仮想ホワイトボードで離れた場所でもリアルタイムに共同作業、グッドパッチの新サービス「Strap」

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で企業のリモートワークへの移行が加速している。今までは同じオフィス内でメンバーと直接顔を合わせながら取り組んでいたプロジェクトも、オンライン上で離れた場所から進めなければならないことも増えてきた。

グッドパッチの新サービス「Strap」はそんなリモート環境下で働くチームを支援するサービスだ。「クラウドワークスペース」を謳うこのプロダクトでは場所の制約を超えてチームメンバーが1つのオンラインスペースに集まり、全員で情報を共有しながらリアルタイムで共同作業をできるようにする。オンラインホワイトボードのようなイメージだと紹介するとわかりやすいかもしれない。

グッドパッチでは本日4月23日よりStrapのβ版の事前登録を始めた。5月中旬を目処に登録企業に対して順次提供していく予定だという。

オンラインワークスペース上でリアルタイムに共同作業

Strapの特徴は豊富なテンプレート機能を用いて簡単に作図をできることだ。

一部追加予定のものも含まれるがロードマップやプロジェクトの体制図、マインドマップ、ワイヤーフレーム、カスタマージャーニーマップ、ビジネスモデル図、KPIツリー、業務フロー図など事業立ち上げから運用フェーズに至るまでに役立つビジネスフレームワークをテンプレートとして搭載。ユーザーが情報を素早く可視化するのをサポートする。

ワークスペースの広さには制約がないためスペースを気にすることなくプロジェクトに関する様々な情報を一箇所に集約することが可能で、1クリックでメンバーに共有できる。

このように作成・共有した図や資料などを用いながらオンライン上でコミュニケーションを進めていくのがStrapの基本的な使い方だ。複数人による同時編集機能ではリアルタイムで同じ情報を見ながらコラボレーションができる。

わかりやすいユースケースは付箋を使ったオンライン上での会議やブレストだろう。付箋が簡単に作れる仕組みが備わっているので、オンラインホワイトボードとして使うのにもってこい。Zoomなどのビデオチャットツールと併用することでリモート環境における会議の質の向上も見込める。

またリアルタイムではなくてもコメント機能を使って細かいフィードバックが可能だ。どのメンバーがどの箇所に対してコメントしたのかを追えるので、その経緯まで含めて全員で把握し認識をすり合わせられるように設計されている。

Strapは幅広いユーザーが使えるサービスではあるが、メインターゲットとしてはディレクターやプランナー、プロジェクトマネージャーなどを想定しているとのこと。従来のやり方だと思考の整理をしてからメンバー間で認識を共有し意思決定をするまでに複数のツールをまたぐ必要があり、時間がかかるのが課題だった。Strapではプロジェクトに関する情報を一箇所に統合し、一連の工程を効率化する点がポイントだ。

一例としてディレクターの仕事の変化を見てみよう。これまでは思考を整理するのに紙のメモやメモアプリを使い、それをPowerPointやKeynoteなどを用いて図や資料に落とし込んでいた。情報はメールやチャットで共有し、リアルな会議でメンバーと会話しながらフィードバックをもらう。デジタル化した議事録を参考に資料をアップデートし、再度共有して合意形成をしていく。

このプロセスがStrapを使うことでどう変わるのか。思考の整理や可視化にはStrap上のマインドマップを始めとしたテンプレートが使えるだろう。見栄えも悪くないので、メンバーと認識のズレをなくすための資料としてはそのままでも十分だ。URLを共有してメンバーをワークスペースに招待し、会議前や会議中にフィードバック内容をStrapに書き込んでもらえば、後から議事録をまとめる手間も省ける。

ビジュアルを用いて「チーム間の認識のズレ」を解消できる仕組みを

グッドパッチはデザインカンパニーとしてクライアント企業のUI/UXデザインを行いつつ、自らも複数のプロダクトを手がけてきた。その代表格が2014年にローンチしたSaaS型のプロトタイピングツール「Prott」だ。実はこのProttを作ったメンバーが中心となって今回のStrapを開発したのだという。

「もともとProttを作ったのは、UIデザインのプロトタイピングフェーズにおける認識のズレを早い段階で解消できる仕組みが必要だと感じていたからだ。ズレが生じる主な原因は言葉によるコミュニケーションに頼りすぎていること。言葉だけで話すより、ものを見て会話した方がお互いの認識をすり合わせやすい。そしてこの認識のズレという課題は色々な場面で起きているのではないかと考えたことがStrapが生まれるきっかけになった」(Strap事業責任者の北村篤志氏)

Prottは現在立ち上げから7年目を迎えている。その間に同様のプロダクトもいくつか生まれる中で、今後もずっと同じ確度で成長し続けられるとは限らない。社内でもProttを引き続き運営しつつも、それに続く次の自社プロダクトを作りたいという思いは以前からあったという。

またProttにおいてはデザインのプロトタイピングツールという位置付けのため、プロトタイピングフェーズを終えた後に解約されてしまうことがあるのも1つの課題となっていた。それも踏まえて次のプロダクトを作る上では、ある程度幅広い用途で長期間に渡って使えるもので、なおかつグッドパッチとして良さが出せるものにしようと考えていたそうだ。

「デザイナーはその仕事の性質上、テキストだけでなくビジュアルや図解、映像など様々なアプローチを駆使してチーム内で共通認識を取ることが多い。チームの認識のズレをなくす方法として『デザイナーが普段やっているようなことを誰でも簡単に実現できるツールがあれば便利なのではないか』という考えに行き着いた」(北村氏)

エンジニアリングマネージャーの西山雄也氏によると、Strapはそもそも自分たち自身の課題を解決するためのプロダクトでもある。グッドパッチでもクライアントワークに取り組む際にテキスト以外のビジュアル情報も用いながらコミュニケーションを進めているが、その中で「自分たちのやり方に合うものを探していたがなかなか見つからず、結果的に複数ツールに分散していた」そう。それがペインにもなっていたという。

「ビジュアルでのコミュニケーションを簡単にすることに加えて、従来は複数の場所に散らばっていた情報を1つのワークスペースに統合することで、情報共有やコラボレーションをもっと効率よくできないか。そんな課題感から作ったプロダクトでもある」(西山氏)

機能面では「スマートデフォルト」をコンセプトに、簡単な作業でアイデアを可視化できることを重視した。Strapが目指すのはクオリティの高いデザインを作れることではなく、誰でも素早く作図ができ、それを基に効率的にコミュニケーションが取れること。複雑な機能はなくし、極力シンプルな設計を心がけたという。

「グッドパッチとして様々なクライアントワークを手がける中で、企業が抱えている課題や一緒にプロジェクトを進めていく上で必要なことも把握できているのが強み。例えばそこで培ったノウハウをテンプレート化すれば、実際の現場で使える生きたナレッジを誰でも簡単に利用できるようになる。そういった点は自分たちの特徴を活かせる」(北村氏)

オンラインホワイトボードという観点では「miro」など類似プロダクトも存在するが、日本発のサービスとして日本語のUIやサポートに対応しているだけでなく、グッドパッチがこれまで蓄積してきたノウハウが活用されている点もStrapならではの特徴だという。

Strap事業責任者の北村篤志氏(写真右)とエンジニアリングマネージャーの西山雄也氏(写真左)

今夏を目処に正式版ローンチへ

Strapでは昨年の夏頃から社内でα版をドッグフーディングしながら検証を進め、今年2月より一部の外部企業にもクローズドβ版を提供しながらアップデートを図ってきた。5月中頃を目処にβ版の提供を順次進めながら、今夏にも正式版をローンチする計画だ。

今後の展望についてはβ版の反応なども踏まえながら検討していくとのことだが、北村氏や西山氏は「ストレージ」としての可能性も感じているそう。Strap上にプロジェクトを進めきた過程での情報や意思決定の経緯が残れば、それは会社の資産になる。新メンバーが加わった際にチームの状況をキャッチアップしたり、上手くいったプロジェクトのノウハウを他のチームに共有したりする用途でも使えるかもしれない。

「リモートワークが加速する状況下に置いて、離れているメンバーとオンラインホワイトボードを介してコラボレーションをしたり、会議の質を高めたりできるツールはニーズが高いと考えている。Strapというサービス名も何かを“繋ぐ”“結ぶ”といった意味で名付けたもの。チームの中で個人と個人の思考を繋ぎ、組織内でチームとチームを繋ぐことで新しい価値を提供できるサービスを目指す」(北村氏)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。