【本稿のライターはJoanna Glasner】
ベンチャーキャピタリストたちは、とてつもなくスケーラブルな企業に競って投資する一方で、自分たちの業界は規模に制約があると思う傾向にある。よく言われることだが、成功するスタートアップの供給が少ないと、投資に使える資金の額が異様に膨らみ資産バブルにつながる。
今年、SoftBank’のVision Fund — 巨大なベンチャーファンドのように振る舞い後期段階への投資が多い — は過去に類を見ないやり方でその仮説を検証しようとしている。1月以来、日本のモバイル・インターネット最大手の投資部門は、企業価値総額200億ドル以上のさまざまなベンチャーや成長段階企業の投資ラウンドをリードしてきた。この金額は、米国ベンチャーキャピタル市場全体の 四半期分に相当する。
ソフトバンクの大盤振る舞いの影響を最大に受けるスタートアップ分野を見極めるために、Crunchbaseでは同社の1000億ドルのVision Fundと関連投資案件を分析した。以下に、まず投資全体、ステージ、地理的分布の状況を紹介し、次にそれぞれの意味するところを検討する。
SoftBankの2017年投資総額は新記録
まず投資金額の合計。これはとてつもない数字だ。
2017年全体で、SoftBankは44の投資ラウンドに参加し、計307億ドルを投資した。Crunchbaseのデータによる。資金の大半はSoftBankがリードしたラウンドで調達されたものであり、金額のほぼすべてはSoftBankおよび同社のVision Fundが提供したとみて間違いはない。
下のグラフで、過去5年間にSoftBankが投資した会社のラウンド数および投資総額を見てみよう。同社はつい先日2017年のVison Fund、1000億ドルの投資を完了したところで、以前の投資は他の専用ファンドによる。
次のグラフでは、SoftBankがリードインベスターを務めたラウンドを見てみる。ここでも同社はVCがどれほどスケーリング可能かをテストしている。投資総額は2016年から2017年で約10倍に増えている。
成長ステージを含む複数ステージ投資
ベンチャー投資や成長ステージ投資に数十億ドルを投じようとするなら、すでに数十億ドル規模の価値を持つ会社を選ぶのが当然だろう。SoftBankもその例に漏れず、その規模は巨大だ。
Vision Fund最大の投資は、すでにかなり後期段階にあり、強力な基盤と市場へのリーチを持つ企業に対して行われている。コワーキングの巨人、WeWorkや、配車サービスのDidi ChuxingとGrab(そしてまもなくUberも)、作業コラボレーションアプリのSlackなどがその例だ。
しかしSoftBankは、初期や中期段階の投資にも力を入れており、対象のスタートアップの過去のラウンドの何倍にもなる大きいラウンドをリードすることも多い。ごく最近完了した保険スタートアップのLemonadeの1.2億ドルのシリーズCラウンドは、前年に同社が実施したシリーズBの3倍以上の金額だった。
下のグラフでは、SoftBankの非公開企業への投資をステージ別に分解してある。ステージだ明示されていない案件は除外してある。
地域別
最後に地理的要因を見てみよう。SoftBankは明らかに米国に焦点をあてている。米国に拠点を置く投資先スタートアップの数はどの国と比べても圧倒的に多い。最大級の非上場企業もやはり米国拠点で、WeWork、Fanatics、およびSoFiがある。
それでもSoftBankは様々な大陸に渡って事業を展開している。中国のDidi Chuxing、シンガポールのGrab、インドのOla、英国のImprobableを始め、アジアおよびヨーロッパの数多くの企業の大型ラウンドを支援してきた。
この地理パターンから見て取れる大きな特徴は、SoftBankと同社CEOの孫正義氏だ、シリコンバレー及びその他の米国のテクノロジーハブの革新力を強く信じていることだ。しかし、それと同時に地域の特定分野のリーダーや高い収益を見込める世界中のイノベーターらにも大きな資金を投じている。
注目ポイント
全体でみると、Vision Fund資金の大部分はSoftBankの成長投資活動に向けられている。しかし、スタートアップエコシステムがどれほどの資金を動かせるという仮説検証の面では、同社の早期ステージ投資の方が興味深く、教訓的だろう。
最近の数多くの早期ステージ投資を通じてSoftBankは、さもなければ単調な追加ラウンドをこなしていただろう企業に巨額の資金を投じてきた。
たとえば、シリコンバレーのスタートアップで屋内農場を作っているPlentyは、7月にシリーズBラウンドで2億ドルを調達した。それ以前にPlentyはシードおよびシリーズAで計2600万ドルを調達している。立ち上げには十分な額だが、寒冷地域を含め複数都市で自家栽培の新鮮なレタスを届けるために、空調完備の都市農場をつくるには不足だった。このたび2億ドルを自由にできることになった設立3年のPlentyは、はるかに成熟した企業にも対抗できる拡大戦略を追求できる。
果たしてSoftBankの賭けは賢明なのか?今それがわかる者はいない。たしかに、尚早なスケーリングはスタートアップが失敗する最大の要因とされている。しかし一方では、IT業界で最も成功した起業家の何人かは、驚くほど大胆な計画でスタートした。Plentyの初期の支援者でもある、Jeff Bezosもその一人だ。