ヘルスケアデータを構造化するScienceIOがステルス状態から脱出

Gaurav Kaushik(ガウラブ・カウシク)氏は、混乱した医療データの世界を整えるために今回立ち上げたステルス事業の数年前からすでに、より良い視覚化が医療結果にどのような影響を与えるかについて、少しずつ構想を深めていた。2018年にこの新進起業家は、ボストンのがん研究企業ならびにFlatIron Health(フラットアイアン・ヘルス)と協力して、がん患者、がんの変異、健康状態の結果のすべてがどのように関連しているかを調べていた。

最終的には、特に有色人種の女性に酷い結果をもたらすトリプルネガティブ乳がんの患者が、免疫療法によく反応するという分析結果を得た。

カウシク氏は、整理されていない患者データを治療計画に結びつけることのインパクトを理解して、元ティールフェローでDorm Room FundのマネージングパートナーであるWill Manidis(ウィル・マニディス)氏と共同で、新しいスタートアップScienceIO(サイエンスIO)を創業した(マニディス氏がCEOを務めている)。このスタートアップは、自然言語処理とデータ分析を用いて患者データの巨大なデータベースを構築し、関係者が患者をよりよく理解し、総合的に治療することに役立てようとしている。

「地図がなければ旅ができないのに、医療には地図がないのです。例えば、どの患者さんが切実で満たされていないニーズを抱えていて、特別な配慮や新たなソリューションを必要としているのか、あるいは希少疾患に対する新しい治療法を見つけようとしているのかなどの、基本的なことを理解しようとすると、何千時間もの労力と何年もの期間が必要になるのです」とマニディス氏は述べている。

ヘルスケアデータの状況をなんとかしようとするスタートアップは、ScienceIOが初めてではない。そして、それはおそらくこれが最後のものでもないだろう。だが、このスタートアップの差別化ポイントは、何年もかけて、最も代表的なデータを集めたデータベースを構築してきたことだ。

カウシク氏は「私たちは過去2年間をかけて、この種のものとしては初のヘルスケアAIプラットフォームを構築しました。私たちは、データファーストのアプローチを人工知能に適用し、バラバラのヘルスケアデータを高品質で計算可能なデータに変えるために必要な技術を開発しています。ヘルスケア分野では、データを活用したソリューションを構築する機会が非常に多く、当社のプラットフォームや幅広い自然言語処理ルネッサンスから恩恵を受ける、企業のエコシステムが生まれることを期待しています」という。

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NLP(Natural Language Processing、自然言語処理)とは、人間の音声をコンピュータが理解しやすくするための最新技術だ。同社は、ソーシャルメディアの投稿を見て、その投稿を行った人間がどのように感じているかを予測する技術であるセンチメント分析に、NLPがどのように利用できるかを説明した。ScienceIOのNLPアプリケーションは、機械学習と組み合わせられることで、900万以上の医療条件、薬剤、機器、遺伝子を潜在的な手がかりとして、患者の健康に影響を与える変数を見つけ出す。

ScienceIOの動作画面(画像クレジット:ScienceIO)

幅広いというのは、その製品がさまざまな潜在的顧客に適用できるということを意味する。例えば臨床医が患者の背景に基づいて患者の全体像を把握できるようになると、カウシク氏は考えている。

「扱う患者さんにはさまざまなヘルスケアイシューがありますので、それに対してがんをよく理解しているとか、社会経済状況を別途理解しているというだけでは十分ではないのです」とカウシク氏はいう。「あらゆる分野に驚くほどの深さがありますし、そうした問題を最小化することなく患者全体を把握することが必要なのです」。

さらに彼は「3年間、世間には公表しないままこのデータセットを構築してきた理由は、患者をバイオリスクに還元するのではなく、患者を医師が見るべきものとして表現するためだったのです」と付け加えた。

マニディス氏は、保険会社が毎日、莫大な数の医療プランや、請求コード、コスト、症状などのデータを受け取っていることを例に挙げた。

マニディス氏は「そこでは、請求をどのように優先させるか、裁定に回すか、不正行為の検出などを行うかで常に悩まされています。そこでScienceIOを使えば、データを構造化し、請求内容を理解して、患者への保険金をより早く、正確に支払うことができます」という。

注目すべきは、ScienceIOはトラッキングを行うのではなく、データをより検索しやすくし、有用な洞察を生み出すことのできる分析結果を作成するのだということだ。ScienceIOは、現在いくつかの顧客とパイロットプログラムを行っているということだが、具体的な名前は明かしていない。カウシク氏によれば、これらのパイロットの結果によって、一般公開までの現実的なスケジュールが左右されるということだ。

これまでの進展によって、これまで秘密裏に行われていたビジネスが、800万ドル(約9億1000万円)のシード資金を調達することができた。今回のラウンドには、Section 32やSea Lane Venturesなどの機関投資家の他、Lachy Groom(ラッチー・グルーム)氏やJosh Buckley(ジョシュ・バックリー)氏といった起業家も参加している。

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画像クレジット:Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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