20年前、私たちの多くは「シェアードマイクロモビリティ(共有型の小型移動手段)」という言葉を聞いたことはなかったし、ましてやそれがより健康的で公平なコミュニティを発展させるためのツールであるとは考えもしなかった。
しかし、2020年現在、北米の200以上の都市では、少なくとも1つのシェアードマイクロモビリティシステムが運用されており、合計16万9000台の車両が利用されている。この業界が成長するにつれ、人の移動手段のような一見小さなものでも、生活の質に大きな影響を与えるということを多くの人々が認識するようになった。
最近、マイクロモビリティが果たしている役割の中で、最も驚くべきものの1つは、人種的正義への取り組みやイベントのサポートだ。
North American Bikeshare & Scootershare Association(北米バイクシェア&スクーターシェア協会)の2020年シェアードマイクロモビリティ業界の現状レポートによると、代理業者や運営機関は、デモ参加者がイベントに参加するために無料または割引で移動手段を提供し、多くが人種的正義を訴える非営利団体に寄付や募金を行ったという。
重要なのは、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包含)への関心が高まったことで、至らない点がさらに浮き彫りになり、業界全体の組織改革につながったことだ。例えば、シェアードマイクロモビリティを運営する企業の71%が、2020年には多様性の観点がすべての採用決定の要素に含まれていると述べ、69%が、組織のすべてのレベルで女性と有色人種の社員が管理職を勤めていると報告している。
もちろん私たちはみんな、まだ望んでいる状態、あるいはあるべき状態には到達していないことを理解している。しかし、これらの指標は、彼らの意思を表しており、シェアードマイクロモビリティ業界におけるエクイティ、ダイバーシティ、インクルージョンの改善に向けた進歩を示している。
シェアードマイクロモビリティの業界では、低所得者向けの割引プログラムの提供や、身体能力の異なる人のための柔軟な車両の提供など、サービスを提供するコミュニティのニーズに合わせて、ポリシーやその実践を継続的に適応さえてきているが、移動というのはすべての人における権利であるということを理解している。
それ以上に、代理業者や運営機関は、人々やコミュニティがより健康的な習慣を身につけるために、アクティブな移動手段を提供することの重要性と、それが最終的には経済的、社会的、環境的にプラスの効果をもたらすこととなることを認識している。
2020年には、シェアードマイクロモビリティを利用したことで、北米の人々は1220万時間も多くの身体活動を行い、結果的に約2900万ポンド(約1,315万kg)の二酸化炭素削減に繋がった。
さらに、コロラド州立大学の研究者は、平均的な年では、バイクシェアの利用者によって米国の医療機関は3600万ドル(約39億5500万円)以上節約したと計算している。また、別の研究では、スクーターの利用者が、飲食店でスクーター1台あたり921ドル(約10万円)の予定外支出を行ったと結論づけている。
コミュニティの利益を最大化し、真の機能的な都市を構築するためには、シェアードマイクロモビリティを公共交通ネットワークの一部として考慮する必要がある。多様型通勤手段はより一般的になってきており、都市部の移動者にも多く求められている。2020年には、利用者の50%が公共交通機関への接続にシェアードマイクロモビリティを利用したと報告しており、同年に利用された8340万回のシェアードマイクロモビリティによる移動のうち16%が公共交通機関への接続を目的としたものだった。シェアードマイクロモビリティのオープンデータ標準であるGBFS(General Bikeshare Feed Specification)の使用と必要性が増えてきているのは、統合型移動手段のユーザー体験の重要性がより高まっていることを明らかにしている。
シェアードマイクロモビリティは、十分に活用されれば、都市をより良い方向に変えてくれる強力なツールだ。都市、州、省、国が公平性や社会問題、気候変動の問題に直面している今こそ、変革のための重要な要素として、シェアードマイクロモビリティに取り組む必要がある。
編集部注:本稿の執筆者Samantha Herr(サマンサ・ハー)氏は、North American Bikeshare & Scootershare Associationのエグゼクティブ・ディレクターで、2012年からマイクロモビリティの分野で活躍している。Destinie Hammond(デスティニー・ハモンド)氏はNorth American Bikeshare & Scootershare Associationのコミュニケーションマネージャーで、以前はJUMP by Uberのコミュニティ・エンゲージメント・マネージャーを務めていた。
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画像クレジット:Westend61 / Getty Images
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(文:Samantha Herr、Destinie Hammond、翻訳:Akihito Mizukoshi)