テクノロジーの世界では、ダイバーシティとインクルージョンは後回しにされてきた、あるいはさらに悪いことに考慮されていなかったが、この状況が徐々にゆっくりと動き出した。ダイバーシティとインクルージョンのあらゆる面が注目を集め始めていることを強調するために、米国時間10月27日、デザイナーや開発者が最終的な製品を視覚障がい者にとってアクセシブルにするためのツールを作っているスタートアップが資金調達について発表した。
ニューヨークに拠点を置くスタートアップのStarkは、デザインソフトを使って作業を行うデザイナーなどが自分のファイルをチェックし、異なる色覚特性を持つ人を考慮したガイドラインに合うように色の編集などの提案をするツールを提供している。このStarkが150万ドル(約1億6000万円)を調達した。
Starkは今回得た資金で、広く使われているデザインアプリとの統合を継続し、開発者のための統合も進めていく(コード上でガイダンスを提供する。次に予定されているのはGithubの統合だ)。ビジネス面では価格設定と利用区分を拡大して充実を図る。
現時点では、Figma、Sketch、Adobe XD用のStarkのプラグインで、コントラストチェッカー、スマートカラー提案、8種類の色覚のシミュレーション、色覚特性ジェネレータを利用でき、さらにAdobe XDではすぐにコントラストをチェックできる。
長期的にはエンド・ツー・エンドのプラットフォームを構築し、視覚障がい以外のニーズを包括的に解決する計画だ。また、アクセシビリティは物理的な形でも実現できるためソフトウェア以外についても検討し、自動で詳細を修正する方法も開発する予定だ。
Michael Fouquet(ミシェル・フーケ)氏とともにStarkを創業しCEOを務めているCat Noone(キャット・ヌーン)氏は、リモートワークのため現在はヨーロッパを拠点としている。ヌーン氏は「ソフトウェアのアクセシビリティにおけるGrammarlyになる」ことを強く望んでいるという。
このプレシードラウンドでは、幅広く興味深い支援者から資金を調達した。主導したのはDarling VenturesのDaniel Darling(ダニエル・ダーリング)氏とPascal Unger(パスカル・アンガー)氏、およびIndicator Venturesで、ほかにGithubのCTOであるJason Warner(ジェイソン・ワーナー)氏、Kleiner Perkinsのスカウトファンド、Basecamp Venturesが参加した。個人では、Atlassianのアクセシビリティ担当の製品責任者、Culture Ampのデザイン&インパクトの公平性担当ディレクター、DuckDuckGoのデザインディレクター、Oracleの元ソフトウェア開発担当バイスプレジデントなども支援した。
Starkがこうした投資家からの注目を集めた理由の1つは、その牽引力だ。
同社のソフトウェアの初期バージョンは8カ月前にSketch、Adobe XD 、Figmaのプラグインとしてリリースされ、30万人のユーザーを獲得している。ユーザーの大半は3つのデザインプラットフォームを使うデザイナーやエンジニア、プロダクトマネージャーで、現在はMicrosoft(マイクロソフト)、Oscar Health、US Bank、Instagram、Pfizer、Volkswagen、Dropboxなどの従業員も利用している。
Slackなどのプラットフォーム上の「コミュニティ」には、単にプラグインを使うだけでなくStarkともっと直接関わりたい1万人の人々が集まり、ニュースレターを受け取ったりしている。
ダイバーシティとインクルージョンは2020年の大きな話題だった。これは良いニュースだ。話題になった理由は、マイノリティが警察からひどい扱いを受けているという良くないことではあったが。そうした事件とそれに続く抗議行動が報じられたこともあり、世界の多くの人々がダイバーシティ&インクルージョンの考え方を人種的インクルージョンと深く結びつけて考えるようになった。この話は続いているが(そして問題の解決に向けたポジティブで継続的な取り組みを望むが)、Starkが解決しようとしているダイバーシティとインクルージョンはこれとは別の話だ。
見落とされがちな分野であるが、当然必要なことだ。米疾病予防管理センターの2018年時点の推計によると、米国成人の4人に1人が何らかの障がいを持っているという(この数字に子供は含まれていない)。最も多いのは認知障がいだ。実際にはデザインの多く(そしてテクノロジー全般)がこうした多くの人々に向けて作られてはいないが、かなり大きな市場だ。
テクノロジーはしきりに悪者にされている。メンタルヘルスへの影響や身体の健康のほか、経済や環境、民事、法律への影響など、理由はたくさんある。こうした時代にインクルーシブなソフトウェアやハードウェアを設計することは、テクノロジーが社会に対して(そして社会の中で)生じさせてきたギャップの一部を埋める大きな効果があるかもしれない。
ヌーン氏は「我々は、米国で最も大きなマイノリティのグループに取り組んでいます。いまの時代に車いす用スロープのない建物を建てることはないでしょう。ではなぜ、ソフトウェアデザインでは障がいのある人々について考慮しないのでしょうか」と語る。
ヌーン氏とフーケ氏が最初にStarkのアイデアを思いついたのは、他の会社で高齢者向けの緊急サービスアプリを作っていたときだった。2人はその仕事で使うために、ツールのごく初期のバージョンを作った。それを他の人に見せたところ、その人たちも使いたいといってきた。「その後、それが雪だるま式に増えたのです」とヌーン氏はいう。
それから同氏は「デザインとアクセシビリティの世界につながるウサギの穴」に落ちていき、問題を解決するために作られたツールがなく、しかも「色以外にも問題はたくさんある」ことに気づいた(色はStarkの出発点であり、高い評価を受けている)。
大きな市場には、インクルーシブデザインのような興味深いアメとムチがある。ある人は遵守しなくてはならない問題と考え、ある人は正しいことをするという信念を持っているかもしれない。そしてまたある人は大切に思っているわけではなくむしろ冷淡だが、インクルーシプであれば格好がつくと思っているかもしれない。動機は何であれ、Starkを使うことで多くの人にとってインクルーシブなものを簡単に作ることができ、最終的にバリアを減らせるならそれは間違いなく良いことだ。
ダーリング氏は発表の中で次のように述べている。「すべてのソフトウェア製品は、不利な立場にあるマイノリティのユーザーを排除してはなりません。それはビジネスとして不適切で、社会にとっても不適切です。ソフトウェアのデザイナーや開発者、経営者の間で、ユニバーサルにアクセスできる製品を出荷しようという意識が劇的に高まっています。Starkは短期間で業界の信頼を獲得し、ソフトウェアインフラの重要な一部になりつつあります。すでに世界中のソフトウェア開発を改善しているミッションドリブンの企業と連携できることを、我々はたいへん喜んでいます」。
カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Stark、アクセシビリティ、インクルージョン、資金調達
画像クレジット:Johannes Ahlmann / Flickr under a CC BY 2.0 license.
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(翻訳:Kaori Koyama)