ムスカは12月16日、ムスカシステムを利用して生産された肥料と飼料を使った米と野菜、地鶏の試食会を開催した。同社はTechCrunch Tokyo 2018のスタートアップバトルで最優秀賞を獲得した2016年12月設立の昆虫テック、大きく分けると農業技術系(アグテック)スタートアップだ。
50年1200世代の交配を重ねたイエバエの幼虫と使い、蓄糞や生ゴミなどの有機物を1週間で分解して肥料・飼料化する、100%バイオマスリサイクルシステム技術を擁する。通常のイエバエの幼虫でも2〜3週間程度かければ糞尿やゴミを分解することはできるが、交配を重ねてサラブレッド化したムスカのイエバエの幼虫に比べて処理能力は大幅に落ちる。
ムスカでは、糞尿など栄養分として育ったイエバエの幼虫が成虫になるために有機物の中から這い出してくるハエ本来の習性を利用して幼虫のまま回収。幼虫が分解した糞尿は有機肥料に、回収した幼虫はタンパク質の飼料として利用できる。
実際には、有機肥料はペレット(小さな塊)状に、幼虫は乾燥させた状態で出荷される。これがムスカソリューションで、廃棄物である蓄糞や生ゴミを分解して肥料・飼料化、その肥料や飼料で野菜や家畜を育て、蓄糞や生ゴミを再度回収というリサイクルが実現する。
試食会に先だって、野村アグリプランニング&アドバイザリーの調査部で副主任研究員を務める石井佑基氏が登壇し「食料危機の対する食の未来について」というテーマで基調講演が行われた。石井氏は、牛や豚、鶏などを育てる畜産業は、農作物の栽培に比べると大量の飼料と水を使う点では効率が悪いと説明。これまでの人口増加に対しては農地の拡大と化学肥料の活用などで収穫量を増やして乗り切ってきたが、今後の人口増加と世界各国の所得向上によって肉を食べる人口が増えると、近い将来に限界に近づくと指摘した。
こうした問題に着目して、Beyond Meat(ビヨンド・ミート)やImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)といった植物由来の代替肉を開発するスタートアップや、昆虫を食品として使うスタートアップも出てきているが、元来雑食の人間にとって食肉は切っても切り離せない関係と語った。そして2025年〜2030年に到来すると指摘されているタンパク質危機、つまり食肉や魚介類などのタンパク質食品の需要が生産・供給量を大幅に上回ってしまい、飼料や肥料の高騰、ひいては小売価格の大幅上昇につながるという危機を乗り越えるためには、ムスカのような持続可能な取り組みが重要であることを解説した。
基調講演のあとのパネルディスカッションでは、実施にムスカの肥料を使っている農家が登壇。米農家の松田宗史氏によると、ほかの有機肥料も使っているがムスカの肥料を併用することで害虫が付きにくく、生育も良好だったという。イチゴ栽培事業を展開するD2Cスタートアップの遊土屋を立ち上げた宮澤大樹氏は、「まだ試験導入の段階は効果については判断できないが」と前置きしたうえで「現在数ラインでムスカの肥料だけを使って栽培している苺は農薬の散布も必要なく生育も順調」と語った。
ビデオメッセージを寄せた養鶏農家の中村秀和氏も「ムスカの飼料は地鶏の食いつきがよく、2カ月ぐらいすると通常の飼料よりも大きく育つ」とコメントした。ちなみに、ブロイラーは1カ月半ほどで出荷されるが、地鶏は長い場合で120日ほど飼育される。なお、宮崎で主に飼育されている地鶏は「地頭鶏」(じとっこ)と呼ばれており、首都圏や関西圏などでも宮崎料理店や居酒屋などで食べられる。
実際に過去にムスカが大学との共同研究で得た結果でも、ムスカの飼料を与えた養殖した魚の個体が通常の飼料(魚粉)に比べて大きくなるなど良好な結果が出ている。
質疑応答ではムスカでCOOを務める安藤正英氏が、ムスカの試験プラントは2020年中には稼働させることを表明。プラントの建設費や運営費を考えると一般的な化学肥料などに比べて単純比較では当初は割高になることを認めたが、現在家畜や魚の養殖などの飼料として使われている魚粉の国際価格は高騰を続けている。ムスカプラントの数が増えて糞尿や生ゴミの処理能力が高まれば、将来的には一般的な飼料の同程度のコストに収まることも十分に考えられる。
そして安藤氏は、自身がムスカに入社した一番の理由が、SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた17項目のうちムスカが14項目を達成している点を挙げた。達成していない残り3項目は、QUALITY EDUCATION(質の高い教育をみんなに)、GENDER EQUALITY(ジェンダー平等を実現しよう)、PEACE, JUSTICE AND STRONG INSTITUTIONS(平和と公正をすべての人に)なので、ムスカの事業を照らし合わせると14項目はフル達成に近い。海外ではSDGsの達成を目標とした食品なども登場しており、今後地球規模で考えていかなければならない問題であることは確かだ。
なお試食会では、祝田農園で収穫した米を使ったおにぎり、遊士屋のイチゴ、農業研究家の白木原氏が栽培したキュウリとミニトマト、そして石坂村地鶏牧場で育てられた地鶏のグリルなどが提供された。