが、競合はお金を儲けたいという意思だったようだ。だから我々はそこで長期的な戦略を選んだ。お金が目的の“傭兵”になるのではなく、“伝道師”になろうと考えた。やはり長期的には伝道師の方が勝つ」とOle氏は当時の選択を振り返る。

ゲストとホストを結びつけるためのサイトを提供し続け、旅行者と子どもたちに最高の体験を提供し続けることに集中したという。創業者が当時話していた言葉をOle氏が紹介した。

「何百万もの人にちょっと好かれるよりも、100人に本当に愛されよう」。

これがAirbnbのやり方だった。「その100人の心が掴めれば、彼らがアンバサダーになって、Airbnbの代弁をしてくれるわけです。だから我々の国際的な拡張戦略というのは、『すべての都市でAirbnbを大好きになってくれる人を見つけようということ』だけでした。これはかなり汎用なソリューションだと思う」とOle氏は語る。

日本でも伝道師として愛される存在になろうとしている。日本進出にあたってはさらに「ホスト保証」として8000万円を準備した。これはホストの自宅に何か起き場合、Airbnbが保証するというものだ。

「日本には素晴らしいチームもいる。彼らは本当にユーザーと実際に対面して、Airbnbを愛してくれる人を100人見つけようとしている。Airbnbはまだ日本で始まったばかり。とてもワクワクしている。日本の方々もグローバルな旅行の体験を得られると思う」(Ole氏)


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。