待望の常時表示ディスプレイを備えたApple Watch Series 5、Series 4からの買い替えは微妙か

Apple(アップル)も、このところiPhoneの販売台数には陰りが見られるものの、スマートウォッチに関しては、市場を完全に支配していると言ってもいい状態を維持している。Counterpointによる最近の数字では、Apple Watchの第1四半期の成長率は前年比で48%となり、全世界のスマートウォッチ市場全体の3分の1以上を押さえている。それに対して、Samsung(サムスン)の多様なモデルは、合計してもシェアは11%程度で、遠く離れた2位に位置している。

こうした数字は、アップルがここで何か正しいことをしていることを表している。そして、Fitbit(フィットビット)やFossil(フォッシル)のような競合他社が、スマートウォッチの分野で追いつくためには、まだまだやるべきことが多いということだ。アップルが、最初からかなりうまくやってきたことを考えると、このApple Watchの最新モデルが、すでにあるものを新たに作り直すのではなく、細かな改良に注力したものであるのも納得できるはずだ。

新世代のiPhoneシリーズと同時に発表されたApple Watch Series 5には、以前のアップデートで導入されたLTEやECG(心電図)モニターといった、目立ったハードウェア機能は追加されていない。確かに、常時表示ディスプレイとコンパス機能は新しい。しかし、いずれもスマートウォッチの機能として長年待たされたあげくにようやく実現したことを讃えるようなものではない。しかし全体的に見れば、こうした新機能も、世の中のスマートウォッチの序列の中で、このApple Watchの位置を最上位に保つ役には立っている。

Apple Watchの見た目は、これまでの世代のものと大きくは変わらない。画面サイズについては、すでに前作のSeries 4から大きくなっていて、今回は変更されていない。ただし、ディスプレイが常時表示となったのは、このデバイスの長年の欠点にようやく対処したことになるだろう。これまでのApple Watchは、使っていないときには画面が真っ黒になっていた。これは、ずっと放置されてきた欠陥のようにも思えるが、それも止むなしと思わせるものでもあった。というのも、このサイズの製品では、バッテリー寿命が常に大きな課題だからだ。画面を常に表示し続けていれば、1日も保たずにエネルギーが枯渇することは目に見えていた。

アップルは、この常時表示が可能となったApple Watchのバッテリー寿命については、やや妥協したのか、前任機と同じ18時間というスペック上の持続時間を実現している。もちろん、今後のアップデートでバッテリー寿命が延長されれば、かなり歓迎されることは間違いない。私の通常の使い方では、実際に問題なく1日を乗り切ることができる。私自身は、充電せずに20時間近く保たせることができているが、それでも、このデバイスは毎日充電しなければならないことに違いはない。もし充電を忘れると、翌日には必ず途中で干上がってしまうことになる。

以前から待ち望まれていた睡眠追跡機能は、このモデルでは見送られた。そこは、アップルが競合から遅れを取っている数少ない部分の1つだ。もちろん、そうした機能を実現するには、現状のような1回の充電で18時間保つバッテリーよりも、ずっと強力なものが必要となるだろう。

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アップルは、常時表示機能がバッテリー寿命に大きなインパクトを与えないようにするため、いくつかの巧妙な手法を採用している。まず、それぞれの文字盤のデザインには、低消費電力の常時表示版が追加された。私が試してみたのは、watchOS 6から使えるようになったMeridianで、黒い背景に白い文字のもの。これを自分の顔に向けると、色が反転する。このアクティブなバージョンは見やすいが、常時表示バージョンは消費電力を少なくすることを重視したものだろう。

また、Apple Watchが採用するLTPO(低温ポリシリコン酸化物)ディスプレイは、使用状況によってリフレッシュレートを調整している。その範囲は広く、最高は60Hz、最小はわずか1Hzとなる。さらに、環境光センサーが明るさを自動調整することで消費電力を節約する。時計を手で覆って見ると、すぐに低消費電力モードに入るのがわかる。

コンプリケーションや、その類のものを表示する機能は残っているが、以前よりシンプルなものになっていて、電力消費の大きな機能は削除されている。たとえば、標準の文字盤からは秒針が消えた。またワークアウトモードでは、文字盤をユーザーの顔の方に向けるまで、ミリ秒の表示も消えたままとなる。

環境光センサーによって、ディスプレイを暗くする機能もある。例えば、映画館で映画を観ているときなど常時表示の画面の明るさでも、まったくの迷惑になるような場合だ。それでも十分に暗くはなるが、そうした場合にはシアターモードに設定するほうがいいだろう。手首を動かしたりしても、デジタルクラウンを押すまでは、決して画面を表示しないようになる。

ハードウェアとしての、もう1つの大きなアップデートはコンパスを内蔵したこと。以前に追加されたLTEやスピーカーと同じように、これも、スマホの機能をスマートウォッチに持ち込んだものの1つに数えられる。現時点では、この新機能を利用するWatchアプリはほんのひと握りだけ。最もわかりやすい例は、アップル純正の「マップ」アプリだ。コンパスが追加されたことにより、このウェアラブルデバイスによって直接ナビゲートするのが、ずっと簡単になった。

これは実際にかなり便利だ。画面が小さいのは仕方ないが、知らない場所に行ったときにiPhoneを取り出さなくても、これだけで道順がわかるのは素晴らしい。アップル純正のコンパスアプリもある。ハイキングに行く際には便利だ。海抜高度の表示も追加された。この数字は、Wi-Fi、GPS、地図データ、さらに気圧センサーの値から算出している。

この製品が、まだ発売前であることを考えると、この機能を利用するサードパーティ製のアプリの数が、まだかなり限られているのも当然だ。とはいえ、人気の高い星座アプリのNight Skyは、このコンパスを最大限に活用した機能を実現している。腕をあちこちの方向に向けることで、この広大な、そして拡大し続ける宇宙の中で、自分が今どこにいるのかよく理解できるはずだ。

ハードウェアに対するもう1つの大きな追加は緊急SOS機能だ。一般にデバイスの新機能は、いろいろな事情で必ずしもすべて実際に確認できるわけではないが、この機能もその1つ。これについては、アップルの言うことを鵜呑みにするしかない。この機能は、Series 5のセルラーモデルでのみサポートされている。海外に旅行したとき、近くに電話機がなくても、現地の緊急サービスに電話をかけることができる。この機能は、前回のモデルから導入された転倒検出機能とも連動し、着用している人が倒れた際には緊急SOSを送信することができる。

一方、watchOS 6で新たに追加されたソフトウェア機能としては、まず周期追跡アプリがある。これは、月経についての健康状態、兆候、周期などの記録、妊娠可能期間の予測といったことが可能なもの。またノイズアプリは、Apple Watchの内蔵マイクを使って、周囲のノイズレベルが90デシベルを超えているかどうかを追跡する。このレベルの騒音を聴き続けると聴力に障害をきたす危険があるからだ。

Series 5の価格は、標準(GPS)モデルが399ドル(税別4万2800円)から、セルラーモデルが499ドル(税別5万3800円)からとなっている。これが最低価格で、価格はすべてこれ以上となる。例えば、新たに登場した魅力的なチタニウムケースのモデルは799ドル(税別8万2800円)からとなっている。中でも、最も見栄えのするのはおそらくセラミックケースのモデルだが、その1299ドル(税別13万3800円)からという価格は、私たちの大多数にとっては候補から外れてしまう要因となるだろう。安くて見た目の優れた製品など期待できないということだ。Apple Watchには、ケースとバンドの組み合わせが数え切れないほど用意されている。アップルの実店舗に行けば、さまざまな組み合わせを試して確認してから購入できる。あなたの知人が、みんなApple Watchを身に着けていたとしても、あなたのものをちょっとだけ目立たせるための余地は残されているわけだ。

低価格のiPhone 11の導入に加えて、アップルはApple WatchのSeries 3の価格を199ドル(同1万9800円)からに値下げした。初めてこのデバイスを買おうという人でも手を出しやすい価格帯だ。すでにApple Watchを持っているという人にとってSeries 5は、特に昨年のモデルから買い換えようというほどの十分な動機は感じにくいかもしれない。とはいえ、常時表示ディスプレイなどの新機能は新しいシリーズならではの特徴として十分魅力的なものだろう。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

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TechCrunch Japan

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