チャットボットがCtoCサービス成功の鍵、新事業に挑むドリコム内藤氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏

物々交換アプリ「Clip」を4月19日に正式公開したドリコム。このClipや、先行して3月にリリースされているコンシェルジュによる飲食店の紹介・予約サービス「PlanB」をはじめとして、現在複数のCtoCサービスを開発中なのだという。その背景や今後の取り組みについて、ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏に聞いた。

じわじわやって、誰も追いつけないサービスを作る

ドリコムの売上を生み出しているのはスマートフォン向けのゲーム事業だ。同社ではそのポートフォリオを見直して不採算タイトルを整理。IP(版権)モノのタイトルを中心に提供していくことを発表している。「ゲームをIPに寄せる。では3年後、5年後には何をやるか? と考えていたのが1年少々前。それで出た答えがCtoCの領域だった」(内藤氏)

GoogleやFacebookが参入してしまうような領域にチャレンジするのは難しい。やるのであれば、1、2年は芽が出なくて周囲に「うまくいかないよ」と言われようが、圧倒的なサービスを作らないといけない。「Airbnbだってじわじわやってきたが、今となっては誰も追いつけない。そんなサービスを作りたい」(内藤氏)

そんなビジネス的な観点とは別に、大量生産大量消費の時代からモノを大切にする時代、貨幣よりも信用が価値になる時代だからこそ成り立つプロダクトを作りたいという思いがあったという。「今のビジネスは『儲かる』という前提で設計されている。でも田舎では道ばたで無人の野菜販売だってしているし、モノの貸し借りもしやすい。そんな信用社会のサービスだっていい」(内藤氏)。Clipは、単にCraigslistを置き換えるためだけのサービスではないという。

とは言えあくまでドリコムのビジネスの中心はゲーム。新サービス群は20代半ばの社員を中心にした少数チームで担当している。内藤氏はプロデューサーとして新サービスにも時間を割いているという。「ヒットではなく、外してもいいから大きく振っていく。時間をかけてじわじわと(価値が)高まっていくものを作る。一方でゲームは逆張り。IPモノでヒットを打っていく」(内藤氏)

チャットボット×CtoCの可能性

リリースされているClipとPlanB、開発中のものも含めて、サービスの一部にチャット型のUIを採用している。「まだインターネットは使うのが難しい。チャットUIがそのハードルを下げているというのをこの1年くらい感じていた」(内藤氏)。MicrosoftにFacebook、LINEなどのプラットフォーマーがチャットUIとAIの組み合わせである「チャットボット」に注目しているが、内藤氏はこれとCtoCサービスとの相性が非常にいいと語る。

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

チャット形式でユーザーがやりとりする「Clip」

「なぜ僕らがチャットUI、ボットとCtoCとの掛け算を重視しているかというと、まずよく言われることだが、リテラシー低くても使いやすいから。この業界にいると当たり前になりがちだが、いちいち地域だの値段だのを入力して検索するというのはエンジニア的発想。一般の人の発想は電話みたいな感覚で尋ねたいはず」(内藤氏)

またこの組み合わせは、ユーザーのコンバージョンを高めるのにも最適だというのだ。

「CtoCのサービスで重要なのは、『ユーザーは待てない』ということ。そのためにできる限り待たせずリアクションをしなければならない。ここでチャットボットを使えば、すぐに返事できる。例えばPlanBでも、ユーザーからの問い合わせにボットと人力、それぞれでやることを分けている。そういうことがユーザーのエクスペリエンスを向上させる」(内藤氏)

内藤氏は「ライブ」というキーワードでチャットボットの価値を語る。ユーザーは自分がアクションを起こした際、リアクションがなければそのアプリなりサービスからいったん離れてしまう。だが相手がリアクションをしていることが分かればそのサービスから離れにくい。これは僕らがLINEの「既読」やFacebookメッセージの「入力中」という表示を見たときのことを考えればしっくりくる話だ。また、素早く反応が返ってくれば、それが意志決定にも繋がる。そんな“ライブ感”がCtoCのサービスには必要だという。だがチャットUIは決して万能な訳ではない。たとえばフロー型のUIであるがゆえに、検索性は弱かったりする。Clipでも検索機能は強化せず、いかに偶然の出会いを作るかを意識しているのだという。

PlanBのチャット画面

PlanBのチャット画面

PlanBは1回の予約ごとに課金(アレンジ料として1500円。ただしオープン記念で現在は1000円)を行うが、Clipは当面無料でサービスを提供する予定だという。企画当初からマネタイズ手段も用意し、開発に乗せていたが、リリース前にあえて機能を外した。「ビジネスモデルは時にユーザーの邪魔になる。しばらくはそういうことを無視して、回転数がどれだけ上がるか考えていきたい」(内藤氏)。ドリコムでは直近にもいくつかの新サービス(CtoC領域以外のサービスもあるようだ)をリリースする予定だ。

余談だが、最初にClipを紹介したのとほぼ同じタイミングでメルカリ子会社のソウゾウが同種のクラシファイドサービス「メルカリ アッテ」をローンチしていた。これは本当に偶然だったのだそうだ。

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。