コロナ禍で落ち込むテック業界求人マーケットの現状と今後の行方

このほど発表されたAirbnbUberの大量解雇が業界の注目を集めたが、次々と舞い込む解雇のニュースに接し、当然のことながら疑問が浮かび上がる。解雇された人材はどうなるのか。需給バランスの変化が給与にどう影響を及ぼすのか。このマーケットで安泰の人はいるのか。

こうした疑問は現在多くの人が抱いているものであり、TechCrunchはテック業界を専門とするリクルーティング企業に現在どういう状況なのか、予想される3〜6カ月後の姿について話を聞いた。驚くことではないが、彼らは求人は激減していて給与削減も多く見られると話したが、一方でこの荒れ狂った時代に希望の光も見えるという。

最初に悪いニュースから。目下、ニュースの大半が悪いものだ。

販売とマーケティングの職、特に消費者向けのスタートアップが最も大きな影響を受けている。すぐには元に戻らず、おそらく2020年内の回復は難しい。全国展開している人材採用会社Betts Recruitingの創業者であるCarolyn Betts(キャロリン・ベッツ)氏は「新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大し始めて外出禁止例が出たとき、我々のビジネスの80%が凍結となった。そしてそこからさらに減少した」と話す。

販売やマーケティング、人事の職を専門とするベッツ氏のリクルーティング会社は、自らも従業員の解雇を余儀なくされた。仕事が少なくなり、従業員の30%を解雇し、残る従業員の給料も20%カットした。ただ、PPPローン(新型コロナで影響を受けている事業者が従業員の雇用を維持するためのプログラム)によりその後、給与を10%上げることができたとベッツ氏は話す。

一方で、ベッツ氏は一晩で状況が様変わりしたことに気づいた。給与の増加や契約金が当たり前になっていた売り手市場から、求職者が状況を受け入れるしかない買い手市場に変わっていた。「マーケットはかなりの人材であふれていて、バックアップ候補者のためのバックアップ候補者がいる状態だ」。職を探している人に対しベッツ氏は、状況が変わったこと、多くを求めると採用側が「次の候補者をあたろう」となるかもしれないリスクを負うことを理解した方がいいとアドバイスする。「誰もが予算内で雇用しようとしていて、ほとんどのケースで例外は作らないだろう」。

幹部の採用

予想されることではあるが「幹部職の採用も現在ではほとんんど凍結状態だ」とベンチャー企業Norwest Venture Partnersでリクルーティング担当副社長を務めるTeri McFadden(テリ・マクファデン)氏は指摘する。同社は12年にわたって顧客企業が重要なポジションを埋めるのを手伝ってきた。

米国が新型コロナ危機に陥る前「ポートフォリオの顧客企業にはおおよそ160の幹部職の空きがあった。明らかにNorwest のチームが対応できる以上の数字だった」と同氏は話す。その数字はいま、半分以下に落ち込んでいる。「一部は完全にキャンセルされた。また、今後の数四半期がどうなるかを見極めようと人材採用を一時的に見合わせている企業もある」と説明する。

一方で「他の職よりも大きな影響を受けている職もある」とのこと。マーケティング部門がその1つだという。また新型コロナにより幹部の給料も影響を受けて下がっているとも指摘する。ここ数週間、我々は企業が相次いで幹部の給料を減らす発表を見聞している。「多くの場合、最高幹部職の人は給与20%減を受け入れ、その次のマネジメント職の人は10%カット、そして『特定の給与水準以下の人』はカットなしだ」とマクファデン氏は話す。しかし企業によってこれは異なる。

「現状ではエンジニアですら例外ではない」とシリコンバレーのリクルーティング会社Riviera Partnersで長期にわたってパートナーを務めるSam Wholley(サム・ウォーリー)氏は話す。同社はエンジニアリングやプロダクト・デザインの責任者を専門とする。新たに出されている求人の給与は2カ月前とほぼ同じだが、ウォーリー氏、マクファデン氏ともにエンジニアリングマーケットは今後数カ月で軟調になり、給与は10〜20%下がると予想する。またウォーリー氏は。、新型コロナウイルスでコスト削減に走る前からエンジニアの給与はこうした傾向にあったと指摘する。

需要と供給

これは需給の問題だ。この10年超で初めてエンジニアリング人材の供給が需要を上回りそうだ。少なくとも給料を支払える能力としてはそうだ。実際、アーリーステージに資金調達している若いスタートアップが、大企業に奪われてきたエンジニアを取り戻すことができるかどうか尋ねたところ、ウォーリー氏は「残念ながらそうは思えない。当面そうはならないだろう」と話す。そして彼は、「常に新たな企業が興されるが、適切な人材を探すのに1年以上かかることもある」と続ける。これはまた、エンジニアリング職の応募者が、異なる産業や別の国に目を向けることも意味する。

しかし、最初に書いたように悪いニュースばかりではない。テック部門の多くは他の部門よりも持ち堪えているため、採用の動きはまだある。

ベッツ氏によると「成績の悪い人をマーケットに入ってきたばかりの優秀な人材に変える」などして企業がチームのレベルアップを図っているという。これは、特にセキュリティやコラボソフトウェアを政府に売り込んでいる産業、そしてヘルスケア産業で顕著とのことだ。

ベッツ氏はまた「人々が公共部門に再参入しているテキサスのような場所に立地する顧客企業は活動を再開し、どういう人材を雇用・再雇用したいのか戦略を練り始めた」と指摘する。

「多くの人が成長計画に関して支援を受けた」と話す。「しかしまだ5月だ。物事が(ノーマルな状態に)戻るとき、(マネジメントチームは)失った時間を取り戻すべく勢いよく動き出すことが予想される。もちろん誰もヘマをしたくない。誰もが『さあ、行くぞ』と言うときに採用を始めると、有利なスタートを逃していることになる」。

マクファデン氏とウォーリー氏も同じ意見だ。ウォーリー氏は「採用の引きは続いている」とし、マクファデン氏はNorwestが2つの部門の企業が「長期的にうまくやる」と見ていると明かした。プロダクト開発にフォーカスしている若いスタートアップと、現在かなりの需要に直面している企業だ。需要のあるプロダクトを展開している企業には、リモートチームのためのソフトウェアツールを扱う企業や、直接消費者に染髪剤を販売する企業などがある。

雇用を広げる可能性のある企業の数はまだ少ないが「大方の企業は新型コロナ後の暮らしがどのようなものになるか考え始めていると思う」とマクファデン氏は話す。

同氏はまた「すべてが破滅で真っ暗闇というわけではない」と楽観的な見方も示した。

画像クレジット: Anthony Lanzilote/Bloomberg

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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