エンタープライズ市場に臨むブロックチェーン――仮想通貨以外の可能性

現在ブロックチェーンには過度な期待が寄せられているため、同テクノロジーを真剣に取り合えないでいる人は多い。しかしそのコアとなるデジタル台帳テクノロジー自体には、ビジネスにおける信頼性の考え方を大きく変える力が秘められている。とは言え、まだブロックチェーンは黎明期にあり、エンタープライズ市場で受け入れられるにはまだ欠けているものがたくさんある。

いずれにしろ、SAPやIBM、Oracle、Microsoft、Amazonなどエンタープライズ市場の主要企業は、顧客にブロックチェーン関連の何かしらのサービスを提供しようとしている。

まだブロックチェーンに対する興味は流動的とは言え、2017年7月にイギリスのJuniper Researchが400社もの大企業を対象に行った調査によれば、回答者の6割が「すでにブロックチェーンの実装を進めているか、積極的にその可能性を模索している」と答えたとされている。

過去12〜18か月のあいだにさらなる盛り上がりを見せているブロックチェーンだが、エンタープライズ市場で生き残る上で、どんなプラットフォームにとっても欠かせないと言えるベースのシステムは未だ整備されていない。確かに一部の企業やオープンソースコミュニティはすでにその可能性を認め、ブロックチェーンベースのプロダクトの開発を進めている。しかしまだ課題は山積みだ。

普及への障害

ブロックチェーンにはさまざまなユースケースが考えられるが、未だにブロックチェーンと仮想通貨を切り離して考えられない人もいるようだ。NASA在職中にOpenStackの開発に寄与し、現在はPivotalでCould Foundryのヘッドを務めるJoshua McKentyもこの問題を重く受け止めており、これがエンタープライズ向けテクノロジーとしてのブロックチェーンの普及を妨げる要因になりうると考えている。

彼によれば、現在のビットコインとブロックチェーンの関係は、90年代末のNapsterとP2Pテクノロジーの関係に似ているのだという。NapsterがP2Pネットワークを利用し、MP3ファイルを簡単に(そして違法に)共有できる環境を作ったため、P2Pネットワーク自体にも悪いイメージがついてしまい、企業は10年ものあいだ手を出せないでいたと彼は考えているのだ。

「当時、Napster(とP2P)に関する話をポジティブな方向に持っていくことはできなかった。ビットコインもブロックチェーンに同じような影響をおよぼしている。ビットコインの呪縛から抜け出し、(ブロックチェーンの)有用性を見出すにはある程度の時間がかかるだろう」とMcKentyは話す。

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Deloitteが7か国に住む1000人以上を対象に行った最近の調査では、特にアメリカ以外の国々で上記の考えが浸透していることがわかった。「ブロックチェーンは『お金のためのデータベース』であり、金融以外の分野ではそこまで役に立たないという意見に、アメリカ在住者は全体の18%しか同意しなかったのに対し、フランスとイギリスでは回答者の61%が同意した」とレポートには記されている。

Hu-manityのファウンダーでCEOのRichie Etwaruは、著書『Blockchain: Trust Companies』の中で、これは信頼性の問題だと主張する。つまり企業は信頼に基づいて事業を展開することに慣れていないというのだ。実際に彼は著書の中で、契約システムは信頼がないからこそ成り立っていると論じている。

「(ブロックチェーンをエンタープライズ市場で普及させる上での)障害の根源は、これまで数々のビジネスモデルを大企業向けに設計したり、変更したりしてきた人たちが、信頼や透明性を二の次に考えていたということ。今後は信頼や透明性に関する考え方を幹部レベルで統一させ、積極的にこのような問題に取り組んでいくことが成功のカギになるだろう」とEtwaruは説明する。

新しいテクノロジーの不確実性

もともとブロックチェーンはビットコイン(仮想通貨)の所有権を追跡するためのシステムとして開発され、未だにほとんどのケースにおいて、同じ目的を果たすために使われている。しかし改ざん耐性があり信頼できる記録方法自体は、通貨以外にも何かしらの価値があるものを追跡し、ルールを施行する上で便利だ。たとえばpo.etはコンテンツの所有権を記録するためにブロックチェーンを活用しようとしており、Hu-manityはデータの所有権IMB TrustChainコンソーシアムは、採掘地から店頭までのダイアモンドの流通経路の記録にブロックチェーンを使おうとしている。

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ボットの信頼性をトラックするBotChainと呼ばれるブロックチェーンの開発に関わっていたTallaのCEO Rob Mayは、良いユースケースを見つけられるかどうかが最終的にそのテクノロジーの成否に関わると語る。「ブロックチェーンにはさまざまなユースケースが考えられるが、ほとんどの人は全体をひとまとめにして考えているか、個別のユースケースを十分に理解できていない」

彼によれば、多くの企業はブロックチェーンの利点――May自身の定義によると、改ざん耐性、信頼性、トークン化――を理解できていないという。金融業界ではトークン化に注目が集まっており、これが仮想通貨とブロックチェーンの混同の一因でもある。

「今のところ、企業はブロックチェーンの真の利点を理解しておらず、的はずれなことにブロックチェーンを活用しようとしている。たとえばスマートコントラクトの実用化にはまだ時間がかかる。スピードが要されるものにブロックチェーンを使おうとしている企業もいるが、これも時期尚早と言える」

最後にMayは、改ざん耐性と信頼、トークン化の3つが必要ないのであれば、ブロックチェーン以外のアプローチを検討した方が良いと語った。

ユーザー認証の重要性

他のネットワーク同様、ブロックチェーンネットワークにおいても、ユーザーの識別はテクノロジーのコアにある。というのも、誰かとコミュニケーションをとる際に、相手が誰なのかわかっていなければコミュニケーションは成り立たないからだ。Accentureでシニアアナリストを務めるCharles Francisは、しばらくのあいだ、ブロックチェーンの大部分はプライベートな状態であり続けるが、将来的に異なるブロックチェーン間でのやりとりが発生するとすれば、徐々にユーザー認証の重要性が高まっていくだろうと話す。

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「まずブロックチェーン間の接続は個別に手動で設定され、自分が管理するネットワークは非公開にすることで、すぐに悪意のあるユーザーを割り出せるようになるだろう」と彼は話す。しかしプライベートネットワークを飛び出し、パブリックな環境に移行するためには、ユーザーが自分の身元を証明できるようなシステムが必要になると彼は考えているのだ。

IBMフェローで、ブロックチェーン担当VPのJerry Cuomoも、将来的には複数のネットワークが存在し、相互にやりとりできるようなシステムが必要になってくるだろうと語る。「あるひとつのブロックチェーンネットワークがすべてを支配するようにはならない。これはかなり自信を持って言える。となると、複数のネットワークをまとめるような仕組みが必要になる」と彼は言う。「さらにすべて(のネットワーク)でユーザーのアイデンティティが必要なため、認証の仕組みは共通していた方が良い。あるネットワーク上での私のアイデンティティは、別のネットワークでも同じじゃないと不便だ」

Etwaruに言わせれば、これも信頼性の問題であり、信頼できるアイデンティティがその解決策になるのだという。「革新的なブロックチェーンのユースケースでは、ネットワーク参加者の一部だけでなく、全体がもっと信頼でき、透明性のある方法でやりとりできるような仕組みが必要だ」と彼は話す。

一般普及に向けて

上記のように議論が進む中、ブロックチェーンは徐々にエンタープライズ市場で普及しつつある。TallaのMayが言うように、まだ解決しなければならない課題は残っているが、それは同時に、大きなチャンスが眠っているということを意味する。「相手が一社ではなくネットワークの場合、何か問題が起きたときに責任の所在がどこにあるのかという疑問が生まれてくる。おそらく今後、Linuxに対するRed Hatのようなブロックチェーン企業がたくさん生まれるだろう。企業がどのように(ブロックチェーン)ネットワークを活用するかを検討するためには、外部からの助言やより良いフレームワークが必要になってくる。というのもイーサリアムは従来の意味での“プロダクト”の範疇にはないのだ」と彼は言う。

SAPのプロダクト&イノベーション担当SVPで、デジタルカスタマーイニシアティブのヘッドを務めるGil Perezは、すでに意義のあるプロジェクトを開発中の企業が存在すると語る。「ただ何かやりたいという漠然とした段階を過ぎ、私たちは大規模な実装やパイロットプロジェクトにも携わっている。製薬業界におけるプロジェクトでは10億件以上もの決済を処理した」

事実、SAPは計65社とさまざまなプロジェクトに取り組んでおり、各プロジェクトの進捗状況もそれぞれだ。Perezによれば、一般普及に向けた次のステップとしては、サプライチェーンのように複数の企業が関係し、モノと書類が複数の国と人の手を介するような状況にも対応できる仕組みづくりが必要になるという。

Photo: allanswart

さらに彼は“良い”データの重要性を強調する。というのも、改ざんできないシステムに“悪い”データが記録されてしまうと、後々それ自体が大きな問題になってしまうのだ。これを防ぐためには、関係者が共通のシステムを使ってデータを入力し、記録される情報に全員が同意しなければならず、まだそれを実現するシステムは市場には存在しない。

Mayはブロックチェーンがビジネスのあり方を変え、現状のような寄せ集めのベンダー管理手法が標準化されることになると考えている。

「ブロックチェーンがある今、もしもある規格が誕生し、すべてのアプリケーションが集まるマーケットプレースが作られたらどうなるだろうか? ディベロッパーは、(あるアプリケーションの)アドオンを一旦開発すれば、同じ規格をサポートする(類似)アプリケーションでもそのアドオンが機能し、さらに巨大なマーケットプレースにそのアドオンを掲載できるようになるだろう。では、どうすればマーケットプレースをひとつにまとめられるのか? ここにブロックチェーンとトークンを活用すればいいのだ。そうすれば、分散性とインセンティブを確立でき、正しいルールが施行されれば、本当にこれが実現できるかもしれない。そうすればかなりの影響があるだろう」と彼は話す。

どんな新規テクノロジーに関しても言えることだが、規模が大きくなるにつれて、ツールや関連テクノロジーの数も増えていく。ブロックチェーンについて言えば、未だ私たちはそのツールや関連テクノロジーを模索している段階にある。そしてブロックチェーンが一般に普及するためには、もっとしっかりとしたインフラが必要になるだろう。しかしこれらの課題が解決すれば、Mayが言うようにブロックチェーンは世界を大きく変えるかもしれない。

Image Credits: Shana Novak / Getty Images

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(翻訳:Atsushi Yukutake

投稿者:

TechCrunch Japan

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