ロケットVTOLの成功は偉大な進歩―ただしベゾスのBlue OriginとマスクのSpaceXはカテゴリーが違う

CAPE CANAVERAL, Fla. (July 19, 2013) An Atlas V rocket launches the Navy's Mobile User Objective System (MUOS) 2 satellite from Space Launch Complex-41 at Cape Canaveral Air Force Station, Fla. MUOS is a next-generation narrow band tactical satellite communications system designed to significantly improve beyond-line-of-sight communications for U.S. forces on the move. (U.S. Navy photo courtesy of NASA by Patrick H. Corkery/Released) 130719-O-ZZ999-102
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低料金で宇宙飛行を提供するとしているBlue Originは、大気圏外にロケットを発射し、無事に地上に着陸させることに成功した初の企業となった。コンセプトはこの上なくシンプルだが、宇宙産業にとってこの成功の意義はまさに歴史的だ。ロケット・ブースターの再利用に道を開いた意義はいくら強調しても足りない。

Blue Originのファウンダー、ジェフ・ベゾスは、初めてTwitterを使い、こう述べた。

世界でも使用済みロケットというのは珍しい存在だ。制御された着陸は恐ろしく難しい。しかし成功してしまえば簡単に見える。下のビデオ見て欲しい。

現在、再利用可能な商用ロケットは市場に存在しない。こういう際に成功を伝える言葉はごく簡潔な「使命完了」だけ足りる。

われわれは飛行機の切符が高いと文句を言うが、宇宙旅行にかかる総額はとても比較になるものではない。その主な理由は打ち上げ1回ごとにほとんど何かもが捨てられてしまう―再利用できないからだ。SpaceXのCEO、イーロン・マスクはこれを「3億ドルのボーイング747をまるごと宇宙に捨ててくる」ことに例えた。

ロケットが再利用可能になればコストは最高100分の1まで下がるという推計もある。これは文字通り宇宙ビジネスのディスラプトだ。

しかし詳細に見れば、ロケットの再利用にもさまざまな種類があることがわかる。Blue Originの成功だけを見れば、同じくロケットの再利用を目指すSpaceXは遅れを取ったように見えるかもしれない。

SpaceXはFalcon 9が宇宙から帰還したとき、海上の艀に安全に垂直着陸させることを目指している。残念ながらこれまでの実験は2回ともロケットの爆発に終わっている。マスクはベゾスのロケット、New
Shepardの垂直着陸成功の報に接して、祝意を述べると同時に、Falcon 9との差を急いで説明しなければならなかった。

Getting to space needs ~Mach 3, but GTO orbit requires ~Mach 30. The energy needed is the square, i.e. 9 units for space and 900 for orbit.

— Elon Musk (@elonmusk) November 24, 2015

宇宙高度に到達するだけならマッハ3でいいが、弾道飛行にはマッハ30が必要。エネルギーは2乗以上だ。つまり9に対して900のエネルギーが必要になる。 

Blue Originは準軌道を目指している。つまりベゾスのNew Shepardは6人の乗客を乗せて短時間高度100キロの宇宙空間に飛び出すが、そこでただちに地上に引き返す。これに対してマスクのSpaceXは単に宇宙空間に出るだけでなく、大量のペイロードをマスクがGTOと呼ぶ静止トランスファ軌道(静止軌道への遷移軌道)まで運び上げることができる。この軌道は遠地点では地表から9万キロも離れる。

容易に想像がつくように、100キロと9万キロという高度の差は非常に大きく、必要とされるロケットの能力はまったく異なる。マスクはこの点を「宇宙に出るだけならマッハ3で足りるが、静止トランスファ軌道に入るためにはマッハ30を必要とする」と説明している。XKCDの記事はこれを「単に宇宙に出るだけなら簡単だ。難しいのは宇宙に留まることだ」と表現している。

宇宙に留まるためには衛星軌道を飛ばねばならなず、これは非常な高速が要求される。 SpaceXのFalcon9がNew ShepherdやVirgin Galacticの機体よりもはるかに巨大で強力なのはそういう理由による。マスクはベゾスに張り合ってか、SpaceXはロケットの垂直着陸テストに2013年に成功していると述べた。

ジェフは気づいていないかもしれないが、われわれのSpaceXは準衛星軌道へのロケットによるVTOLを2013年からテストしている。海面への着水は昨年成功した。次は軌道飛行の後の着陸だ。

実のところ、これは少々誤解を招く表現で、マスクの批判にかかわらず、Blue Originは実際にロケットに宇宙と地上を往復させた史上初の会社だ。マスクのツイートの前半はSpaceXのGrasshopper計画でロケットの垂直離着陸(VTOL)を成功させたというものだが、この実験でロケットは744メートルまでしか上昇しておらず、ベゾスのNew Shepardが到達した高度の1%程度だった。

2番目のツイートでマスクは、SpaceXはFalcon 9を軌道に送り、第一弾を安全に地表に帰還させる実験を行ったと述べている。これは事実だが、実験は2回とも海上の艀の上の爆発という華々しい失敗に終わっている。

つまり Blue OriginがロケットのVTOLを史上初めて成功させる一方で、SpaceXはまだその試み成功していない。そういう次第で、この2社の試みを同一の基準で公正に評価するのは難しい。両社はそれぞれに宇宙旅行の改良における重要なマイルストーンを達成したと考えるべきだろう。

ベゾスのBlue Originは宇宙旅行を希望する一般消費者(非常に裕福な旅行者)に直接切符を販売することを目的としている。これに対して SpaceXは大企業や政府(Orbital Sciences社、NASA、アメリカ空軍など)のペイロードを軌道上に有料で運び上げる。この2つはまったく異なるカテゴリーの活動であり、必要とされるロケットの能力も異なる。

そうではあるが、最初に再利用可能な宇宙ロケットを開発した栄誉は正式にBlue Originのものとなった。 New ShepardのVTOL実験成功でBlue Originは準衛星軌道に旅客を運ぶという当初の目的に向けて大きく踏み出したといえるだろう。

画像:Official U.S. Navy Page/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。