Solar ImpulseのパイロットBertrand Piccardは、太陽光発電の電力だけで世界一周を目指す旅に出たとき、移動中はあまり休むことができないだろうと覚悟していた。機内で睡眠自体はとれるものの、飛行中の睡眠時間は1日最大3時間、それも20分ごとに1回起きなければいけなかった。というのも、1人乗りのSolar Impulseでは、20分ごとにシステムが正常に動いているかチェックしなければならないのだ。
そこでPiccardは、短い休憩時間にできるだけ深い眠りにつけるよう、Sana Healthのプロダクトを一部の区間で採用した。
Sana Sleepと呼ばれるこの”スマートゴーグル”は、2018年のQ2には睡眠障害に悩む一般ユーザー向けにも販売される予定だとSana HealthのファウンダーでCEOのRichard Hanburyは話す。なお、最近同社はFounders FundやMaveronやSOSVらが参加したシードラウンドで130万ドルを調達した。さらにHanburyによれば、Sana Sleepの小売価格は400ドル前後になるという。
CEOのHanbury自身が慢性疼痛に伴う睡眠障害に苦しんでいたことをきっかけに、このプロダクトの開発はスタートした。彼は、1992年にイエメンでJeepを運転中に事故に遭って障害を負い、それ以後慢性疼痛を患っていたのだ。しかし、もともと彼のために開発されたテクノロジーを必要とする人は他にもたくさんいる。元気な幼児を除けば、誰もが快適な睡眠を求めているということだ。
CDCの最近のデータによれば、アメリカの成人の3分の1が十分な睡眠を取れていない。そしてピッツバーグ大学医学部の研究から、不眠症は人の気分や記憶力に悪影響をおよぼすだけでなく、その他にも様々な症状を引き起こすことが分かっている。
多くのスタートアップは、膨大な数のターゲットがいる不眠症対策ビジネスのチャンスに気づき、近年快適な睡眠を実現するためのプロダクトの開発に力を注いでいる。新しい素材で作られたマットレスや種々のウェアラブルデバイス、睡眠トラッキングアプリ、そのほかのIoTデバイスなど、プロダクトの種類はさまざまだ。
投資家もこのビジネスの可能性を信じているようだ。Crunchbaseのデータによれば、昨年以降少なくとも30社(うち6社がハードウェア企業)の睡眠関連プロダクトを開発しているスタートアップが、シードもしくはベンチャーラウンドでの資金調達に成功している。
Sana Sleepは一見パッド付きのゴーグルか、シンプルでかけ心地の良いVRヘッドセットのように見える。現在行われているテストでは、トレーニング期間中で移動の多いアスリートが、Sana Sleepを使うことでどのくらい効率的に休めるかということが調査されている。
Hanburyはこのデバイスの仕組みについて次のように説明する。「Sana Sleepは、音と光を使って脳の特定の動きを引き起こすデバイスです。ナイトクラブに遊びに行って、ストロボライトを眺めながら早いテンポの音楽を聞いているときのように、このデバイスは脳を一旦興奮状態にさせ、リラックスモードに入るために必要なパターンを人工的につくり出しているのです」
ゴーグルからは音と光がビートを打つように発せられ、毎回かけ始めはそれを認識できるが、やがて眠りに入ってくるうちに気づかなくなってくる。さらに、Sana Sleepはユーザーの脈拍や呼吸を計測し、バイオメトリクスの反応をもとに音や光を自動的に調節できるようになっている。
そのため、最初はゴーグルを”トレーニング”しなければならない。だいたい4回ほど使えば、それ以降ユーザーは(慢性疼痛に悩む人たちでも)ゴーグルをかけてから10分以内に眠りにつけ、一晩中ぐっすり寝られるようになる。
シードラウンド以前にも、Sana HealthはSOSVが運営するハードウェアアクセラレーターのHAXを含む複数の投資家から45万ドルを調達していた。SOSVのジェネラルパートナーを務めるCryril Ebersweilerは、Sana Healthが深刻な不眠症の解決に繋がるテクノロジーを開発していることから、シードラウンドで再び彼らに投資したと語っている。
「Sana Sleepには、24年間におよぶ研究と大規模なテストに裏付けられた性能が備わっています。今後もプロダクトの継続的な改良が必要ですが、どの流通チャンネルがプロダクトに合っているかについてもそろそろ考え始めなければいけません」と彼は語る。
初期のテストでSana Sleepの有効性が認められたため、現在Sana Healthはアメリカ食品医薬品局(FDA)から医療機器の認証を取得しようとしている。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)