北欧にいるVR/AR分野の人材を求め、Magic Leapがフィンランドに拠点を拡大

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編集部注: 本稿はDennis Mitznerによって執筆された。彼はイスラエルのテルアビブに住むライターで、スタートアップやテクノロジーを専門にしている。

 

フロリダ州に本社をおくMagic Leapがヘルシンキに拠点を拡大した。フィンランドが豊富に抱える、Nokiaとゲームによって育てられたVRとAR分野の優秀な人材を獲得するためだ。

今年7月、Magic Leapはヘルシンキに子会社を設置し、同社のCFOであるScott Henryがその子会社の会長に就任した。この件について取材を試みたものの、同社はコメントを控えている。

フィンランドにあるVRやAR分野のスタートアップに話を聞いたところ、世界で最も口が堅いスタートアップとも言えるMagic Leapの子会社との提携について、彼らは肯定することも否定することもなかった。しかし、フィンランドが多くのテクノロジーに関するノウハウを蓄積していること(特に、光学技術、ハードウェア、ソフトウェア)、そして、そのノウハウがVRとARの分野で主導権をもつために欠かせないものだという事を考えれば、グローバルな巨大企業やスタートアップにとってフィンランドの人材が魅力的に写るのは当然のことだと言えるだろう。

Magic Leapとフィンランドはすでに深いつながりがある。Magic Leapでソフトウェア部門のバイスプレジデントを務めるShalinder Sidhuは、過去にはNokiaでLinuxスマートフォン向けのフトウェアの開発部門を指揮していたという経歴を持つ。ソフトウェアおよびユーザー・エクスペリエンス部門のバイスプレジデントを務めるYannick Pelletも、同じくNokiaでLinuxベースの携帯機器向けオープンソースOSプロジェクトであるMeego Deviceのシニアディレクターを1年半務めていた。

フィンランドに注目する企業はMagic Leapだけではない。2013年にNokiaを買収したMicrosoftも、HoloLensに使われるレンズの設計をフィンランドにある開発拠点で行っている。

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誰もが認める優秀な人材

Magic Leapが拠点をおくのは、VRとARには欠かせないテクノロジーによって名を馳せた地域ばかりだ。その地域にいる人材を獲得することがそこに拠点をおく目的だったことは明らかだろう。

同社が本社をおくフロリダは、オーランドとともにゲーミングとグラフィックスのハブ拠点として急成長しており、全米でも指折りのビデオゲームの開発コミュニティでもある。ニュージーランドでは、Peter Jacksonが経営する特殊エフェクトのWeta Workshopと提携を結んでいる。

AlphabetやAlibabaから14億ドルの軍資金を調達したMagic Leapは、他のVR企業とは違ったユニークな存在だ。FacebookやGoogleのVRやAR製品に関するニュースが毎日のように報道される一方で、人材を十分に抱えながらニュージーランドやヘルシンキで製品を開発するMagic Leapは、より静かで、かつ長期的な目線をもったアプローチを採用していると言える。

フィンランドはハイエンドのグラフィック技術において20年という長い歴史をもっており、それがローカル企業によるVR製品が誕生できた理由だ。2006年にNvidiaが買収したHybrid Graphicsや、同じく2006年にATI Technologiesが買収したBitBoysなどがその例である。

それにより今では、フィンランドにあるゲーミング分野のスタートアップをはじめ、ハードウェア、ソフトウェア、光学技術分野のスタートアップなどが世界中から注目を浴びるようになった。

ありとあらゆる分野でノウハウを蓄えてきたフィンランドは、次なる革新的な光学技術が誕生するための土壌が出来上がっている。フォトニクス製品のNanocomp、X線カメラのAdvacam、ALDのPicosunやBeneq、カメラ技術のNokiaやMicrosoft、スペクトルイメージングのSpecimやSpectral Engine、光学機器製造のOplatekやMillog、レーザーテクノロジーのCajoやPrimoceler、デバイスのテスティング・ロボットのOptoFidelity、品質保証(QA)のHelmee Imaging、シリコンフォトニクスのRockley Photonicsなど、フィンランドには非常に大きな光学技術のエコシステムがある。

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Getty Images/chombosanの厚意により掲載

フィンランドのソフトウェアとハードウェアの開発技術も同じように素晴らしいものだ。その分野で活躍するプレイヤーとして、ワイアレスコミュニケーションのNokiaやOulu大学、電子設計のSkunkやBittium、画像処理のSoftcolor、ゲーム開発のSupercell、Rovio(「アングリーバード」を開発した企業)、Remedy、アニメーション製作のFake、そしてOS開発のJollaやMicrosoftなどがある。

スマートガラスを開発するDispelixの共同創業者兼CEOであるAntti Sunnariは、Magic Leapが狙うのはフィンランドがもつOS開発のノウハウだと話す。

「彼らが何を求めているのか、そして彼らが何をしようとしているのかということを考えれば全体像が見えてきます。ハードウェアつくるために14億ドルを調達する企業などいません。彼らが目指すのはOSの開発です。Symbia、Meego、LinuxなどのOSはフィンランドに浸透しています。それを考えれば、彼らがフィンランドに拠点を構えるのは理にかなったことだ言えるでしょう」。

また、Magic Leapが一風変わった場所に拠点を構えるのは、その土地に住む人々が優秀だからという理由だけではないとSunnariは語る。

「彼ら(Magic Leap)はわざとシリコンバレーから遠ざかっているように見えます。彼らはノウハウがあるところに拠点を構えているのです。競合禁止契約はカリフォルニアでは違法ですが、その他の地域ではそれは違法ではありません」と彼は話す。

消費者向けのプロダクトだけではない

今年9月、HuaweiはフィンランドにあるタンペレにR&D拠点を設置した。ここでは消費者向け製品に利用するカメラ、オーディオ、そして画像処理技術の研究開発を行っている。世界中から北欧のスタートアップに対する興味が集まっていることを示していると言えるだろう。

フィンランドのVRシーンにあるのは、カッコいいガジェットやゲームだけではないと語るのは、フィンランドを拠点とするVC、Superhero Capitalの共同創業者であるMoaffak Ahmedだ。彼はゲームやVR分野のスタートアップへの投資を専門とするSisu Game Venturesを通し、フィンランドのVR企業である3rd Eye、Resokution Games、Solfar、Vizorなどに投資をしている。「より”シリアス”なARやVRの分野でも素晴らしい企業が生まれています。B2B向けのテクノロジーやソリューションなどがその例です。おそらく、現時点においてARやVRの分野でしっかりとした収益をあげているのは、その後者の企業(B2B向けのプロダクトを開発する企業)だけでしょう」。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

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TechCrunch Japan

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