トヨタが自動車サブスクリプションのKintoをスタート、エコドライブにはボーナスポイント

日本のトヨタ自動車は自動車サブスクリプションのKintoを正式にスタートさせた。このサービスは去年末に発表され、自動車その他の交通手段を定額のサブスクリプションで提供する他、中古車の売買、整備、補修部品販売なども行う。

Kintoは100%子会社のトヨタファイナンシャルサービスと、住友商事グループの住友三井オートサービスが出資している。トヨタの発表によれば、Kintoへの当初の出資は18億円(1600万ドル)だという。

Kintoの設立は数年前から始まっていた新しい形の自動車利用へのシフトを明確化するものだろう。世界の自動車メーカーはサブスクリプション・モデルを各種実験している。ただし結果は成功ばかりではない。VolvoのCare by Volvoはもっとも成功した例だが、キャデラックはBook by Cadillacサービスを中止している。ただしGMでは再開の方策を検討しているという。

他の自動車サブスクリプションと異なり、Kintoはサービスをゲーム化しているのが特色だ。実際の運用はこの秋から開始されるが、顧客のドライビングの「エコ」、「安全」の度合いを判定し、それに応じたボーナスポイントを還元するという。トヨタではドライビングをどのような基準で判定するのか具体的に明かしてないが、利用される自動車はインターネットに接続され、各種センセーで情報がモニターされるものとみられる。【略】

Kintoのサービスは当面、日本で実施される予定で、ヨーロッパ、アメリカは対象とされていない。Kinto Oneのメンバーはトヨタの自動車1台(プリウス、カローラ・スポーツ、アルファード、ベルファイア、クラウン)を3年間利用できる。利用できるモデルは2019年秋までにさらに拡大される予定だ。Kinto Oneのサブスクリプションは消費税を含まず月額4万6100円(419ドル)から9万9000円(901ドル)まで。Kinto Selectプランの場合、ユーザーは3年契約で6車種のLexuxの中から選択できる。こちらは月額18万円(1638ドル)だ。

両サービスとも月額定額で、任意保険、自動車税、登録費用、車検費用などを含んだパッケージだ。

ハイエンド版のKinto Selectは今週ただちに運営がスタートする。 Kinto Oneは3月1日スタートの予定。それぞれトヨタとLexusの首都圏のディーラーの一部で試行が開始される。この夏には大都市圏に拡大されるという。

画像:Toyota

(日本版)トヨタ自動車のKintoのプレスリリース

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滑川海彦@Facebook Google+

交通の非正常化の未来へようこそ

[著者:Bill Goodwin, Tyler Finn]
Bill GoodwinAirMapのリーガルポリシー責任者。
Tyler FinnFactualのポリシー管理者。

ロサンゼルスでは奇妙なことが起きている。先日、オフィスでは同僚たちが、トンネルの中を浮上して走る台車でドジャーズ・スタジアム周辺の交通渋滞を緩和するというBoring Companyの提案のメリットについて話し合っていた。その日の午後、コーヒーを飲みに外に出たところ、ドックレス式のレンタル・スクーターでよろよろと危なかしく走ってきた高齢の男性に轢かれそうになった。そしてその夜、州間高速道路10号線の渋滞にはまっていたとき、期限が切迫しているUberのEVTOL(電動垂直離着陸車両)のことをラジオのコメンテーターが話していた。そのころ、ベンチャー投資家の友人は、サンタモニカからシリコンバレーに帰るCabinバスの寝台個室の中で頭を枕に沈めていた。

これぞ非正常な交通の世界。

浮遊するソリや空飛ぶ自動車はないが、巨大都市ロサンゼルスは、今まさに移動手段の変革の只中にある。ダウンタウンの界隈からシリコンビーチに至るまで、レンタル・スクーターやレンタル自転車で埋め尽くされている。UberとLyftが起こした革命は、ドックレス二輪車を巡る競争に直面している。そして、Viaのライドシェアのサービスが間もなくロサンゼルスで始まる。Flixbusは、ヨーロッパの独占市場から手を広げ、都市間プライベートバス・サービス展開の拠点としてロサンゼルスに狙いを定めている。Cabinの高級寝台バスは、サンフランシスコ湾岸地区との往復でMegabusに代わるプレミアムな足となってから、すでに数カ月が経っている。

Cabinバスの車内。

ロサンゼルスが例外なのではない。アリゾナでは子どもたちの通学に、フロリダでは老人ホーム周辺の高齢者の移動に、北カリフォルニアの無限ループと呼ばれるかの環状道路では、ジャーナリストの一団を運ぶために自律走行車両が使われている。Starshipの配達ロボットは100以上のコミュニティーに展開され、スコッツデールのKrogerの利用者には、今日もNuroが牛乳を届けている。世界中のドローン企業は、バンや自転車に代わる即時配達サービスにドローンを使う認可を請求している。さらに、30近くの街が、空飛ぶ車の実用化を目指すUrban Air Mobility Initiative(都市航空移動イニシアチブ)に加盟した。

こうしたテクノロジーのほんの一部でも実現に漕ぎ着けたなら、街の中の物や人の移動は、近い将来、奇抜にして美しいものとなるだろう。

それでもまだ、善意ある規制当局がスタートアップに赤信号を出して、この未来の到来が阻まれる恐れはある。世界の都市交通が、地下鉄以来の大革命を経験しつつある今、私たちは、政策立案者たちに、公平で、効率的で、環境に優しい運送システムのための3つの提案をしたい。それは、「こんなにワイルドな未来をどうやって計画すればいいのか?」という根本的な疑問に答えるものだ。

ルール1:石を彫る前に砂場で試す

これらの斬新な複合輸送の技術をうまく組み合わせる方法は、まったく見えていない。このパズルをコントロールできる適切な枠組みも、また決まっていない。規制的な考え方には、よちよち歩きのイノベーションを潰してしまう恐れがある。解決策は、規制サンドボックス(砂場)を奨励することにある。規制サンドボックスとは、新しく生まれたテクノロジーを通常の規制による制限の外で運用し、未来の規則の策定に役立てるためのメカニズムだ。このような保護された空間は、フィンテックや暗号通貨などの分野では一般的になりつつあり、政策立案者が法律を制定する前に、Adam Thiererが「ソフト・ロー」と呼ぶ非法的規範を進化させる機能がある。

規制サンドボックスをもっともよく示している実例は、偶然にも、砂漠で知られる土地にある。アリゾナは、実社会での実験を事実上不可能にしている規制を積極的に緩和する動きを見せている。テンペやチャンドラーを含むアリゾナ州の街々では、自律走行車両の企業がサービスを展開しようと競争を重ねてきたが、これが数多くの問題点を表面化させた。たとえば、自律走行車両は利用者以外の人々にとってどれほど不快な存在であるか、自動車を運転している人は自律走行の食料品配達車両にどう対応すればよいのか、車両が一部自律走行しているときの安全を行政当局どう確保すればよいか、といった事柄だ。

米連邦運輸省は、そうしたエコシステムと、そこからもたらされる教訓の価値を認識している。昨年、米運輸省はドローンのIntegration Pilot Program(統合パイロットプログラム)を立ち上げ、数多くの州、地方、部族政府が企業と協力して、高度なドローンの運用をテストできるようにした。これには、ドローン運用に関する規則の最適なバランスを探るという目的もある。このプログラムが早期に成功したことから、米運輸省は、同様のプログラムを自律走行車両にも実施すると発表した。このような柔軟な環境が、最先端テクノロジーを生み出す企業と規制当局との大変に重要な協力関係を促進する。新しい規制は、密室で立てられる仮説にではなく、実社会での実験に基づいて構築されるのだ。

ルール2:勝者と敗者を決めない

規制当局は慎重になり過ぎるところがあるため、既存の企業を贔屓することがままある。イノベーションを受け入れたとしても、どの企業、またはどの技術に運営の許可を与えるかを当局が決めてしまうことが多い。

たとえば、スクーターの事業を全面的に禁止した街もいくつかある。数年前にライドシェアを禁止したときと同じようにだ。ビバリーヒルズは、ドックレスのスクーターを禁止し、1000台以上のスクーターを没収した。これには、Birdに対する警告の意味が含まれていた。Birdはこれを受けて、スクーターの禁止はカリフォルニア州の複数の法律に違反するとして市を訴えた

そのほかの街で、そこまであからさまにスクーターを禁止するところはないものの、企業との旧態然とした癒着関係を、新しい技術系既存企業に移し替えるという罠にはまりかけている。サンタモニカでは、地元住民の間でもっとも人気の高かった2つのレンタルスクーター・サービスであるLimeとBirdを禁止する直前まで行ったが、海岸に住む一般住民からの激しい非難が寄せられて初めて、市議会は4つの業者に事業を許可した。それでもまだ、その他の業者のスクーター・サービスは、市内で営業できないことになっている。

どのテクノロジーが成功して、どの企業がそれを運用すべきかは、市場に決めさせるべきだ。自治体は、審判を下すのではなく、新しいテクノロジーと既存の輸送インフラとのつながりを作る調整役に徹しなければいけない。そうでなければ、イノベーションはベビーベッドの上で死んでしまう。

PickPalを憶えておいでだろうか? UberやLyftの前に流行っていたのだが、今はもうPickPalは呼べない。スマートフォンが登場してすぐのころに現れた、カナダ生まれのライドシェアの先駆者だが、既存企業による妨害により、料金を取って人を乗せるサービスが禁止されてしまった。ライドシェアの利便性を理解せず、当局はそれを潰してしまったわけだ(もうひとつの人気が高かったライドシェア企業Allo Stopも道連れになった)。新技術によって実現しかけた新しい生活の足は、規制によって亡き者にされたのだ。

それとは対照的に、Uberは、市場に参入させまいとする力に対抗することができた。いろいろな局面で、彼らは敵対的なアプローチを使い、ライドシェアを存続できるように法律を変えさせてきた。だが、これによりライドシェア産業は生き残れたものの、ライドシェアと既存の交通ネットワークとを連携させる機会は遠のいてしまった。規制当局とライドシェア企業は衝突を繰り返しているため、街が必要としている交通問題の体系的な解決は、ずっと先送りにされている。

ルール3:チャレンジと、その手助けとなるツールを受け入れる

本来、交通は地元のためのものであり、移動革命の未来も、地元のためのものであることに変わりはない。ずっと都市環境という問題の上を漂っていた航空業界ですら、大都会との関係を考え直す必要に迫られている。電動垂直離着陸車両は、1970年代にヘリコプターが学んだ教訓を再び体験することになる。また、ドローン企業は、Eazeの空飛ぶ芝刈り機を使った配達の時間は午前3時がいちばん都合がよいと考えたときに発生するであろう、極めて身近な超地域的問題に直面することになる。

しかしそこには、未来の街のための最高にエキサイティングな機会が横たわっている。私たちが歩む道の上、下、上空に起きる変化に伴う負の外部性は、新たな頭痛の種となったその同じテクノロジーを使って調整できる。街は、自律走行車両のスムーズな運行にRideOSなどのプラトフォームを、輸送計画にスクーターを取り込むためにRemixを、公共サービスとしてのライドシェアを提供するためにViaを、また、私たちのAirMapを利用して、今はドローンを統合し、将来は空飛ぶ自動車を統合できるはずだ。

結論として、これらの奇抜で新しい交通の未来を都市が喜んで迎え入れるために必要なものは、制裁ではなく、問題の解決方法だ。既成概念に当てはまらない交通手段は、自治体の役人、計画立案者、議員たちに途方もない課題を突きつける。だがそれは、進む価値のある道だ。

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(翻訳:金井哲夫)

Lyftの調査で、その利用者のうち25万人が2017年に自家用車を手放したことが明らかに

Lyftは2017年におけるその「経済的インパクト」 に関する詳しいレポートを発表した。レポートにはその業績に関する沢山の統計情報が含まれている。この配車サービス業者によれば、2017年にはのべ3億7550万回の乗車があり、1年前に比べると130%の成長となった。そのうちユニークな乗客数は2300万人であり、これは1年前に比べて92%の成長である。登録されているドライバーは140万人で、2016年の登録数に比べると100%の増加をみている。

Lyftは車の個人所有に関するインパクトに関する、強い主張も行っている。同社によれば、2017年だけで、Lyftの乗客のおよそ25万人が、配車サービスの存在を主な理由として、個人所有の車を手放しているということだ。また顧客のうち50%が、Lyftのサービスのおかげで運転時間が減少したことも報告されていて、さらに顧客の4分の1は、車の個人所有をもはや重要だとは思っていない。

また同社の調査は、自動運転車とその利用に対しての一般的な好感度が高いことも示している:同社によって調査されたLyftの乗客の83%が、もし利用可能になれば、配車された自動運転車に乗車することに抵抗はないと答えている。

またLyftよれば一年で一番忙しかったのは大晦日だったことも報告している(意外なことではない)。この日の乗車回数は200万回を超えた。これに加えて、ドライバーたちと利用するコミュニティの両者に対して金銭的な伸びがあったことを報告している。ドライバーの年間収入合計は36億ドルで140%の伸びであり、ドライバーへのチップは2億4000万ドルで、こちらは前年に比べて120%の増加となった。Lyftによれば、その営業範囲にあるコミュニティの中で、乗客たちは前年に比べ20億ドル多く支払い、そのことで地域の潤いに貢献しているということだ。そして昨年同社の寄付プログラムを通して、乗客たちは370万ドルを寄付している。

明らかにLyft以下の主張を行おうとしている:そのサービスは交通量を減らし、コミュニティの移動性を高めるということだ。それらは同社にとって特に強調したい点だろう、特に配車サービスが、当初望まれていたような都市交通混雑の緩和には役立たず、短期的には悪化させているのではないかという批判が出ている状況下では。配車サービスやその他の移動手段の変化は、多くの人びとが想像しているよりも、移動というものを徐々に進化させて行く。そしてこのような統計情報は、そうした変化が、将来都市をより住みやすい場所にしていくための、重要なインパクトを持っていることを表す有力な指標なのだ。

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(翻訳:sako)

イーロン・マスクは本気でトンネルを掘り始めた―ロサンゼルスで掘削デモ

A picture taken on January 25, 2016 shows a tunnel boring machine at the building site of the extension of the tramway of Nice.
The extension of the tramway in Nice will connect the city from West to East for a distance of 7.7 km. The line will be open to the public in 2018. / AFP / VALERY HACHE        (Photo credit should read VALERY HACHE/AFP/Getty Images)

TeslaとSpaceXのCEO、イーロン・マスクは本当にトンネル掘削会社をスタートさせる。会社の名前もThe Boring Companyだという。この会社の頭文字はTBCになるが、ご存知のようにこれは「次回に続く(to be continued)」の略語としても知られている。マスクはトンネル掘削に賭ける野心をまずTwitterに投稿し、続いてデモがBloombergの特集記事になった。

この掘削はロサンゼルス空港付近のSpaceX本社の駐車場という意外な場所で開始されたが、これは実用的な理由の他に、私有地なので法律的問題をクリアする必要がないという点もあったらしい。

現在のプランというのは、トンネル・ボーリング・マシンを設置できるよう駐車場に掘られた最初の穴を拡張することだという。ボーリング・マシンはその後地下15メートルのあたりで水平にトンネルを掘り進む。最終的には自動車が通行できる広さのトンネルになる。マスクがBloombergに語ったところでは、このトンネルは「新しい地下交通ネットワークの一環となる」ということだが、このトンネルが具体的にどこへ向かうのかは明らかにしなかった。

マスクは最終的に自動車と列車が利用できる上下30レベルにも上るトンネルネットワークを構想している。マスクが提唱する真空チューブ輸送―Hyperloop―ももちろん候補の一つだろう。マスクのビジョンは、現在のように地表に縛られた2次元ではなく、上下に自由に交差可能な3次元の地下交通システムを建設することだ。

都市交通の3次元化を進める上での選択肢はもう一つある。上空だ。UberやAirbusは「空飛ぶオンデマンド・タクシー」の構想を追求している。これも地上の渋滞を避ける有力な方法だろう。しかしマスクは安全性、実現性、輸送力、あらゆる面で空を飛ぶよりトンネルの方が有利だと考えている。

都市内の飛行輸送システムに関する最初のハードルは技術的なものだ。コスト・パフォーマンスに優れた機体を生産するためには今後数多くのテクノロジーを完成させねばならない。また航空は特に規制が厳しい分野だ。飛行経路などを含めて交通システム自体をゼロからデザインする必要もある。これと比較すれば、トンネルについては既存の知識が大幅に活用できる。もちろんマスクのビジョンは既存の枠組みをはるかに超えたものだが、それでも地下交通自体はゼロから構想されるわけではない。

マスクの計画にもテクノロジー上のイノベーションが多々必要だ。しかしマスクは既存のものよりはるかに掘削速度が速い「優れたボーリング・マシン」を開発する自信があるようだ。
マスクがBloombergに語ったところによれば、「トンネル掘削産業というのはSpaceXがスタートしたときの宇宙産業のような状態」にあるという。つまりレガシー・プレイヤーはほとんどテクノロジーを進歩させておらず公共事業の巨大な予算に頼りきっていた。技術革新を狙うスタートアップにとっては十分に成算がある分野ということだろう。

トンネルの掘削と利用に関してはすでに十分に先例もある。一見突飛に見えても一歩下がって検討すると、都市交通の改善にトンネルを活用するというマスクのアイデアは理にかなっているように思える。

画像: VALERY HACHE/AFP/Getty Images/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

空飛ぶ車実現の鍵を握る自動運転車とドローンのテクノロジー

Cartoon illustration of a flying car passing above other land vehicles

【編集部注】執筆者のTony AubeはOsmoのリードデザイナー。

幼い頃は、日曜朝のアニメチャンネルを兄弟で見ながら、宇宙家族ジェットソンの再放送で一家が空飛ぶ車で空を走り回る様子を眺めていた。当時はサイエンス・フィクションの黄金期で、ハリウッドは、ブレードランナー、バック・トゥ・ザ・フューチャー、スター・ウォーズ、フィフス・エレメントといった映画で溢れていた。そしてこのような映画の影響で、私たちは夢のようなテクノロジーで溢れた未来がいつか訪れると信じていた。

今周りを見てみると、当時の未来像に含めれていた、たくさんのものが既に実現したように感じる。道を歩いている人のポケットの中には高機能の通信機が入っており、地球上の誰とでもすぐにコミュニケーションがとれる。人間の遺伝子情報は全て解明され、世界中のほとんどの情報を指先で集めることができるばかりか、火星を侵略しようとさえしている。ここまで技術が進歩しているにも関わらず、何かが欠けている気がしないだろうか。まだ空飛ぶ車が誕生していないのだ。空飛ぶ車を作るのがそんなに難しいはずはないだろう。

空飛ぶ車の忘れ去られた歴史

信じられないかも知れないが、空飛ぶ車の誕生から既に70年以上が経っている。1904年にJules Verneが発表した小説Master of the Worldの中に空飛ぶ車が登場して以来、技術者は何世代にも渡ってその実現に向けて努力を重ねてきた。1940年にはHenry Fordが、飛行機と自動車を組合せた乗り物がそのうち誕生すると予言していた。当時の飛行機と自動車は、機体の価格が低下する一方、技術力は向上し、普及率も上がってきていた。そのため、近いうちに車と飛行機を組合せた乗り物が登場すると思われていたのだ。Fordの予言は正しく、彼の予言から数年後に、航空エンジニアのTed Hallが世界初の完全に機能する空飛ぶ車を完成させた。

70年前に作られたこのビデオには、実際に空を飛んでいる車の様子がおさめられている。機体は乗用車と取付可能な翼からできている。当時の航空機大手だったConvairが支援していたこのプロジェクトの中で、彼らは66回もテスト飛行を成功させていたため、あとは微調整を加えれば商業的な成功は目の前だと考えられていた。しかし1947年に行われたテスト飛行中、着陸時に衝突事故が起き、それ以後Convairはプロジェクトから手を引くことになった。そして、危険すぎると判断されたこのプロジェクトは、Hallの空飛ぶ車を一家に一台という夢とともに、最終的には消えてなくなってしまった。

それ以来、幾度となく空飛ぶ車の開発プロジェクトが立ち上げられたが、プロトタイプの段階を越えるようなものは生まれなかった。しかし、空飛ぶ車のアイディアに関して注目すべきなのが、誰も諦めないということだ。挫折や失敗が繰り返されているにも関わらず、どの世代のエンジニアも空飛ぶ車のアイディアの虜になり、その状況は今でも変わっていない。

究極的に言えば、空飛ぶ車が実現しない理由はテクノロジーやコストの問題ではない。

今日でも、TerrafugiaAeroMobilMoller Internationalといった企業が、この夢の実現に向けて動いている。彼らの名前は聞いたこともないかもしれないが、3社とも実際に動くプロトタイプを既に完成させている。

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AeroMobil 3.0というぴったりな名前が付けられた、AeroMobileの最新のプロトタイプ。

それじゃなぜ空飛ぶ車は世界中を飛び回っていないのか?

前述の通り、空飛ぶ車に必要なテクノロジーが誕生してからは既に何十年も経っており、今日でも空飛ぶ車の開発を行っている企業が存在する。それではなぜ、未だに車が空を飛んでいる様子を目にしないのだろうか?

一言で言えば、それは人間のせいなのだ。

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以前の記事でも触れた通り、人間というのはひどいドライバーだ。アメリカでは、車が関連する事故で年間3万人が命を落としており、8710億ドルものお金が消えてなくなっている。あなたの周りで運転が1番下手な人を思い浮かべてみてほしい。次に、その人が2トンの重さを持つ死のマシンに乗って、空を飛び回っている様子を想像してみてほしい。どんな気持ちがしただろうか?

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空飛ぶ車が一般に普及すれば、間違いなく世界中の建物で死亡事故が起きるだろう。現代の建築物は、(常に発生している)普通の車の衝突事故には耐えられるように設計されているが、空飛ぶ車は想定されていない。さらに、空中ではちょっとした衝突事故が起きるだけで、衝突した車と衝突された車の両方が地上に落ちる可能性がある。空飛ぶ金属の塊がいつ自分の頭の上に降ってくるかもわからないような世界には誰も住みたくないだろう。

究極的に言えば、空飛ぶ車が実現しない理由はテクノロジーやコストの問題ではない。空で何かを操縦するにあたって、ほとんどの人間はあてにならないという事実こそが、本当の理由なのだ。

ドライバーレステクノロジーの登場

ここから空飛ぶ車の議論は面白くなってくる。私たちは既に自動車に関して、あてにならない人間の問題を自動運転技術で解決した。

自動運転車は現実のものだ。大手テック企業は軒並み自動運転車の開発に力を入れており、街がGoogleカーのような自動運転車で溢れるのも時間の問題だ。自動運転車は素晴らしいアイディアである一方、その後継候補である自動飛行車には魅力では勝てない。

「どうすれば、空飛ぶ車を操縦できるほどコンピューターが賢くなれるのか?」と疑問に思うかもしれない。

どうやら、路上を走る車よりも空を飛ぶ車用のドライバーレステクノロジーの方が、簡単につくれらしい。空中には歩行者もいないし、くぼみもない。工事現場もなければ、その他のコンピューターが判断に迷うような障壁も空中には存在しないのだ。これこそ、ドライバーレステクノロジーがまず航空機に導入され、既に何十年間も航空業界で利用されている理由だ。センサーや演算能力、AIといったテクノロジーの発展に伴い、最近ではパイロットの必要性さえ問われている。今日のパイロットは、1フライトあたり平均3.5〜7分しか飛行機を操縦しておらず、以前は弁護士や医者と肩を並べていた給与に関しても、現在アメリカのパイロットの初任給は最低で時給10.75ドルまで下がってしまっている。自動化によって、タクシーやトラック運転手の仕事がなくなってしまうという議論が至る所でされているが、パイロットも例外ではない。

ここまでをまとめると、安全性が空飛ぶ車の主な問題点で、ドライバーレステクノロジーがそれを解決できるかもしれない。それでは、誰がその研究を行っているのだろうか?

いつもの顔ぶれ

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シリコンバレーに拠点を置く3人の著名人は、近年空飛ぶ車に強い関心を持っており、現在全員がドライバーレステクノロジーの開発に注力している。さらに3人とも豊富な資金力を持っているほか、世界トップクラスのエンジニアの力を借りることができ、これまでにも不可能と思われていたことを可能にした実績がある。Travis Kalanick、Larry Page、Elon Muskがその3人だ。

先月公開した98ページに及ぶ白書の中で、Uberは空飛ぶ車の未来に関するビジョンを説明している。この文書(概要はこちら)には、今後10年のうちにグローバルなオンデマンドのシェア航空サービスを提供するため、Uberがビジネスをどのように展開していくかについての具体的な計画が記載されている。要するに彼らは、ドライバーレスの空飛ぶ車用のUberアプリをつくろうとしているのだ。

UberそしてTravis Kalanick以外に、Larry Pageも空飛ぶ車にはかなり興味を持っている。これまでに彼は、1億ドル以上ものお金を、空飛ぶ車の開発に力を注ぐZee.AeroとKitty Hawkという2社のスタートアップに密かに投資してきた。Zee.Aeroは現在ホリスター市民空港でプロトタイプのテストを行っており、変わった見た目の乗り物が離着陸する姿を見たと報告している人もいる。Kitty Hawkの動きは謎に包まれているが、とても興味深いことに、以前Googleで自動運転車プログラムのトップを務めていたSebastian Thrunがこの会社の経営に関わっている。

Uberはドライバーレスの空飛ぶ車用のUberアプリをつくろうとしているのだ。

Muskはと言えば、どうやら彼は空飛ぶ車のアイディア自体そこまであてにしていないようだ。誤解しないでほしいのが、彼は空飛ぶ車をつくるのが難しい考えているわけではなく、ハイパーループのようにもっと効率的に都市間を移動する手段があると信じているのだ。しかし、長距離移動手段としてMuskが推奨しているのが、電気飛行機だ。いくつかのインタビューの中で、Muskは次なる大きなアイディアとして超音速電動ジェットのことを話していた。すでに彼は電気飛行機のデザインを終えているため、このまま競合が登場しなければ、またMuskは新たな会社を立ち上げて超音速電動ジェットを現実のものにしてしまうかもしれない。

面白いことに、これらのプロジェクトの機体のデザインには共通点がある。UberもPageもMuskも、電動で人間を運ぶことができ、地面に対して直角に離着陸できるような機体を考えているのだ。特に最後のポイントが重要だ。

人間用ドローンとして知られるVTOL機

ここまでに紹介した空飛ぶ車は、せいぜい飛行機と車が奇妙に組み合わさった高価な乗り物としか捉えられない(車と飛行機の良い点が潰されてしまっている)、と思う人もいるだろう。もともと車と飛行機は全く別の目的を持った乗り物であるため、単純にふたつを組み合わせただけでは上手くいくはずもない。突き詰めれば、飛行機と車を別々に購入した方が良いくらいだ。

このような設計上の問題を解決するために、空飛ぶ車は車か飛行機のような見た目をしていなければならない、という固定観念をまず捨て去る必要がある。以前公開した記事の中でも、人は旧来のソリューションを新たなテクノロジーに応用しようとする悪い癖があるということや、なぜ全く新しいプロダクトには新しい設計上のアプローチが必要かということに触れていた。これこそ、VTOL機の構造を空飛ぶ車に採用すべき理由なのだ。

VTOL機とは垂直離陸機(Vertical Take Off and Landing vehicles)のことを指している。要するに、今日のドローン革命を起こしたテクノロジーを使って、将来人間を運べるような空飛ぶ車をつくることができるかもしれないのだ。翼や車輪のことは一旦忘れ、宇宙家族ジェットソンが乗っているような空飛ぶ車や、DJIのドローンを人間が乗れるように大きくしたものを思い浮かべてみてほしい。

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CES 2016で公開されたEHang 184は、数あるプロトタイプの中でも注目の機体だ。

もしも、ドライバーレステクノロジーが空飛ぶ車実現の鍵を握っているとすれば、ドローンのテクノロジーは、機体を大量生産できるように簡素化する上で重要な役割を担っている。

飛行機の翼を車に取り付けるというアイディアは、見た目以外にもさまざまな問題を抱えている。翼を使って飛ぶためには、乗り物が水平方向に離陸する必要があり、これは危険なだけでなく、プロセスも煩雑になる上、離陸時に広大なスペースが必要になる。翼を垂直スラスタに替えるだけで、機体は素早く空高くへと舞い上がることができ、そうすれば燃料も節約できる。このように設計を行えば、主翼や尾翼、エレベーターといった、飛行機の中で最も危険とされる可動部を乗り物に搭載しないですむのだ。その結果、もっとシンプルで安全かつ大量生産しやすい機体が生まれる。

空飛ぶ車は車か飛行機のような見た目をしていなければならない、という固定観念を捨て去らなければいけない。

設計上重要な別の点として、電気モーターが挙げられる。これは単に環境に優しいだけでなく、VTOL機の動力源としては電気が一番理にかなっているのだ。電気モーターであれば、可動パーツの数を抑えられ、内燃エンジンよりも簡単につくることができる。また、電気モーターの方がずっと燃費が良く、メンテナンスも簡単で、飛行中に壊れる可能性も低いほか、内燃エンジンのように衝撃で爆発することもない。さらに電気を利用すれば、複数のスラスタを別々にコントロールすることもできる。そのため、もしも複数あるスラスタのうちどれかが故障しても、それ以外が直ちに浮力を補正し、無事に着陸することができる。そして最後に、電気モーターは騒音面でも内燃エンジンに勝っている。これこそ、VTOL機とヘリコプターの違いを生んでいるポイントだ。前述の白書の中でUberは、VTOL機の離陸時のノイズは、街の環境音と変わらない程度の大きさで、飛行中にはほとんど音が聞こえないはずだと推測している。

毎日の飛行通勤

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出典: Shutterstock

渋滞にひっかかっているときに、大きな赤いボタンを押して空に浮かび上がり、他の車を飛び越えていければと思ったことはないだろうか。渋滞の解消という夢を空飛ぶ車が実現しようとしている。

超高層ビルが都市部の限られた土地を有効利用しているように、都市部で空を飛ぶ交通機関が発達すれば、空の3次元空間を有効活用して地上の渋滞を解消できるかもしれない。― Jeff Holden, Uber CPO

これまでにも述べている通り、渋滞は大きな社会問題のひとつだ。アメリカだけでも、渋滞のせいで年間1240億ドルが無駄になっている。そして、交通渋滞の主な原因のひとつがインフラ不足だ。私たちが利用している高速道路は、今日の車の台数を想定してつくられてはいない。しかしVTOL機を利用すれば、この問題も解決する。VTOL機が一般に普及すれば、道路や線路、橋、トンネルの必要性がかなり減ることになる。これは環境に優しいだけでなく、公共事業に投じられるはずだった何千億ドルものお金の節約にもつながるのだ。

さらに、インフラに依存しない交通機関を利用することで、時間の節約もできる。電車やバスや車は、必ずしも効率的とは言えない限られた道順をたどってしか移動することができない。また、旧来の交通手段には、車両事故や工事などで道が遮断される可能性が常につきまとう。一方、空飛ぶ車であれば、最短距離で一直線に目的地まで到達することができる。さらに、地面と垂直に離着陸できれば、空港や滑走路など、現代の飛行機が離着陸するのに必要なスペースもいらなくなる。家のそばで離陸して、目的地のすぐとなりに着陸すればいいだけなのだ。繰り返しになるが、必要とするインフラの量が減るほど時間は節約できる。

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Uberは白書の中で、VTOL機の最初のユースケースには、長距離通勤が最適だと記している。VTOL機の大量生産が実現すれば、最終的には車を所有するよりもVTOL機を利用した方が安くなるとUberは考えているのだ。例えば、車だと2時間12分かかるサンフランシスコからサンノゼまでの道のりも、20ドルの料金を支払えばVTOL機に乗って15分で移動できるようになるかもしれないのだ。

空飛ぶ車実現への道

空飛ぶ車の実現にはまだまだ時間がかかる。前述の白書の中で、Uberも空飛ぶ車の実現までに解決しなければいけない主な課題を明示していた。まず、ドライバーが必要ないとしても、空飛ぶ車は連邦航空局の規制に準拠しなければならず、承認までにはかなりの時間がかかることが予想される。さらに安全面やコスト面の問題もまだ残っており、バッテリー周りのテクノロジーも追いついていない。Uberは、いかにこのような課題を解決し、10年以内にVTOL機を一般普及させるかについても白書の中で述べている。

著書「From Zero to One」の中でPeter Thielは、私たちはもう革新的な世界に住んではいないと述べ、物議を醸した。産業革命の結果、電気や家電、超高層ビル、自動車、飛行機といったさまざまなイノベーションが誕生した一方、現代のイノベーションのほとんどは、ITや通信の世界に留まっていると彼は主張しているのだ。Thielの指摘通り、ライフスタイルが1950年代から不思議なほど変わっていないという事実に、私たちはスマートフォンのせいで気づいていないだけなのかもしれない。

しかし私は、少なくとも交通の分野ではその現状が変わろうとしていると主張したい。自動運転車やハイパーループ、再利用可能な宇宙ロケットといった最近のプロジェクトを見る限り、イノベーションは未だに生まれ続けている。そして、かつて自動車が地上交通の敷居を下げたように、オンデマンドで共有型の空飛ぶ車によって、空中移動が身近なものになろうとしている。このテクノロジーによって、将来的には誰もが、今よりも快適に速く、安く、安全でより環境に優しい手段で移動できるようになるのだ。

空飛ぶ車の実現に向けた道のりは長いかもしれないが、そんなことは問題ではない。だってMarty、私たちがこれから行こうとする場所には、道など必要ないのだから。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

イーロン・マスク、その名も「掘削企業」(boring company)を始めるとツイート―道路下トンネルで渋滞解消

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多数の会社のCEOを務めるビジョナリー経営者のイーロン・マスクだが、今度は交通渋滞にうんざりするうちに、また新しい会社を思いついたらしい。その名もまさにThe Boring Companyだという〔boringには「うんざりする」と「穴を掘る」の両方の意味がある〕。この会社は掘削機で道路下にトンネルを掘って地上の渋滞を解消するのだそうだ。

マスクは土曜に渋滞に巻き込まれて新しいベンチャー企業のインスピレーションを得たらしい。ボーリングという単語をネタにした駄洒落ツイートを連発していた。その後のツイートからから考えても企業創立はどうやら本気らしい。

TeslaとSpaceXで驚異的な成功を収めたマスクだが、同時にこれまでCEOとして失敗も多かった。しかし事業の上でしつこい冗談を言う性格だたとは知られていない。これほどはっきり何かをやりたりと言うならそれは真剣なのだろう。しかもマスクはTwitterの自己紹介欄の「現在の事業」にTesla、SpaceX、OpenAIに加えて「トンネル(そう、地中を掘るあのトンネルだ)」を付け加えた。

マスクのツイートについて言えば―渋滞で立ち往生した人間の反応としてはいささか子供っぽい。普通程度の想像力があるティーンエージャーだったら、渋滞の解消策として、A) 空飛ぶ車、B) 地下トンネル、を考えつきそうだ。しかしマスクの実績を考えると、実現可能性を考慮した上の発言かもしれない。すくなくとも実現に向けてなんらかのロードマップは準備しているのだろう。

そういうことであればマスクはTwitterで大掛かりなホラを吹いたりうっぷんを晴らしたりしているわけではないのだろう。ともあれマスクはこれまでテクノロジー起業家として信じられない成果を上げてきた。それならもうひとつの山に登る(掘る?)ことにしたとしても不思議はない。

画像: Brisbane City Council/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

〔日本版〕東京の山手トンネルは1992年着工、2015年完成。総延長18.2km。7割の区間で記事トップ写真のような掘削機を利用したシールド工法が用いられたという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Hyperloop One、ヘルシンキ/ストックホルム間340kmを30分で結ぶ真空ポッドシステムを提案

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Shervin Pishevarのスタートアップ、Hyperloop Oneは新たな記録を打ち立てた。といって先日のネバダの砂漠での実験線の成功ほど華々しくはないだろうが、ビジネス・プランを提案した。

Gizmodoによればビジネス・プランはエンジニアやコンサルタント企業のKPMGと提携してフィンランドのヘルシンキとスウェーデンのストックホルムをポッド式のHyperloop交通システムで結ぶ計画を投資家に説明するものだ。

Hyperloop Oneのプレゼンはシステムと投資の両面を説明するものだったが、 その中には2都市を結ぶ現在の交通ルートが3時間かかっているにのに対して、新システムが実現すれば30分に短縮されること示したスライドがあった。3時間という空路の所用時間には都心と空港の移動に通常必要とされる時間が含まれている(遅延や乗り遅れなどの障害なしの場合)。これに対してHyperloopは出発から到着まで正味28分となっている。

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Hyperloopシステムに馴染みがない読者のために説明すると、これはもともとイーロン・マスクが発案したテクノロジーで、減圧したチューブの中を高速でポッド式の乗客カプセルを走らせる新しい交通システムだ。真空に近いチューブの中は空気抵抗がゼロに近い。磁気浮上と組み合わせることによって大幅に抵抗を軽減し、従来の交通方式の速度限界を大幅にアップすることができるとされる。マスクは発案者ではあるものの、このシステムに割く時間がないとして、自身では実用化を手がけないと述べている。

PishevarのHyperloop Oneはマスクを継承してこのアイディアの実現を図るものだ。同社は上で触れたように、この5月、ネバダの砂漠で小規模ではあるが技術的には大きな達成である試験線の運転に成功している。またほぼ同時期に8000万ドルに資金調達し、社名もHyperloop TechnologiesからHyperloop Oneに改めた。最近同社は大規模なリストラを経験し、CTO、共同ファウンダーのBrogan BamBroganが離任している。

今回発表された案は計画の細部まで固めたものではない。しかし大まかな建設費用は計算されており、210億ドル〔2.1兆円〕をやや超える程度だという。年間の利益が8億8500万ドルと推計されており、これが正しければ建設費の回収にはそれほど長期間を要しない(国際的な公共交通システムの建設としては、という但し書きがつくが)。【略】

Hyperloop Oneの計画にいくらかでも実現の可能性が含まれるとしたら、われわれは「都市圏」という言葉の意味を考え直す必要が出てくるかもしれない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

WHILLが新たに約20億円を調達、電動車椅子の枠を超えたパーソナルモビリティ事業に取り組む

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「次世代パーソナルモビリティ」の開発を手がけるWHILLは本日、総額1750万ドル(20億円弱)の資金調達を行ったことを発表した。Eight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)をリード投資家とし、未来創生ファンド、ゴールデンアジアファンドⅡ等が参加している。また、Eight Roads Ventures JapanのDavid Milstein氏がWHILLの社外取締役として就任すると発表した。今後、電動車椅子に留まらず、WHILLが掲げる「次世代パーソナルモビリティ」の普及を目指し、新たにシェアリング事業なども手掛ける計画だ。

TechCrunch Tokyo 2012のスタートアップバトルの優勝者でもあるWHILLは、ソニー、トヨタグループ、オリンパスなどメーカー出身のエンジニアを中心とするチームだ。CEOの杉江理氏も日産自動車出身だ。彼らが最初に取り組んだ「WHILL Type-A」は、手動の車椅子にモーターをアタッチする形式だった。その後、現在のモーターと車輪が一体型の「Model A」を開発し、2014年9月から一般販売を開始している。「Model M」は、アメリカでFDAの認可を得るために「Model A」の仕様を一部変更したモデルとWHILLの広報担当者は話す。FDAの認可を得ることで、医師が処方することができるようになり、保険も適用されるようになるという。「Model M」はFDAの電動車椅子としての要件をクリアするため、主に変更したのは背もたれの部分だ。様々な症状の患者に合わせてカスタマイズできるよう変更しているという。また「Model A」ではBluetooth経由でiPhoneアプリから車椅子を遠隔操作することが可能だが、「Model M」にはそれがない。いかなる環境でも安全、安心を追求するFDAの基準に則すためという。

2016年2月、FDAから商品の認可が下りたとWHILLの広報担当者は話す。現在、FDAによるWHILLの製造現場の調査が行なわれていて、順調に進めば7月からアメリカで「Model M」の一般販売を開始できる予定だという。アメリカのユーザーは代理店経由で車椅子を扱う約50店舗からWHILLを購入できるそうだ。

今後WHILLは、シェアリングサービスなどの事業開発を検討しているという。例えば、自転車の貸し出しやカーシェアリングのように、駅付近やアミューズメントパークなどの施設内でパーソナルモビリティを活用した事業を考えているそうだ。それに伴う機能開発、例えばパーソナルモビリティが自動で当初あった場所に戻るなどの自律走行機能などの開発を行うことも視野に入れているという。

今回Eight Roads Ventures Japanをリード投資家に迎えたのは、新たな事業を展開を行うためのアライアンスや機能開発で協力できる企業を探すためのネットワークに期待しているためという。また、主要市場と位置付けているアメリカ市場での販売強化と認知度の向上を図るための協力を得られることも理由の一つと話す。WHILLの2015年度の販売実績は日米合わせて500台だったとし、2016年度はその2倍、1000台の販売を目指す計画だそうだ。

WHILLは「電動車椅子という枠に超えて、新たな乗り物を提案していきたい。そしてこれに乗るのは楽で、かっこよくて、クールであるという認識を広めたい」と話している。2012年5月に正式に法人化したWHILLはこれまでに総額約1285万ドルを調達している。今回の調達で累計調達額は約3035万ドルとなった。