安定志向だった私が共同創業者に、ヘルスケア×フードテックの可能性

D2Cベビーフード「the kindest」の販売・製造、ヘルスケアに特化した創作レストラン「 西麻布」の運営を手掛けているMiL自分らしい人生を食から実現するをミッションに2018年、夫婦の杉岡侑也氏、杉岡千草氏、シェフの3名で創業したフードテック企業だ。

the kindest20194月の販売開始以降、20203月末までに販売実績14万食を突破し、累計約3.3億円の資金調達を実施。現在、新商品の開発も進んでいる。保育士兼介護士のキャリアを経て経営の世界に飛び込んだ杉岡千草氏に、フードテックで起業した経緯や夫婦経営のメリットについて話を聞いた。

介護・保育現場から見えてきた「食の課題」

杉岡千草氏は幼稚園教諭・保育士資格・介護福祉士・食育アドバイザーなど複数の資格を保持。保育士兼介護士として7年弱、障害を持つ子供の世話に携わってきた。

「起業のきっかけは、障害を持つ子供のいる家庭に食事による健康課題が多くあること。例えば、知的障がいがあり白い食べ物しか口にできなかったり、脳に障がいがあり運動することができず栄養バランスが崩れてしまっている子がいるんです。さらに、そのような子供に食生活を合わせている家庭は、家族もきちんと栄養を摂れていないことも課題になっていました。

「この状況を改善できないか」と考えていたときに友人に誘われて参加した料理教室で、油や砂糖などの調味料を一切使用せず野菜本来の素材だけで調理する料理法に出合いました」。

食品添加物を使わず無添加の素材にこだわった食事を提供できれば、障がいのある子供だけでなく、家族も心身ともに健康を手に入れられるのでは。そう考え、同じく食に興味を持っていた夫の杉岡侑也氏とシェフとともに起業。ヘルスケアに特化したレストランをオープンすることに。

夫婦経営は「お互いの作業量が見えるので精神的なフォローをしやすい」

夫の杉岡侑也氏は20代ながら2社の起業経験がある。経営の先輩としての頼もしさはあるが、仕事とプライベートとの線引きがあいまいになることに不安はなかったのだろうか。

「私は安定志向で起業するタイプではなかったんです。でも彼の行動力と決断力があればなんとかなるかもしれないと思い、一緒に創業する道を選びました。お互いに収入がわかっているのでヘソクリではできないけれど(笑)、どれくらい忙しいか目に見えてわかるので、精神的なケアがしやすいのは夫婦経営で良かった点ですね。

それに彼自身、上下関係を作りたくないという考えなので、夫婦ではなく「1メンバーとして言い合える関係を築いています。彼の思想や常に一緒にいる環境も相まって、事業に関する意思決定スピードは速いように感じます。昔も家族で商売をしてる時代があったので、今の時代に夫婦経営や家族経営があっても不思議ではないと思います

レストランで提供していたメニューをもとにベビーフードを開発

まずは自分たちの技術を認めてもらうための「体験できる場」として、ヘルスケア創作レストラン「倭 西麻布」を2018年にオープン。

「メニューにもこだわりたかったので、開発に時間を要しました。野菜・魚・肉、それぞれで調理法を変えたりと、どのようにおいしさと健康を両立させるかをシェフと趣向を凝らす日々。起業準備からクラウドファンディングで開業資金を募るまでに1年くらいかかりました」。

レストランが軌道に乗り始めた2018年末、メニューとして出していたにんじんのピューレを食べたお客様から「子供のにんじん嫌いが治った」という声を聞き、ベビーフードとしてプロダクト開発することに。

the kindestは、小児科医、管理栄養士、シェフ監修のもと、子供が取りづらい鉄分や亜鉛、ビタミンDなどの栄養素が入ったベビーフード。

そのまま食べることも、アレンジすることも可能。味は23種類あり、「にんじんのピューレ」「シラスと白いんげんの和え物」「鶏ささみと野菜のあんかけ」などバリエーションが多く月齢に合わせていたりと、飽きないようにしているのもポイントだ。サブスクリクション型でも販売しており、金額は月11980円で20食。販売実数は20203月末時点で14万食を突破している。

「ユーザー獲得はマス向けに展開しており、フォロワー12000人のインスタグラムと登録者約8000人のLINE@がメイン。さらにテレビや雑誌などでありがたいことに露出が増え、『孫に送りたい』というおじいちゃん・おばあちゃん層からのギフトニーズも増えています」。

一家に1つ、MiLの商品が食卓に

518日には初の子供向けおやつであるソフトクッキーの販売も開始。今後の事業展開を聞いた。

「『倭 西麻布』は現在、新型コロナウイルス感染拡大による自粛で予約人数を減らしたり、デリバリーやテイクアウトがメイン(2020611日現在)。店舗経営とプロダクト開発の両立が理想ですが、今は後者に力を入れています。

商品ラインはベビーフードとおやつがメインですが、今後は1歳以降のお子さま向けやこれからママになる人に向けた商品も開発していきたい。家庭に1つはMiLの商品があるという世界を目指しています」。

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TechCrunch Japan

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