ペットテック領域で2つの事業を展開するシロップは4月23日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と融資を合わせ、総額で8000万円を調達したことを明らかにした。
今回のラウンドには既存投資家であるFFGベンチャービジネスパートナーズ、ミラティブCFOの伊藤光茂氏、エウレカ共同創業者の西川順氏、獣医師の佐藤貴紀氏に加えて、新規の投資家としてお笑いコンビのチュートリアル・徳井義実氏ら3名の個人投資家が参加している。
過去に調達した金額も含めると、シロップの累計調達額は約1億5000万円。今回の8000万円については前回資金調達を行った2017年12月以降、複数回に分けて集めたものとのことだ。
これまで保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI」とペットライフメディア「ペトこと」を運営してきたシロップ。今後は人材採用を強化しながら両サービスのアップデートを進めるほか、新たなチャレンジとして5月〜6月を目処にD2C事業もスタートする。
また個人投資家として加わった徳井氏は同社の広報担当のような役回りで、共に情報発信やサービス開発に取り組むそう。まずは第1弾として4月24日より読者参加型の連載小説をペトこと上で展開する予定だという。
徳井氏によるとスタートアップに出資するのは今回が初めてとのこと。出資の背景や今後の取り組みについては本人に直接話を聞くことができたので、そちらは明日詳しく紹介したい。
ペット版のPairsと飼い主向けメディアを展開
前回も紹介した通りシロップは「蓄積したデータを用いて、個々の犬猫に最適な情報や商品を提供するペットライフ・プラットフォーム」の構築を目指しているスタートアップだ。
その軸となるのが現在運営するOMUSUBIとペトこと。位置付けとしてはOMUSUBIが人とペットとの“出会い方”を変える役割、そしてペトことが“ペットの育て方”を変える役割を担う。
保護団体と保護犬猫を飼いたいユーザーを繋ぐOMUSUBIの特徴は「保護団体の完全審査制を採用していること」と「転職エージェントのように密なカスタマーサポートを実施していること」の2点だ。譲渡トラブル回避や譲渡率向上のために、保護団体の現地調査や資格調査、運営状況調査などを実施しつつ、お迎えコンシェルジュとしてユーザーのサポートを手厚くすることで細かいニーズを汲み取る。
シロップ代表取締役の大久保泰介氏によると、従来は「例えば1人暮らしはNGなど、条件が厳しいことで応募が入っても実際に譲渡される確率は10〜20%くらいだった」そう。OMUSUBIの場合は上述した特徴などによって、この割合を43%まで高めているという。
現在は募集団体の数が全国で50団体を超え、募集数も増加傾向にあるとのこと。ユーザー側にも主に検索エンジンやソーシャルメディア経由でリーチしていて、2年間で約150件のマッチングを実現。累計応募数は前年比で258%増加、累計譲渡数も160%増加するなど「まだまだ数は小さいが、徐々に成果に結びついてきた」(大久保氏)状況だ。
もう一方のペトことは飼い主向けにお出かけやアウトドアといったライフスタイル系の情報から、獣医療のように専門性の高いトピックまで、幅広いコンテンツを提供するペットライフメディア。「信頼性にこだわっていて、獣医師でも“がん専門医”など領域に特化した専門家が執筆段階から関わっている」(大久保)のがウリで、直近では月間約160万UU、400万PVほどの規模に成長している。
大久保氏の話では記事を読んだユーザーが次のアクションとして、コンテンツ経由でペットと泊まれる宿泊施設を予約したり、グッズをAmazonで購入する事例が多いそう。1ヵ月の流通総額(記事経由の購入金額 / 2019年1月時点)は約9000万円になるという。
蓄積してきたデータやナレッジを活かして事業を加速
今後シロップでは、これまで蓄積してきたデータやコンテンツをもっと活用することで、事業をさらに加速させる方針だ。
OMUSUBIでは以前から大久保氏が「ペット版のPairs」を目指すと言ってきたように、データを用いたレコメンドマッチングの強化に向けてリニューアルを実施する。
「従来は見た目の好みで選びがちだったが、応募者と向き合う中で『前に飼っていた犬と同じ名前だから』『シュナウザーが好きなので(雑種でも)タイプが似ているから』など、様々な要素でマッチングできる可能性があることがわかった。データを上手く使うことで、今までは気づかなかった犬猫との出会いのチャンスを提供し、ペットショップに行かずとも正しくペットを迎えられる窓口を作りたい」(大久保氏)
具体的には飼い主がユーザー登録時に簡単な質問に回答すると、サービス上の犬猫との相性度が表示される機能を実装。そのスコアに基づいて犬猫をレコメンドしていく仕組みを構築する。
「犬猫の種類は300種を超えていて、それぞれがどんな性格で、どのような育て方をするのが適切なのか分からないことがミスマッチを引き起こしている。それが最終的には飼育放棄に繋がり、保護犬猫が増える原因にもなっていた。自分に合った犬猫と出会えるシステムを作ることで、結果的には殺処分問題の解決などにも繋げていきたい」(大久保氏)
OMUSUBI同様にぺトことでもデータの活用を進める。直近ではペットと一緒に行けるスポットを検索できる機能やマイページ機能、各ユーザーごとにパーソナライズしたレコメンド機能などを実装予定。中長期的にはライフログやコミュニティ機能を加えるほか、獣医療など新たな領域にも進出していく計画だという。
D2Cに進出、「ペットライフスタイル企業」として拡大へ
OMUSUBIとペトことに続く「新しい領域」という意味では、5〜6月ごろにリリースを予定しているD2C事業がまさにそうだろう。
1.5兆円のペット市場の中でコマースは半分近くの7200億円を占める重要な領域。今までは大量販促型の生産モデルが基本で、ホームセンターやペットショップといったオフラインの小売店舗でペット用品を購入するケースが多かったが、若い飼い主も増えオンラインでの購買体験のニーズも高まっている。
大久保氏は前回もコマース領域での事業展開については言及していて、ペトことを通じて厳選したグッズを販売する取り組み(販売はBASEを活用)にも着手済み。今後はメディアで蓄積したデータやニーズを基にペトことブランドでオリジナル商品を手がけつつ、自分たちで作らないものはパートナーとタッグを組みながら販売していくモデルを検討しているそうだ。
「第1弾として、まずはオンラインとも相性の良いフードから始める予定。既存事業が地固めできてきた中でD2Cコマースをしっかり育てていきたい」(大久保氏)
現在シロップの収益源となっているのはOMUSUBIとペトことで連動した広告(アドセンス、タイアップ、アフィリエイト)だが、ゆくゆくはコマースが大きな柱になることを見込んでいる。
加えて大久保氏の頭の中には、国内の1.5億円市場に留まらず事業を広げていく構想があるようだ。成長市場であるアジアへのサービス展開はもちろん、国内でも新たな可能性が見え始めているという。
「ペット市場だと1.5兆円だが、『ペットを飼っている人のライフスタイル』という文脈では電力や保険、自動車、アウトドア、住宅といった周辺の市場も関わってきて、より大きなポテンシャルがある。実際(15才未満の)子供よりペットの数の方が多くなっていることもあり、自分達のクライアントにもこれまでペット市場に入っていなかったような企業が増えた。ペット企業ではなく、ペットライフスタイル企業としてさらなるチャレンジをしていきたい」(大久保氏)