ユーザーを「データ」でなく「人」として分析し、それぞれの人に合った体験を提供するためのプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を運営するプレイド。同社は4月19日、既存株主のフェムトパートナーズ、Eight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)と、新たに出資に参加する三井物産、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行などからの借入れにより、総額約27億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
プレイドではこれまで、2014年7月にフェムトグロースキャピタルなどから約1.5億円を調達、2015年8月にはFidelity Growth Partners Japanとフェムトグロースキャピタルから約5億円を調達している。今回の資金調達により、累計調達総額は約34億円になった。
今回の調達に先駆けてプレイドは、4月17日にKARTEのブランドリニューアルと機能拡張を発表している。“ウェブ接客からCX(Custmer eXperience:顧客体験)プラットフォームへ”とうたったその内容は、プレイド代表取締役社長の倉橋健太氏にTechCrunchが3月に取材したときの話をほぼ踏襲したものだ。まずはその新しい機能について見ていこう。
数値でなく人から発想することでマーケティングを楽しく
プレイドでは、2015年3月にウェブ接客ツールとしてKARTEをリリースして以来、2016年3月にユーザーへのメッセージチャネルをLINEやSMSなどに広げる連携ツール「KARTE Talk」、2017年12月にはサイト間や実店舗でのユーザー行動も横断的に見ることができる「KARTE CX CONNECT」、2018年3月にはアプリユーザーを対象にした解析・メッセージングツール「KARTE for App」を提供してきた。
プレイド Customer Success Directorの清水博之氏は、これまでのサービス展開については「ユーザーとのコミュニケーションを求める市場に対して、ユーザーへの『アクション』部分の機能を強化してきたもの」と述べている。
「KARTEは接客ツールとして始まった当初から『人軸』でユーザーを見ること、つまりユーザーを“知る”ことと、ユーザーに“合わせる”ことの双方をコンセプトとしている。ただしこれまでは、“知る”ことは大事だと思いながらも、ニーズとして強かった“合わせる”ことのほうに、より応えてきた」(清水氏)
リリース以来、KARTEの導入企業・サイト数は純増を続け、3年間の累計解析ユーザーは22億人、導入企業の約半数であるECの年間売上解析金額は5480億円に上るという。利用企業の規模も大きくなり、認知度も上がった今、顧客企業からは「どういう人が買っているのか、結局わからない」との声が増えてきたと清水氏は言う。
「ユーザーに“合わせる”、アクションを提供するツールでは、CVRがいくつとか、メールを何通送ったとか、(評価が)数字やデータの話になることが多い。そこではユーザー一人ひとりがどういう動きをし、どういう環境にあるのかはわからない。また大きな組織でデータを分析しようとすると、各部署に散在しているデータを集め、必要なものだけ抽出して解析して……と分析のためのスキルが必要でコストもかかる。そこでこれからのKARTEは“知る”ことに重心を移し、誰でもユーザーを『人』として知ることができ、誰でもユーザーにアプローチできるように機能を拡張した」(清水氏)
マーケターなどいわゆる「分析屋」だけでなく、経営層やカスタマーサポート部門といった社内の誰もがユーザーを直感的に理解できるよう、進化させるというKARTE。今回発表された新機能は5つある。
1. ライブ(仮称、ベータ版)
今夏の正式リリースに向けて開発が進められている「ライブ」は、ユーザー一人ひとりの行動を動画で見ることができる機能だ。サイトやアプリリニューアルの際に行うユーザビリティテストにも似たこの機能では、スクロール、タップやクリック、テキストの選択(ハイライト)といったユーザーの実際の動きを見ることができる。
「データにすると抜け落ちてしまう行動そのものを見ることで、新たな発見ができる。同時に(クリックなどの)イベントも計測しており、ユーザーの属性と動きを見比べることも可能だ。あるテキストを選択したユーザーがどういう属性かを見て、その人に刺さる言葉を考えるといったこともできる」(清水氏)
実店舗なら「買わない人」がどういう人で、どのように滞留して帰っていったか、ということも把握しやすいが、これまでの定量データでは、ウェブやアプリでアクションを起こさずに離脱した人の動きを見ることは難しかった。ライブ機能ではその把握もやりやすくなる。「数字じゃないところにヒントがある」と清水氏は話している。
2. スコア(ベータ版)
一人ひとりのユーザーの感情や状態をリアルタイムに数値化・可視化する機能が「スコア」だ。ユーザーが購入しそうか冷やかしなのか、よいユーザー体験を得ているかそうでないのか、といった度合いを見ることができる。
またECサイトならアパレル、コスメ、グルメといった商品カテゴリにより、ユーザー背景や動きは違ってくるが、それぞれのユーザー行動(イベント)をもとにルールを作成してポイントを付けることが可能。モチベーションの高いユーザーだけを絞り込んで表示する、といったこともできるので、コミュニケーションを取りたい人や観察したい人を見つけるのもやりやすくなる、と清水氏は言う。
3. ストーリー
スコアはあるユーザーのその瞬間の状態を把握するための機能だが、「ストーリー」はユーザーのこれまでの行動や状態を、時系列のグラフで表示することができる機能だ。スコアや行動量の変化を追っていって急に上下したところがあれば、グラフ上をクリックして、より詳しい行動を確認したり、ライブ機能で実際の動きを見たりすることができる。
「ライブ、スコア、ストーリーの3つの機能は、一人ひとりのユーザーを徹底的に可視化して、理解するためものだ」と清水氏は説明する。
4. ボード
残る2つの機能、「ボード」と「レポート」は定量データからユーザーにアプローチする機能だ。ボードはユーザーの属性や行動の統計値をグラフ、チャート、ファネルを使って見ることができる機能。見た目はGoogle Analyticsライクだが、グラフやファネル上でより詳しく見たいユーザー群があれば、クリックするだけで表示する内容を切り替えることが可能。ユーザー単位の情報にもたどり着ける。
「定量データから相関や特徴を読み解くことと、一人ひとりのユーザーに絞り込んだ理解とを、面倒な抽出やクエリなどの操作を挟まず、より直感的な操作でできるようにした」と清水氏は説明する。
5. レポート
レポートは5つの機能の中では「一番引いた視点」でユーザー情報を提供するもの。「事業サイドではやはりどうしても数字で情報が見たいときがあるので」全体像を把握するための機能も備えていると清水氏は言う。
ただしレポートでもボードと同様、情報から個々のユーザーにたどり着くことが可能。また逆に個々のユーザーの情報からレポートにたどり着き、そのユーザーが全体でどの位置に当たるのかを確認することもできるという。
清水氏はこれらの新機能により「ユーザー体験づくりが変わるはず」と言い、「数字とにらめっこして体験をつくる場合、どうしても数字から仮説を立てて、施策をやって、検証して、また分析をして……となる。『この人はなんでこういう行動をするんだろう』と人から発想すれば、マーケティングが楽しくなるのでは」と語っていた。
マーケティングのほか「先を示す」取り組みにも投資
プレイド代表取締役社長の倉橋氏は「新機能追加でも『データではなく、人としてユーザーを見る』という方向性は変わらない」として、お披露目されたばかりのコンセプトムービーを紹介してくれた。
そして導入企業も増える中で、より「顧客を知る」ニーズが顕在化してきたと倉橋氏は話す。今回の資金調達では「マーケティングも含めた投資で、成長に向けここでアクセルを踏む」と語っている。
プレイドの事業収益は2017年3月に単月黒字化を達成。「T2D3」*以上の成長を続けているという。
*“Triple, Triple, Double, Double, Double”の略。サービス開始から3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と年々売上が成長すること。SaaSスタートアップの成長指標として使われる。
「これまでの投資は、ユーザーを“知る”、“合わせる”と言ってきたことを実際のプロダクトで実現するために機能拡充を進めることと、ビジネスオペレーションの磨き上げに充ててきたが、マーケティング活動によらず、オーガニックに成長することができた」(倉橋氏)
倉橋氏は、ここで成長をゆるやかにせず「逆に成長角度を上げていきたい」と言い、「マーケティング投資が今回の調達の最大の目的」と述べている。
またマーケティング以外では、KARTEシリーズとして展開するアプリやKARTE CX CONNECT、KARTE Talkといったプロダクトをさらに良いものにすること、顧客企業のカスタマーサクセスにつながる体制強化のための採用活動や、EC以外のサービスへの普及なども進める考えだ。
非EC分野については、倉橋氏はこう言っている。「3年前は7割がECでの利用だったが、人材や不動産、金融など幅広い分野で利用されるようになり、現在はEC対非ECが50%ずつぐらい。KARTEが広い市場に受け入れられたサインだと思っている」
アパレル業界や不動産業界など、KARTEの導入率が高い業界も出てきている中で「プロダクトはシングルのまま、広く使っていただけるように戦略を強化していく」と倉橋氏は話す。
倉橋氏は海外への本格進出にも意欲を見せる。KARTEの多言語対応は、導入企業の中で日本から海外進出したり、海外の日本法人が利用したりしたことをきっかけに自然に始まったというが、倉橋氏は「今後は仕掛けて出て行く」と話している。
さらに昨年11月に公開された、サイトのユーザーが買い物する様子をVR空間で再現する「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)をはじめとした、研究開発への投資も加速する構えだ。
「コンセプトとしては『お客さまを大事に』『顧客視点が大事』といった当たり前のことしか言っていないKARTEだが、これをよりしっかり受け取っていただきたいとの思いから開発したのが、カルテガーデンだ。ユーザーを人として見られれば、感じ方や気づきが変わるということをもっと知ってもらいたい。そのために先を示す取り組みも進めていく」(倉橋氏)
また各サービスでの行動データの蓄積も進む中、R&Dによってデータをより意味のある形で、「人」化して本格的に提示していきたい、と倉橋氏は述べている。「新機能のライブやスコアでも、ゼロから見方を考えてもらうよりは、ある程度こちらから型を用意することで、顧客企業のナレッジのベースアップになれば。そういう意味でも、蓄積データで顧客を支援できれば、と考えている」(倉橋氏)