モバイルの膨大なトランザクションを扱うz13でメインフレームの存続に賭けるIBM

IBMはx86のサーバビジネスを投げ捨て、メインフレームが過去の遺物となったと思われる今日このごろ、実は5年間で10億ドルを投じて、現代のモバイル時代にふさわしい、新しいメインフレームの猛獣を開発していた。

今の企業は、ハイエンドなコンピューティングシステムを求めている。IBMの、z13と名付けられたホットな新システムはまさに、モバイルの大量のトランザクションを処理できるように設計されている。IBMの発表によると、その一日の処理能力は25億トランザクション、それはCyber Monday100日ぶんに相当する。

IBMは昨年の4月に、同社のメインフレームビジネスの50周年記念を祝った。その間エンタプライズコンピューティングは数多くの変化を経験したが、まだメインフレームが生き残っている部分もある(後述)。

IBMでエンタプライズモバイルを担当しているディレクターMike Gilfixによると、メインフレームの最新機z13の開発でとくに意識したのは、モバイルトランザクションに特有の複雑性と、その増加だ。そのため同機は、複数のシステム間の複雑な相互作用に十分対応できると同時に、同社が“リアルタイムモバイルエンクリプション(encryption, 暗号化)”と呼ぶ技術によるセキュリティの確保と、ハイエンドなリアルタイムの分析(タスク分析、アクセス分析)ができるように設計されている。

彼が例として挙げるのは、モバイルデバイス上のeコマースのトランザクションだ。ユーザが画面の[購入する]ボタンを押すと、非常に多数のさまざまなシステムが、クレジットカードの処理や在庫管理、発送、などなどをめぐって大量のコミュニケーションを開始する。しかもそれらの処理は逐次ではなくて同時並行的だ。すなわち、顧客一人につき大量の複雑な処理が行われるが、そのときアクセスしている顧客全員なら合わせて数十億というトランザクションが並列で行われることになる。そんなとき、z13なら顧客に遅れを感じさせることがない、という。

彼は曰く、“今のコンピュータとネットワークの利用を先頭に立って引っ張っているのがモバイルだ。eコマースでもヘルスケアでも金融サービスでも、モバイルが最大の利用インタフェイスになっていく。すべての人が、毎日の生活の中で、モバイルから必要な情報を得ようとするのだ”。

そんな全地球規模の、しかもリアルタイムのトランザクション集合に遅延なく対応することは、どんなコンピュータにとっても難題だ。しかしこのマシンが前宣伝に恥じない性能を本当に持っているなら、まさにそれは、今日の企業のためのメインフレームになるだろう。ただし今の企業は、メインフレーム機など求めているのか? この製品の価格情報はまだ提供されていないが、安くはないはず。しかも今の企業には、クラウドコンピューティングなどそのほかの選択肢もある。Gilfixが、多くの選択肢の中で企業はこのマシンの方を選ぶ、と主張する主な根拠は、その処理能力とセキュリティだ。

InformationWeek誌の昨年4月号は、2003年に100万ドルだったIBMのメインフレームが今なら75000ドルで買える、と報じた。このz13がなんぼするのか、それをIBMはまだなかなか言わないのだが、ハードウェアの構成を見るかぎり、100万ドルと75000ドルのあいだのどこか、とは言えるだろう。100万を超えることは、ありえない。

これは、超高性能なx86機ではない。IBMによると、z13には世界最高速のプロセッサが搭載されていて、そのスピードは今の一般的なサーバ用プロセッサの2倍、メモリ容量は4倍、ネットワーク帯域は2倍、そして高度な分析機能を伴うベクトル演算によりモバイルのトランザクションを高速化する。

Gilfixが示唆する主な売れ先は、金融や大型小売、ヘルスケアなどにおける既存の顧客だ。また今現在メインフレーム上の大量のデータに投資を蓄積しているユーザも、対象になる。しかし、モバイルトランザクションの高効率化という点で、これまでメインフレームなど検討したことのないユーザも、魅力をおぼえるはずだ、と。

具体的な例としてGilfixが挙げるのは、OpenStackによるプライベートクラウドだ。うむ、それならありかもしれない。

2012年のReuters(ロイター通信)の記事が、IBMにはまだメインフレームの顧客がおり、その数は数千のオーダー、と報じた。しかし、その後の市場の整理統合、そして企業ITの姿の変貌により、数はさらに減っているはずだ。IBMは、新しいメインフレームを現代的なパッケージで包めば、その市場は存続する、と賭けているのだ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。