これまで実際にその場へ出向いて行わなければならなかったことを、バーチャルでできるようにしたアプリは過去20カ月間のパンデミック渦で飛躍的な伸びを見せているが、そのうちの1つが米国時間11月9日、好調な成長を背景に大きな資金調達を発表した。Jackpocket(ジャックポケット)は250万人のアクティブユーザーを擁するアプリで、ユーザーが同アプリを通して米国10州で宝くじのチケットを購入できるというものだ。その同社が今回シリーズDラウンドで1億2000万ドル(約136億9000万円)を調達した。CEO兼創業者のPeter Sullivan(ピーター・サリバン)氏は、宝くじ販売というコアビジネスからより幅広いモバイルゲームへと事業を拡大し、他社との提携も見据えて米国内外のより多くの市場に事業を展開していく計画であると話している。
「第1四半期末までに少なくとも5つの州に新しく進出する予定です」とサリバン氏は意気込んでおり、テクノロジーへ投資してeコマース、サブスクリプション、モバイルウォレットサービスの世界からの「ベストプラクティス」を導入しつつ、他の形態のゲームも検討していると付け加えている。
「多くの人はご存じないでしょうが、宝くじの何パーセントかは慈善活動に使われています」と同氏。Jackpocketは新たにラッフル、懸賞、ビンゴ、ソーシャルカジノゲームなどの分野を開拓しようとしている。「より楽しいゲームプレイと勝利のチャンスを提供し、より多くをお返しできる方法を考えています」。
Jackpocket最新のピッチデッキによると、同社の拡大戦略は以下の通りである。
今回の投資はLeft Lane Capital(レフトレーンキャピタル)が主導しており、コメディアンのKevin Hart(ケヴィン・ハート)氏、Whitney Cummings(ウィットニー・カミングス)氏、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏、Manny Machado(マニー・マチャド)氏などが参加している他、Greenspring Associates(グリーンスプリング・アソシエイツ)、The Raine Group(ザ・レインル・グループ)、Anchor Capital(アンカーキャピタル)、Gaingels(ゲインジェルズ)、Conductive Ventures(コンダクティブ・ベンチャーズ)、Blue Run Ventures(ブルーラン・ベンチャーズ)などの以前からの支援者、そして新たにSanta Barbara Venture Partners(サンタバーバラ・ベンチャーパートナーズ)が出資している(Jackpocketはニューヨークで設立されているが、カリフォルニア州サンタバーバラからも事業を展開しており、CEO兼創業者のピーター・サリバン氏はここを拠点にしている。この記事のためにインタビューをさせてもらった際も同氏はサンタバーバラにいた)。
サリバン氏は今回のラウンドでの評価額を公表していないが、これにより同社の調達額は2億ドル(約228億1000万円)弱となった。
もう少し背景を説明しよう。PitchBook(ピッチブック)のデータによるとJackpocketが最後に資金調達を行ったのは2021年2月の5000万ドル(約 57億円)のシリーズCラウンドで、その時の評価額は1億6000万ドル(約182億6000万円)(ポストマネー)だった。しかしそれ以降も同社は成長を続けており、現在のアクティブユーザー数は250万人、過去8カ月で300%の増加となっている。
サリバン氏によるとJackpocketのアイデアは「ニューヨーク州の宝くじをいつも買っていたがパソコンには弱い、ブルックリン生まれのブルーカラー階級」というサリバン氏の父親から一部着想を得ているという。
時は2012年、テック界における当時の大きなテーマの1つは、それまでオフラインであったサービスをデジタル化するという「アプリの台頭」だった。もう1つの大きなテーマは、モバイルゲームへの関心の高まりだ。サリバン氏はこれらのトレンドを考慮して、宝くじを注文するアプリを作るチャンスがあると考えたのだ。従来はコンビニに行かなければできなかったことが、携帯でできるようになればと。
「私たちは自身を宝くじ版のUber(ウーバー)やInstacart(インスタカート)のような存在だと位置づけています」と同氏は話す。
Jackpocketは宝くじ売り場であると同時に、宝くじ体験全体を仮想化するものだと考えて良い。サリバン氏が説明してくれたように、ユーザーはモバイルアプリを使って宝くじを注文する。バックエンドではJackpocketが独自に開発したソフトウェアを使って、プレイヤーに代わって実際のチケット購入を行い、プレイヤーが注文した各チケットの「スキャン」を行っている。プレイヤーはそのチケットを見ることができ、チケットにはJackpocketが透かしを入れているため真正性も維持することができる。
他のリアルマネーオンラインゲームと同様に、Jackpocketは年齢や地理的位置(Jackpocketが運営されている州に物理的に位置していないと注文できない)など、さまざまな規制に対応するためにあらゆる対策を講じている。GPS技術を使ってユーザーの位置を特定するだけでなく、VPNを使用していないかどうか、あるいは他のアプリケーションを使ってコンピュータに接続していないかなどもチェックしているようだ。また、プレイヤーは本人確認と年齢確認のために身分証明書をアップロードする必要がある。
また、同社はギャンブル界でより「責任ある」プレイヤーになることを目指しており、ユーザーの支出を監視して1日あたり100ドル(約11400 円)を上限として設定しているが、それ以下の価格に自身で制限することも可能である。
ビジネスモデルは、顧客から入金された金額に対して9%の手数料を取ることを基本としている。つまりアプリにお金を入れてチケットを購入すると9%の手数料がかかるわけだが、獲得したお金を使ってプレイする場合に手数料はかからない。また、お金を引き出す際の手数料がかかることもない。
かなり明確な市場機会があったにもかかわらず(当時の最大の競争相手は、細分化されたコンビニ市場のみ)、当初は資金調達が非常に困難だったという。
サリバン氏は初期の頃にサンドヒル・ロードで各投資家を個別にまわった経験を振り返る。「当時はリアルマネーゲーミングを行うことはタブーとされていました」。2021年のシリーズCまでに調達した資金が約2500万ドル(約28億6000万円)と比較的少なかった理由の1つがこれである。「9年前投資家は見向きもしてくれませんでしたが、私は宝くじが鍵を握ると信じていました。宝くじは最大のリアルマネーゲームにして最大のネットワークであり、他のフォーマットとのクロスセルにも適しているのです」。
FanDuel(ファンデュエル)などのリアルマネーゲームの成功を受けて投資の流れが本格的に変わり始めたことで、宝くじ、そしてJackpocketにも変化が訪れた。業界団体であるNorth American State and Provincial Lotteriesが発表したところによると、消費者が宝くじに費やす年間の総額は856億ドル(約9兆7805億円)と推定されるという。これは、印刷およびデジタル書籍(18億ドル、約2057億円)、映画チケット(119億ドル、約1兆3597億円)、ビデオゲーム(315億ドル、約3兆5996億円)、コンサートチケット(104億ドル、約1兆1884億円)、スポーツイベント(177億ドル、約2兆226億円)など、他のレジャーカテゴリー消費額の合計を上回る額である。
「父が宝くじを買っているのを見たことはありますが、それがどのくらいの規模なのかは知りませんでした」とサリバン氏はいう。また、Jackpocketが把握している宝くじ購入者の層は変化しており、購入者の約70%が45歳以下であることにも注目したい。サリバン氏は「テクノロジーに精通した裕福な購入者が増えています」と話しており、これはアプリベースの体験にも最適な条件である。
過去2年間の特殊な状況も、Jackpocketのような企業に大きな影響を与えている。以前は宝くじなどを買うために街角の店を訪れていた消費者が、新型コロナウイルスの蔓延を避けるためにソーシャルディスタンスを保って自宅で過ごす時間を増やした他、営業を続けていた小規模店舗の多くも配送サービスに切り替えるなどしたため、チケットを買いに行くことが容易ではなくなったのである。
サリバン氏がいうような他のフォーマットの「クロスセル」は、今後重要な分野になるだろう。他のタイプの宝くじ体験を販売することだけでなく、例えばインスタント食料品配送のスタートアップなど、これまで宝くじの小売業の糧となってきたコンビニのデジタル拡張である企業や他のゲーム会社と提携する可能性もあるだろう。その可能性こそが、まさに今多くの資金を集めている理由の1つなのである。
Left Lane Capitalの創設者兼マネージングパートナーであるHarley Mille(ハーレー・ミル)氏は声明の中で次のように述べている。「モバイルゲームと宝くじは今、エキサイティングで前例のないレベルの成長と拡大を経験しています。Jackpocketがこの進歩の先頭に立ち、この業界でかつてないペースで革新を続けていることが我々には明白です。我々はこの歴史的瞬間に参加する機会を得たことに胸を踊らせており、この状況下でJackpocketの役割をサポートできることを楽しみにしています」。
画像クレジット:adventtr / Getty Images
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)