ロシアとウクライナの戦争が激化する中、暗号資産は海外の寄付者がウクライナを支援するのに不可欠なツールとなっている。このような状況下での暗号資産による募金活動の成功は、暗号資産保有者が慈善活動の目的を支援するためにコインを手放すという、2022年大流行した広範なトレンドを反映している。
世界中の慈善団体が、ウクライナを支援するために暗号資産による寄付を募っている。人気の暗号資産寄付プラットフォームEndaoment(エンダオメント)は、2月下旬の戦争勃発以来、ウクライナを支援する慈善団体が200万ドル(約2億4000万円)超を集めたと明らかにした。また、別の暗号資産非営利プラットフォームThe Giving Block(ザ・ギビング・ブロック)もすでに150万ドル(約1億8000万円)もの暗号資産による寄付を受けており、キャンペーンのウェブページによると、United Way Worldwide(ユナイテッド・ウェイ・ワールドワイド)やSave the Children(セーブ・ザ・チルドレン)などさまざまな認定非営利団体を支援するウクライナ緊急対応基金に2000万ドル(約24億円)を暗号資産で集めるキャンペーンを3月19日に発表した。
暗号資産を寄付のツールとして活用しようとしているのは、非営利団体だけではない。主要な暗号資産取引所との提携の詳細を説明している新しいウェブサイトによると、ウクライナ政府はすでにBitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、Tether(テザー)、Polkadot(ポルカドット)、その他の暗号資産で5400万ドル(約64億円)超を集め、主に軍資金として活用している。ウクライナ政府のデジタル変革省は、暗号資産を通じて寄付を呼び込む取り組みの先頭に立っており、新しいパートナー企業はこれらの寄付をフィアット通貨に換えてウクライナの中央銀行に送るのを支援するとウェブサイトにはある。
ウクライナ侵攻は、確かに暗号資産を寄付するきっかけとなったが、この仕組みは2021年にあらゆる種類の慈善活動で人気が急上昇した。
米国を拠点とする501(c)3非営利団体への暗号資産寄付を促進する非営利団体のEndaomentは、プラットフォーム上での寄付額が2021年に25万3000ドル(約3000万円)から2800万ドル(約33億円)へと100倍になった。The Giving Blockも、年次報告書によると、2021年の寄付額が6900万ドル(約82億円)超となり、前年比1558%増と急増した。
こうしたことから疑問が湧く。寄付者はなぜ現金ではなく暗号資産をおくることを選ぶのだろうか。
The Giving Blockの共同創業者でCEOのPat Duffy(パット・ダフィー)氏は、税制優遇措置が重要な動機付けだとTechCrunchに語った。
「もしあなたが何か慈善的なことをしたいと思っていて、価値を認められた暗号資産を持っているなら、その暗号資産は最も税優遇措置を受ける寄付の方法です」とダフィー氏は話した。
米国を拠点とする寄付者にとって、501(c)3団体に暗号資産を寄付する場合と、ウクライナのような外国政府に寄付する場合とでは、大きな違いがある。前者は寄付者に有利な税優遇措置がとられることが多く、後者はそうではない。
法的に認められた非営利団体に現金を寄付すると、寄付者は税控除対象となり、慈善団体に寄付した分だけ支払うべき税金を減らすことができる。暗号資産や株式などの資産を寄付することは、現金で寄付するよりもさらに有益だ。というのも、税控除に加えてもう1つの重要な税優遇措置を受けることができるからだ。
通常、暗号資産保有者が利益を確定するために、価値が上がった後にコインを売却した場合、その利益の最大37%をキャピタルゲイン税として支払わなければならない。しかし、コインを寄付すれば、キャピタルゲイン税を支払う必要はない。この2つの税優遇措置は、デジタル通貨の価値が上がり続けることを期待してできるだけ多くのデジタル通貨を保有したいと考える暗号資産保有者が、現金を寄付する代わりに実際に慈善団体にコインを提供することを望む理由の1つだ。
資産寄付の手段として人気があるのが、ドナー・アドバイズド・ファンドだ。暗号資産やその他の資産、現金を専用口座に拠出することで、即時税控除を受けることができ、時間の経過とともに価値を高めることができる。口座保有者は最終的に自分の裁量で口座内の資金を非営利団体に振り向けることができ、すべての資金をすぐに使用する必要はない。Fidelity(フィデリティ)の慈善寄付部門、Endaoment、The Giving Blockは、暗号資産を受け入れることができるドナー・アドバイズド・ファンドを提供している。
ダフィー氏は、税優遇措置は暗号資産を提供する寄付者の取引を促進かもしれないが、暗号資産による慈善活動の唯一の動機ではないと指摘した。暗号資産の寄付者は、株式や現金を寄付する寄付者よりも多額を寄付する傾向があると付け加えた。
「暗号資産に関わっている人、特に暗号資産を扱い始めたばかりの人は、最先端にいること、世界を変える何かの一部になることに関心を持っています」とダフィー氏はいう。
暗号資産分野のトレンドと同様に、アイデンティティとコミュニティの感覚が参加促進の中心的な役割を担っている。精通した慈善団体は最終的に寄付された暗号資産を使う前にフィアット通貨に変換しているが、この文化的な現象を利用している。
「暗号資産ユーザーのためのスペースをもうける非営利団体は、他の団体を凌駕しています」とダフィー氏は話した。
セーブ・ザ・チルドレンのような大きな非営利団体は、そのリソースと規模から、暗号資産寄付プログラムを構築することができたが、多くの中小規模の慈善団体は、このオプションを追求していない。暗号資産の寄付は、慈善事業全体のごく一部に過ぎない。Giving USAによると、米国の慈善団体は2020年に寄付者から推定4700億ドル(約56兆円)超を受け取った。
米国証券取引委員会のGary Gensler(ゲイリー・ゲンスラー)委員長を含む規制当局は暗号資産が詐欺や不正行為と関連していることを指摘しており、非営利団体は関与することをためらっているのかもしれない。また、暗号資産による寄付の受け入れに対応する技術やインフラが整っていない団体もある。
インターネット上で強固なプレゼンスを持たない零細の非営利団体はときに、暗号資産の受け入れは「宝くじ」のようなものだと考える、とダフィー氏は話した。同氏は、このような考え方に注意を促し、オンラインプレゼンスを持たない非営利団体は、暗号資産の統合を構築する前に「基本に忠実であるべき」だと述べた。
EndaomentとGiving Blockの年次報告書によると、両プラットフォームで2021年最も多く寄付に使われた暗号資産はEthereumだった。Ethereumは、他の暗号資産を抜いて、2021年に両プラットフォームで最も寄付された暗号資産となり、以前から人気のあったBitcoinやChainlinkをも上回った。
暗号資産の寄付はコインだけにとどまらず、NFT(非代替性トークン)の慈善プロジェクトも寄付者の間で人気を博している。例えば、人気NFTアーティストのPplpleasrは、Endaomentのプラットフォームを利用して、自身のアート作品の収益をStand with Asians Community Fundに寄付した。それぞれの年次報告書によると、EndaomentとThe Giving Blockのプラットフォームでは、合わせて約2000万ドル(約24億円)のNFTによる寄付が行われた。
特にNFTは、非営利団体にとって長期的な寄付の流れを生み出す可能性を秘めている。Solana(ソラナ)ベースのNFTマーケットプレイスMetaplex(メタプレックス)は、寄付APIスタートアップChange(チェンジ)との統合により、自社プラットフォームのクリエイターがNFTの販売を通じて定期的なロイヤルティ支払いで事前活動を支援することを可能にしている。
Web3のクリエイターは、NFTの寄付を「自分の作品を通して遺産を残す」機会だと考えていると、Changeの共同創業者Sonia Nigam(ソニア・ニガム)氏はTechCrunchに語った。
「これは、従来の慈善事業ではなく、クリエイターの実用化に関するものです。スマートコントラクト技術によって、インパクトが製品自体に宿り、そして永続的に寄付することができます」とニガム氏は語った。
「NFTのコレクションが始まると、彼らは、例えばすべての二次販売のうち2%を気候変動との戦いにずっと提供するという目標を設定します。そうすれば、再販のたびにクリエイターの初志が失われることはないため、クリエイターにとってエキサイティングなものになります。非営利団体にとっては、定期的な寄付のルートを確保することは常に第一の目標です」。
2021年は暗号資産による寄付が牽引してきたが、特に3月のウクライナ支援のための迅速な資金動員は、暗号資産コミュニティが他のものを支援するための触媒となる可能性がある。
ロシア出身のEthereum共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏は先週、暗号資産投資家Katie Haun(ケイティ・ハウン)氏のチームが主催したTwitterスペースの会話で、最近の支援キャンペーンによって開かれた可能性について語った。
「(ブロックチェーンと暗号資産分野の)本当に中核となる多くの人々は、自由を支持し、より民主的な組織化の方法をサポートし、人々が基本的なものとして平和的に自分の個人的および経済的生活を持つ能力を一般的にサポートしたいと考えてその分野にいると思います」とブテリン氏は述べた。
ウクライナでこうした権利が侵害されるのを見て、暗号資産コミュニティの関心が高まったと同氏は語り、このような意識の高まりは、著名な暗号資産プロジェクトに携わる多くの人がウクライナ人であることが一因だと分析している。
ウクライナを支援するための暗号資産寄付キャンペーンの成功は、暗号資産が「非常に迅速に資金を集めることができるかなり優れた手段」であることを実証したと同氏は付け加えた。
画像クレジット:Bryce Durbin
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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi)