テスラがカナダ企業の特許を使い安価で環境に優しい新バッテリーを開発中

Elon Musk(イーロン・マスク)氏は2020年9月にTesla(テスラ)のBattery Dayのステージに立ったとき、リチウムイオンバッテリーの価格を半分にすると約束し、ニッケル金属電極を作る際の汚れた、そして複雑な過程を最初から作り直すことで価格を抑制できると主張した。

「溝を掘って、溝を埋め、そしてまた溝を掘ってと、とてつもなく複雑です」と同氏はイベントで述べた。「それで我々は全体のバリューチェーンに目をやり、どうやってこれを可能な限りシンプルにできるのか、と言いました」。

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最もシンプルなルートにはカナダの小さなバッテリースタートアップ、あるいは少なくとも同社の特許出願が含まれているようだ。

公開記録によると、Battery Dayの2週間前、Teslaはトロント近くに拠点を置く小さな会社Springpower International(スプリングパワー・インターナショナル)から数多くの特許出願を計3ドル(約330円)で購入した。

それらの特許出願の1つは、Teslaの上級副社長Drew Baglino(ドリュー・バッリーノ)氏がBattery Dayにカリフォルニア州フリーモントにある同社工場に設けられたステージで描写したものに似ている、イノベーティブなプロセスの詳細をつづっている。特許出願の購入は、特許そのものが最終的に2021年1月認められたとき、特許にはSpringpowerの記載はなく、Teslaに発行されたことを意味する。

電気自動車バッテリー向けの電極製造は従来、かなりの量の汚染水を生み出す。電極材料1トンを製造するのに、アンモニアや金属粒子、有毒な化学物質を含む4000ガロンもの汚染水が出る。Springpowerのプロセスは費用のかかる水処理を排除し、賢くも薬液を再循環させる

バッリーノ氏のプレゼンテーションでも、水を再利用し、排水を作らない手法が述べられた。事業費の75%以上の抑制に加え、同氏は次のように述べた。「当社はまた、同じプロセスをリサイクルされた電気自動車とグリッドストレージバッテリーから出る金属粉の消費に持ってくることができます」。

TeslaはSpringpowerの知的財産以上のものを獲得したようだ。Battery Dayの1週間前に、Springpower Internationalのウェブサイトは1つのホールディングページに変わった。それから数カ月して、何人かのSpringpowerの研究者は彼らのLinkdInプロフィールを変えた。それからするに彼らは現在、Teslaで働いているようだ

Springpower InternationalのCEOであるMichael Wang(マイケル・ワン)氏はコメントの求めに応じず、同社の電話交換台へのコールにも応答がなかった。同氏のLinkedInのページには現在、Teslaのスタッフ(バッリーノ氏含む)からの何十ものアップデートが表示されている。

電話で連絡をとったSpringpower Internationalの上級役員はTeslaによる買収を認めも否定もしなかったが、TechCrunchにTeslaの広報チームを案内した(Teslaは広報担当者を置いておらず、同社に送ったメールに返事はなかった)。

Springpower Internationalは、部分的には中国のバッテリー会社Highpower Internationalによって、Springpowerの子会社の研究部門として2010年3月に深圳で創業された。しかしHighpowerは6カ月もせずして、Springpower Internationalのテクノロジーが商業化から程遠いと判断して10万ドル(約1090万円)の投資を取り消してSpringpower Internationalと手を切った。

カナダ政府が出資したプログラムの「客員起業家」であるJames Sbrolla(ジェームズ・スブローラ)氏が、創業されて間もなかったSpringpower Internationalを指導するために介入した。同氏は同社が少額の補助金を、そして最終的に2018年に340万カナダドル(約3億円)の持続可能テクノロジー賞を獲得するのを手伝った。しかし同氏は2020年後半以降、Springpower Internationalの誰とも連絡をとっていないとTechCrunchに語った。

スブローラ氏は同社が買収されたかもしれないと聞いても驚かなかった。

「スマートな人たちのグループです。それについて疑う余地はありません」と同氏は話した。「Springpowerのもののようなテクノロジーは環境への負荷の削減で大きなメリットがあります。そして大企業を引きつけることでずっと早く、そしてより簡単にスケール拡大できます」。

ありそうなことだが、Springpower InternationalがTeslaによって買収されたのなら、2019年に同じように密かに買収された別のカナダのバッテリー会社Hibarを含む12社ほどの企業の仲間入りをしたことになる。

マスク氏はリチウムイオンバッテリーの専門的な部分に関しては長らく国境の北に目を向けてきた。2015年にTeslaはカナダ・ノバスコシア州にあるダルハウジー大学の主任バッテリー研究者で教授のJeff Dahn(ジェフ・ダーン)氏と5年間の独占的パートナーシップを結んだ。ダーン氏の名は同社の数多くのバッテリー特許に掲載されており、2021年1月に同社はダーン氏とのパートナーシップをさらに5年間更新した。

マスク氏は自社バッテリー生産を実現し、現在のサプライヤー(パナソニック、LG化学、 CATL)への依存を小さくしようと取り組んでいる。「いま当社はこのプロセスを手にしていて、独自の電極の設備を北米に建てようとしています」とバッリーノ氏はBattery Dayで述べた。

マスク氏はTeslaの新しいバッテリーテクノロジーの複合的なメリットによって2万5000ドル(約270万円)の車両が実現するかもしれない、と付け加えたが、あまりに多くをすぐには期待しないよう警告した。「こうしたアドバンテージを実現させ始めるのにおそらく1年から18カ月、完全に実現するのに3年ほどかかるでしょう」。

おそらくそれまでにSpringpower Internationalの役割はもう少し明らかになるだろう。

カテゴリー:モビリティ
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(文:Mark Harris、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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