プッシュ通知を送るだけのアプリ「Push it」が5カ国のApp Storeでナンバー1になった理由

Push itと呼ばれる、友達に「プッシュ通知」を送る機能を持つ新しいアプリがアプリストアのナンバー1アプリになっている。このアプリには2つのスクリーンショットしかない。1つは大きく赤いボタンで、もう1つは「送信中」というテキストが書かれた黒と赤のスクリーンだ。このアプリをインストールした人々の多くはこのアプリをまだ使用することができていない。それなのに、このアプリが5カ国でナンバー1になっているのはなぜなのだろう?

わかったのは、Push itが、Snapchatプラットフォームアプリ、Sendit(ARゲームや匿名Q&Aの機能を持つ)を作った人々が作り出した最新のアプリであることだ。

画像クレジット:fullsenders

Push itがなんであるのかを理解するには、この会社のオリジナルアプリであるSenditについて知る必要がある。

Senditは若い層を中心に人気のアプリで、ゲームをしたり、友達と会話をするのにこのアプリを利用するSnapchatユーザーを着実にひきつけている。Sensor Towerのデータによると、現在までのところ、Senditは世界中で900万回ダウンロードされ、300万ドル(約3億4000万円)近くの個人消費を生み出している。

Senditは、SnapchatがSenditの最大のライバルであるYOLOとLMKを一時停止したことを受け、最近新たに何百万人ものユーザーにインストールされた。このYOLOとLMKの2つのアプリは、これらを使用していた男の子が他の匿名のユーザーにいじめられ自殺したことから、その男の子の母親が裁判所に訴え、提訴の対象になっているのだ。Senditもやはり友達に自分が誰であるかを明かさずに質問するよう促す「何でも聞いて」ゲーム、といった匿名の機能を提供しているが、いまのところYOLOとLMKのような運命に陥らずにすんでいる。

Senditについての否定的なレビューの中には、やはりいじめについて言及したものがあるが、Snapchatはまだこれに対する措置を講じていない。TechCrunchがSnapchatに対し、未成年に対する匿名アプリをめぐるポリシーについて尋ねたところ、同社はプラットフォームの安全性を世界的に統括する責任者を採用したところであり、アプリのエコシステムとポリシーを見直しているとのことだった。

さらに、Senditのユーザーの一部は、このアプリは友達が絶対にしていないはずの質問を表示するボットを使用していると信じているようだ。

あるユーザーはアプリストアのレビューで次のように書いている。

このアプリはランダムにフェイク/自動化された質問を送ってくる。例えば、私と私の友達は全員20台中頃なのだが、全員がまったく同じ、「あなたは人間不信に陥っていますか?」「宿題を写すとしたら、誰が一番よい相手ですか?」といった質問を受け取ってっている。

こんなレビューもある。

受け取った質問の中には、私が知っている友達からのものではないと確信を持っていい切れるものがある。これがフェイクなのは間違い無く、AIからのものだと確信している。それらは誰も質問しないような、「ゾンビだらけの世の終末に生き残りをかけて自分のチームを作るとしたら、そのチームのメンバ-に誰を選びますか?」といったランダムで安っぽい質問だ。ばかばかしいし、こんな質問は誰もしない。本物のアプリを作るべし。

Senditの創設者である Hunter Rice(ハンター・ライス)氏は、ボットは関わっていないと述べている。また彼はSenditがティーンエイジャーに受け入れられているのは、匿名性によるものだという考えに異議を唱えている。

「私たちのユーザーがSenditに惹きつけられているのは、すばらしいAR体験のためです。私たちが当社の使命と感じ目指しているのは、友達との会話を盛り上げるの際の摩擦を低減する新しい方法です。私たちは非常に魅力的なフォーマットをこれらのARゲームを通して発見しました。これがSenditの背後にあるマジックであり、Senditがここまで成功している理由です」とライス氏は説明する。

今日、Senditは「Never Have I Ever」「Truth or Dare」など、若い層に受けるゲームを提供している。Senditではユーザーが「私とお似合いなのは誰だと思う?」といった質問をすることができたり「告白ー誰を好きか言ってください」「適合性試験」など、ティーンエイジャーが友達と話したがるような内容が反映されたものを提供している、

同様に、ライス氏によると、新しいアプリPush itも会話をはずませる新しい方法を提供するということである。

ただし、これは、Snapchat向けの有望なARレンズゲームやQ&Aではなく、直接友達のiPhoneに通知を送るというベーシックなツールだ。

画像クレジット:fullsenders

「私たちはSenditを通し、これらのARでのやり取りの中にすばらしいフォーマットを見つけました。そして、これは順調に進んでいます。そこで、これと同じ仕組みを別のフォーマットを使って複製しようと考えました」とライス氏はいう。

アプリストアの必要最低限のことしか書かれていないリストでははっきりしないが、この新しいアプリはベーシックなフォロワー / フォロウィングモデルを提供しており、ユーザーはアプリで、自分をサブスクライブしている人全員にプッシュ通知を送ることができる。これらのフォロワーはSenditと同様、その通知に反応して、一対一の会話を始めることができる。

ライス氏らは、このコミュニケーションスタイルが、友達グループやクリエーター、ブランドにも受け入れられるのではないかと考えている。

Push itを使用する場合、このアプリはユーザーのiphoneにあるアドレス帳データベースへの完全なアクセスを求める。またこれはテキストメッセージで友達を招待するツールも提供する。招待が必要な友達の名前の横に「OK」ボタンが表示され、それを押すと、友達を招待するためのテキストが作成される(アプリがテキストを送る相手をユーザーのアドレス帳にある人々の名前からランダムに選択するのかどうかは、はっきりとはわからない)。

プライバシー保護への機運が高まりを見せるなか、アプリ招待スパムはびこる現状を受け、SMSベースの成長メカニズムは一般的に良いものとは捉えられていない。しかし幸いなことに、Push itは友達に自動テキストを送るのではなく、ユーザー自らが友達にテキストを送るよう促すだけである(ただし、このアプリのプライバシーポリシーは、ユーザーの個人情報を使ってなにが行われているかについての不安を和らげる効果はありまない。ポリシーを読むと、データがマーケティング目的で使用され、Push itのベンダーやビジネスパートナーと共有されるのは明確である)。

このアプリはユーザーに熱心に5つ星レビューをねだってもくる。ユーザーが星のアイコンをタップすると、ポップアップウィンドウが表示され、アプリストアでPush itを5つ星評価をしたユーザーには「特別なメッセージ」を送ることを約束してくる。

画像クレジット:fullsenders

Push itのiOSアプリは10月後半にアプリストアで公開されたが、Sensor Towerのデータによると以前は「プロジェクトレッド」という名前のもとで準備が進められていた。昨夜の時点(米国時間11月3日)で、オーストラリアやカリフォルニアを含む一部の市場で利用可能になっている。このアプリがすでにナンバー1になっているのを見ると、そのローンチが、発売前マーケティング、あるいは今や当たり前の手法となったグロースハックに大きく依存したものなのではないか、という疑念が湧いてきてしまう(こちらの記事も参照して欲しい。春のチャートのトップを占めるPoparazzi(ポパラッチ)、このアプリがナンバー1になったのはグロースハックによる)。

関連記事:米App Storeトップに華々しく登場、作られた完璧さが並ぶInstagramのアンチを謳う新SNS「Poparazzi」

しかし、ライス氏はこれを否定している。

「Push itにまつわる熱狂は、すべて自然発生的なものです」とライス氏はいうが、それでも同社がソーシャルメディアを使ってアプリの発売を宣伝したことは認めている。例えば、現在Push it のインスタグラムのアカウントには約3万2000人のフォロワーがいる。

しかし、Sensor Towerのデータによると、Push itはすでに記事執筆時点(米国時間11月4日)で、5つの国で急速に拡散しており、米国、カナダ、バミューダ、アイルランド、ノルウェーでナンバー1になっている、と同社はいう。また英国、オランダ、オーストラリア、フィンランド、ニュージーランドでもトップ10に入っている(これらの国の多くは、Push itのInstagramインスタグラムには発売市場としてリストされていない、ということに留意すべきである)。

画像クレジット:fullsenders

Push itがナンバー1であることに違和感があるのは、まだ利用可能になっていない地域(記事執筆時で米国の大半の州を含む)では、このアプリは基本的に機能しないからだ。ユーザーは、アプリに対しユーザーネームを請求することができるが、それだけである。そしてユーザーは自分の地域でアプリが使えるようになるのを待たなくてはならない。

ライス氏によると、段階的な展開戦略をとっているのは、Push itが確実にトラフィックを処理できるようにするためであるが、これによって多くのユーザーの間に混乱が生じているようである。Instagramには「ちょっと、これいつから機能するの?」とか、「これ、一体なんの役に立つわけ?」とか、「超混乱してて、大爆笑」といったコメントが寄せられている。

「私たちは、ユーザーができる限り最善の体験をできるようなスムーズなかたちでアプリを展開しようとしています。全員がアプリにアクセスできるようにしたいですし、すぐにそのようになります。でも、私たちのサーバーが確実に機能し続けるようにしたいとも思っています」とライス氏は述べた。

Push itとSenditは、サンタモニカに拠点を置くFullsenders, Incの10人からなる小さなチームが作っている。同社は資金調達先を公開していないが、TechCrunchでは、関与しているエンジェル投資家の少なくとも1人を正しく推測することができた。

Push itの今後の試練は、アプリストアで現在のような高いランクを保てるかどうかである。自然な手法で、あるいはそうでない方法でダウンロード数を増やすにしても、新しく登場したソーシャルアプリが、高いランクを維持することは通常難しいとされている。また、未成年や10代前半の子ども向けのソーシャルメディアに今後規制がかかること予想されるが、Push itはそうした規制への対処にも取り組まなくてはならない。Push itに弾みがついた場合は、プライバシーポリシーと収益モデルを再考することも必要だろう。

ただし、当分の間Push itが収益を得ることはない。

「私たちは現在、とにかくすばらしいコミュニティを作り、ユーザーが関与したいと思うようなすばらしい機能を築きたいと考えています。そして、私たちが価値ある製品を提供できれば、当社に最もふさわしいビジネスモデルを思いつくことができると思います」とライス氏は述べた。

Push itはiOSにのみ対応している。

画像クレジット:fullsenders

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。