日本国内で発生している事件や事故、自然災害——こうした緊急情報は警察署や消防署からの発表を受け、報道機関が現地に足を運び、そして報じる。それが一般的な報道の形だった。それがこの数年で変化してきた。
その変化の中心にあるのがSNSだ。すでに実感している人も多そうだが、何かあればFacebookやTwitterに情報を投稿する時代。現場にいる人の投稿で事件や事故、自然災害の発生を知ることが増えている。東日本大震災が起きたときも、Twitterを使って最新の情報をチェックしていたという人は多かったのではないだろうか?
こうした時代の変化を受け、報道機関も公的機関だけでなくSNSを使って第一報の収集にいそしんでいる。だがそこには人手や時間的な制約といった課題もある。そんな課題に着目し、解決しようとするサービスがある。それが「FASTALERT(ファストアラート)」だ。
JX通信社は4月13日、FASTALERTの正式リリースを発表した。2016年9月に有償ベータ版としてすでに公開していたが、正式リリースにあたって解析精度を向上。インターフェースも刷新した。
SNSに投稿されている緊急情報をAIが自動で検知
FASTALERTは、AIによってSNSに投稿されている事件や事故、自然災害といった緊急情報を自動検知するサービス。これにより、報道機関はFacebookやTwitterなどを細かくチェックし続けなくとも、いち早く報道すべき緊急情報をパソコン、スマートフォンから知ることができる。
検知の仕組みだが、JX通信社 代表取締役の米重克洋氏によれば、自社開発のAIが「いつ・どこで・何が起きたのか」という3つのポイントでSNSに投稿されている情報を判定し、報道機関をはじめとしたユーザーに伝える。Twitterにはデマ情報も多く投稿されているが、FASTALERTはきちんとフィルタリングを行い、間違った情報は低く評価し、ノイズが入らないようにしているそうだ。
もともと、JX通信社はテーマ特化型のニュース収集サービス「Vingow(ビンゴー)」、ニュース速報特化型サービス「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」など消費者向けのサービスを展開している印象が強いが、なぜ、法人向けのサービス開発に至ったのだろうか?
「我々は『ビジネスとジャーナリズムの両立』というビジョンを掲げ、その実現を目指しています。昨今、ニュースキュレーションアプリが登場したことで収益をあげる構造はできあがってきていますが、一方で報道機関やメディア運営は典型的な労働集約型でコストがかかったまま……。そんな状況に対し、緊急情報の収集を全て機械化することで、情報収集や取材のコストを削減できると思い、FASTALERTの開発に着手しました」(米重氏)
在京TV局や大手報道機関から高い評価
そして、2016年9月に有償ベータ版として公開。約半年の運営にもかかわらず、すでに日テレ、テレ朝をはじめとした複数の在京TV局、共同通信社、産経デジタルなど多数の大手報道機関で正式に採用されるなど実績も出ている。
この領域には米Dataminrのほか、日本のデータセクション、Specteeなどが先行して参入している。後発のサービスながらここまでの実績が出せた理由について、米重氏は「検知スピードの速さと情報の網羅性」を挙げる。FASTALERTはAIの活用に加え、ニュース速報アプリとして実績のあるNewsDigestのシステムも活用しているため、ノイズの少ない情報をスピーディーに検知してくる。報道機関からは「ニュースになる前の情報を知れるので、いち早く取材対応ができる」との声も挙がっているという。
実際、2016年10月に発生した東京の大規模停電、2016年12月に発生した糸魚川市大規模火災の第一報はFASTALERT経由だったそうだ。
また、情報の網羅性については国内だけでなく海外の緊急情報を検知する。そのため報道機関にとっては非常に重宝するサービスになっているとのこと。導入企業数は非公表とのことだったが、かなり高い評価を得ているそうだ。
今後について、米重氏は「ライフラインとして機能するプラットフォームを目指していく」と語った。