[著者:Bill Goodwin, Tyler Finn]
Bill GoodwinはAirMapのリーガルポリシー責任者。
Tyler FinnはFactualのポリシー管理者。
ロサンゼルスでは奇妙なことが起きている。先日、オフィスでは同僚たちが、トンネルの中を浮上して走る台車でドジャーズ・スタジアム周辺の交通渋滞を緩和するというBoring Companyの提案のメリットについて話し合っていた。その日の午後、コーヒーを飲みに外に出たところ、ドックレス式のレンタル・スクーターでよろよろと危なかしく走ってきた高齢の男性に轢かれそうになった。そしてその夜、州間高速道路10号線の渋滞にはまっていたとき、期限が切迫しているUberのEVTOL(電動垂直離着陸車両)のことをラジオのコメンテーターが話していた。そのころ、ベンチャー投資家の友人は、サンタモニカからシリコンバレーに帰るCabinバスの寝台個室の中で頭を枕に沈めていた。
これぞ非正常な交通の世界。
浮遊するソリや空飛ぶ自動車はないが、巨大都市ロサンゼルスは、今まさに移動手段の変革の只中にある。ダウンタウンの界隈からシリコンビーチに至るまで、レンタル・スクーターやレンタル自転車で埋め尽くされている。UberとLyftが起こした革命は、ドックレス二輪車を巡る競争に直面している。そして、Viaのライドシェアのサービスが間もなくロサンゼルスで始まる。Flixbusは、ヨーロッパの独占市場から手を広げ、都市間プライベートバス・サービス展開の拠点としてロサンゼルスに狙いを定めている。Cabinの高級寝台バスは、サンフランシスコ湾岸地区との往復でMegabusに代わるプレミアムな足となってから、すでに数カ月が経っている。
ロサンゼルスが例外なのではない。アリゾナでは子どもたちの通学に、フロリダでは老人ホーム周辺の高齢者の移動に、北カリフォルニアの無限ループと呼ばれるかの環状道路では、ジャーナリストの一団を運ぶために自律走行車両が使われている。Starshipの配達ロボットは100以上のコミュニティーに展開され、スコッツデールのKrogerの利用者には、今日もNuroが牛乳を届けている。世界中のドローン企業は、バンや自転車に代わる即時配達サービスにドローンを使う認可を請求している。さらに、30近くの街が、空飛ぶ車の実用化を目指すUrban Air Mobility Initiative(都市航空移動イニシアチブ)に加盟した。
こうしたテクノロジーのほんの一部でも実現に漕ぎ着けたなら、街の中の物や人の移動は、近い将来、奇抜にして美しいものとなるだろう。
それでもまだ、善意ある規制当局がスタートアップに赤信号を出して、この未来の到来が阻まれる恐れはある。世界の都市交通が、地下鉄以来の大革命を経験しつつある今、私たちは、政策立案者たちに、公平で、効率的で、環境に優しい運送システムのための3つの提案をしたい。それは、「こんなにワイルドな未来をどうやって計画すればいいのか?」という根本的な疑問に答えるものだ。
ルール1:石を彫る前に砂場で試す
これらの斬新な複合輸送の技術をうまく組み合わせる方法は、まったく見えていない。このパズルをコントロールできる適切な枠組みも、また決まっていない。規制的な考え方には、よちよち歩きのイノベーションを潰してしまう恐れがある。解決策は、規制サンドボックス(砂場)を奨励することにある。規制サンドボックスとは、新しく生まれたテクノロジーを通常の規制による制限の外で運用し、未来の規則の策定に役立てるためのメカニズムだ。このような保護された空間は、フィンテックや暗号通貨などの分野では一般的になりつつあり、政策立案者が法律を制定する前に、Adam Thiererが「ソフト・ロー」と呼ぶ非法的規範を進化させる機能がある。
規制サンドボックスをもっともよく示している実例は、偶然にも、砂漠で知られる土地にある。アリゾナは、実社会での実験を事実上不可能にしている規制を積極的に緩和する動きを見せている。テンペやチャンドラーを含むアリゾナ州の街々では、自律走行車両の企業がサービスを展開しようと競争を重ねてきたが、これが数多くの問題点を表面化させた。たとえば、自律走行車両は利用者以外の人々にとってどれほど不快な存在であるか、自動車を運転している人は自律走行の食料品配達車両にどう対応すればよいのか、車両が一部自律走行しているときの安全を行政当局どう確保すればよいか、といった事柄だ。
米連邦運輸省は、そうしたエコシステムと、そこからもたらされる教訓の価値を認識している。昨年、米運輸省はドローンのIntegration Pilot Program(統合パイロットプログラム)を立ち上げ、数多くの州、地方、部族政府が企業と協力して、高度なドローンの運用をテストできるようにした。これには、ドローン運用に関する規則の最適なバランスを探るという目的もある。このプログラムが早期に成功したことから、米運輸省は、同様のプログラムを自律走行車両にも実施すると発表した。このような柔軟な環境が、最先端テクノロジーを生み出す企業と規制当局との大変に重要な協力関係を促進する。新しい規制は、密室で立てられる仮説にではなく、実社会での実験に基づいて構築されるのだ。
ルール2:勝者と敗者を決めない
規制当局は慎重になり過ぎるところがあるため、既存の企業を贔屓することがままある。イノベーションを受け入れたとしても、どの企業、またはどの技術に運営の許可を与えるかを当局が決めてしまうことが多い。
たとえば、スクーターの事業を全面的に禁止した街もいくつかある。数年前にライドシェアを禁止したときと同じようにだ。ビバリーヒルズは、ドックレスのスクーターを禁止し、1000台以上のスクーターを没収した。これには、Birdに対する警告の意味が含まれていた。Birdはこれを受けて、スクーターの禁止はカリフォルニア州の複数の法律に違反するとして市を訴えた。
そのほかの街で、そこまであからさまにスクーターを禁止するところはないものの、企業との旧態然とした癒着関係を、新しい技術系既存企業に移し替えるという罠にはまりかけている。サンタモニカでは、地元住民の間でもっとも人気の高かった2つのレンタルスクーター・サービスであるLimeとBirdを禁止する直前まで行ったが、海岸に住む一般住民からの激しい非難が寄せられて初めて、市議会は4つの業者に事業を許可した。それでもまだ、その他の業者のスクーター・サービスは、市内で営業できないことになっている。
どのテクノロジーが成功して、どの企業がそれを運用すべきかは、市場に決めさせるべきだ。自治体は、審判を下すのではなく、新しいテクノロジーと既存の輸送インフラとのつながりを作る調整役に徹しなければいけない。そうでなければ、イノベーションはベビーベッドの上で死んでしまう。
PickPalを憶えておいでだろうか? UberやLyftの前に流行っていたのだが、今はもうPickPalは呼べない。スマートフォンが登場してすぐのころに現れた、カナダ生まれのライドシェアの先駆者だが、既存企業による妨害により、料金を取って人を乗せるサービスが禁止されてしまった。ライドシェアの利便性を理解せず、当局はそれを潰してしまったわけだ(もうひとつの人気が高かったライドシェア企業Allo Stopも道連れになった)。新技術によって実現しかけた新しい生活の足は、規制によって亡き者にされたのだ。
それとは対照的に、Uberは、市場に参入させまいとする力に対抗することができた。いろいろな局面で、彼らは敵対的なアプローチを使い、ライドシェアを存続できるように法律を変えさせてきた。だが、これによりライドシェア産業は生き残れたものの、ライドシェアと既存の交通ネットワークとを連携させる機会は遠のいてしまった。規制当局とライドシェア企業は衝突を繰り返しているため、街が必要としている交通問題の体系的な解決は、ずっと先送りにされている。
ルール3:チャレンジと、その手助けとなるツールを受け入れる
本来、交通は地元のためのものであり、移動革命の未来も、地元のためのものであることに変わりはない。ずっと都市環境という問題の上を漂っていた航空業界ですら、大都会との関係を考え直す必要に迫られている。電動垂直離着陸車両は、1970年代にヘリコプターが学んだ教訓を再び体験することになる。また、ドローン企業は、Eazeの空飛ぶ芝刈り機を使った配達の時間は午前3時がいちばん都合がよいと考えたときに発生するであろう、極めて身近な超地域的問題に直面することになる。
しかしそこには、未来の街のための最高にエキサイティングな機会が横たわっている。私たちが歩む道の上、下、上空に起きる変化に伴う負の外部性は、新たな頭痛の種となったその同じテクノロジーを使って調整できる。街は、自律走行車両のスムーズな運行にRideOSなどのプラトフォームを、輸送計画にスクーターを取り込むためにRemixを、公共サービスとしてのライドシェアを提供するためにViaを、また、私たちのAirMapを利用して、今はドローンを統合し、将来は空飛ぶ自動車を統合できるはずだ。
結論として、これらの奇抜で新しい交通の未来を都市が喜んで迎え入れるために必要なものは、制裁ではなく、問題の解決方法だ。既成概念に当てはまらない交通手段は、自治体の役人、計画立案者、議員たちに途方もない課題を突きつける。だがそれは、進む価値のある道だ。
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(翻訳:金井哲夫)