【編集部注】執筆者のJoanna GlasnerはCrunchbaseの記者。
インターネットに接続している生活が良いとは限らない。スマホを片手に時間を浪費し、人と接する機会を失い、即座に得られる満足感を求める悪しき習慣ができつつある。そう感じることがあまりにも多い。
この問題を解決できるアプリがあればいいのに。できれば1日中使えて、人間とのやりとりを必要としないのなら尚良い。数分でダウンロードできるのなら言うことなしだ。
ようこそ、マインドフルネスとウエルネスの世界に。ここ1年ほどで投資家が、マインドフルネスや幸福、理想的な精神状態の促進を目的としたアプリやツールの開発を行うスタートアップ企業を支援した数は20以上になる。Crunchbaseのデータによると、これらの企業は今日までで1億5000万ドル以上を調達。最も高額なラウンドのいくつかはここ数カ月で行われ、その資金のほとんどはカリフォルニア州に本拠を置くスタートアップ企業に投じられる。
瞑想マネー
深呼吸をしたら、その金がどこに注ぎ込まれているのかを説明しよう。
今のところ、資金調達において最高額なのはHeadspace。瞑想の技術を学ぶ人気アプリを開発した企業だ。サンタモニカに本拠を置く同社は、今年6月に3700万ドルの資金を調達し、現在までの調達額は7500万ドルとなった。ビジネスモデルは至って単純で、ユーザーは無料レッスンから使用開始して、継続したい場合はサブスクリプション費用を支払う。
Headspaceは自社のアプリを、1800万ダウンロード超えの世界で最も人気のある瞑想アプリと称している。だが、その会社のミッションはアプリのユーザー数より遥かに大きい。
「瞑想は序章に過ぎない」。Headspaceの最高執行責任者であるRoss Hoffmanはそう述べる。創業7年目のHeadspaceはこれから「生まれてから死ぬまでの健康と幸福に関する包括的なガイド」を作成したいと考えている。
Headspaceは事業拡大にも励み、幸せの輪を広げるためにも尽力している。人材募集のページには、ニット生地の布張りソファがある開放的なオフィスと、サラダとご飯を口にする幸せそうなスタッフが掲載されている。Headspaceの求職者には、世界の健康と幸福を向上するという企業理念に対し、応募する役職を通してどのように貢献できるかが問われる。
潤沢な資金を調達した健康促進に取り組むスタートアップ企業はまだ他にもある。「すべての感情的なニーズに対処するべく、ユーザーの意欲を引き出すようデザインされた」デジタルツールとプログラムを開発するHappify Healthは2500万ドルを調達。オンラインでヨガ、瞑想、フィットネスのレッスンを提供するGrokkerは2200万ドルを獲得している。
シードファンドや初期段階のファンドを調達している興味深い企業は他にも多くある。それにはHeadspaceの競合Calmや、モチベーションが高まるテキストメッセージを届けるShine、多忙な人の燃え尽き症候群を防ぐThrive Globalなどがある。
こうした動きは何を意味するのだろう?
冒頭の不機嫌さはさておき、よりバランスの取れた生活を送るために設計されたアプリは、インターネットで過剰に繋がった世界の隙間市場を埋めているようだ。また、過度なデジタルの刺激を電子機器で治すのは皮肉といえど、そこには論理性もある。
「テクノロジーは、この惑星にあるすべてのものに対する意識を広げてくれるかけ橋となった…しかし、テクノロジーは同時に我々をマルチタスカーにし、数千人の友達がいるのにもかかわらず、孤独にした」。社会的意識の高いマイクロVC、Mindful Investorsの共同設立者Stuart Rudickはそう語る。MIndfulのポートフォリオには、変化する気象音を使用して、ユーザーの瞑想をガイドする脳波計ヘッドバンドの開発企業Museも名を連ねる。
Rudickは、マインドフルネスと瞑想のツールに対する投資家の興味をより広域な健康的生活への関心と見ている。特に瞑想は十数年まえのヨガと似た成長をたどっており、より多くの人口に普及しつつある。
投資家の視点から見ると、ヨガやフィットネス、健康的な生活などへの投資は良いリターンと高評価の企業を生み出した。元々ベンチャー支援を受けて10年前に上場したヨガのアパレルメーカーLululemonは、現在80億ドル相当の評価額を誇る。ユニコーン企業を挙げると、屋内サイクリングブームの火付け役であるPelotonは、前回のラウンドで12億5000万ドルの評価額をつけた。(こちらにその他数社をまとめた)。
同様に失望もあった。最近の事例で言えば、未公開株式ファンドの支援を受けたヨガスタジオチェーンのYogaWorks。同社の株価は上場時すでに予想額を下回り、8月のIPOから3分の1まで落ち込んだ。
スターの力
だが、マインドフルネス界の投資家は単に金銭的リターンを求めている訳ではない。Rudickのようなダブルボトムライン・インベスターと呼ばれる投資家は、潜在的利益に加えて社会的利益をもたらす企業を探している。
瞑想やマインドフルネスはセレブからの人気も集めており、著名な支援者からスタートアップ企業が資金を確保するのに役立っているようだ。Headspaceの投資家にはRyan Seacrest、ジェシカ・アルバ、そしてJared Letoなどがいる。Museは支援者にアシュトン・カッチャーを持つ。一方Thriveは、有名なメディア起業家Arianna Huffingtonによって設立された。
とは言え、セレブからのサポートが活気のない企業をユニコーン企業に変えることはないだろう。しかし、セレブが勢ぞろいコンテンツを端末で眺め、我々がどれだけの時間を浪費しているかを考慮すれば、数分でも時間とって、気持ちをスッキリしようと提案するセレブに耳を傾ける方がおそらく利口だろう。