新型コロナ対策ではハイテク業界の慈善家を好意的に受け止めよう

米国時間4月9日の午後、ハイテク産業から新型コロナウイルス(COVID-19)との戦いに関連して2つの大きな発表があった。

ひとつは、TwitterとSquareのCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が新型コロナウイルス対応事業に10億ドル(約1080億円)を拠出すると発表したことだ。その数時間後、LinkedInの創設者であるReid Hoffman(レイド・ホフマン)氏、StripeのCollison(コリソン)兄弟、Y CombinatorのPaul Graham(ポール・グラハム)氏、ベンチャー投資家のChris Sacca(クリス・サッカ)氏ら、ハイテク業界の億万長者たちが、新型コロナウイルスと格闘する研究者のための緊急助成金プログラムを発表した。この2つの発表は、最も有望な新型コロナウイルスワクチンのための工場建設計画を打ち出したBill Gates(ビル・ゲイツ)氏の自発的活動や、個人用防護具(PPE)の輸入や寄付、人工呼吸器の製造、地方企業の支援など細かい活動を主導するハイテク業界のリーダーたちに続くものだ。

だが、ハイテク業界の慈善家たちによる新型コロナウイルスのパンデミック対策が急増したところで、本来なら政府が行うべきことを慈善家が代行している現状を、慈善活動に詳しい批評家たちは嘆いている。またその他の評論家たちは、これは権力闘争だと批判している。Theodore Schleifer(セオドア・シュライファー)氏は、今週、Recordに以下のように書いた

それでも、億万長者の慈善活動を批判する人たちは、彼らの寄付は個人の力を誇示するためのものだという考え方を捨てられずにいる。実際のところ、Moskovitz(モスコビッツ)氏などの慈善家は、前例のない危機に際して米国の対応を形作る上でもっとも重要な人物となっている。だが彼らには、無責任で、不透明で、非民主的な支配力が染みついている。権力闘争になっても不思議ではない。寄付をすることで慈善家たちはヒーローとして承認され、彼らの事業を厳しく監視しようという人々の気持が削がれてしまう。

だが、それは誤った前提だ。たとえ政府が十分にパンデミック対策に資金を投入したとしても、またハイテク業界のリーダーたちによる新型コロナウイルス対策が権力闘争だったとしても(その証拠はないが)、ハイテク業界には、そしてハイテク慈善家には、果たすべき役割がある。

私たちが注視すべきは、彼らの取り組みが、テクノロジー固有の能力や資源を適切に活用しているか否かだ。もしTesla(テスラ)、あるいはGMが人工呼吸器を作れるなら、ソフトウェア企業が公衆衛生当局者を支援できるなら、プログラマーが各州の労働局と協力して時代遅れの失業者対策を刷新できるなら、慈善家が政府よりも早く研究者たちに資金を注ぎ込むことができるなら、そうするべきだ。ホテルがこの悲惨な状況の中、ファーストレスポンダーやホームレスに空室を提供するのとなんら変わらない。

国防生産法を発動して、製造業者にマスクや人工呼吸器の生産を命令することには、その能力が民間企業にしかないことをみんなが知っているため、まったく議論の余地はなかった。ハイテク業界にも、この国難に際して同様の貢献を求めるのは当然ではないか?また、国の医療研究施設に十分な予算がないなら、迅速に資金を投入してワクチンを開発させるべきだろう。資金は多ければ多いほうがいい。

関連記事:トランプ大統領が新型コロナ対策に国防生産法を発動、マスクと人工呼吸器の増産を約束

これは、TechCrunchのインタビューの間ずっと、私が考えをまとめようとしていた、よく引き合いに出され、さまざまに定義が変化する「インパクト」の概念につながる。慈善としての寄付に違いがあるなら、どこでわかるのか? 宣伝のためのパフォーマンスと、周到に練られた計画との違いをどう見抜けばよいのか? 適切な問題が果たして解決可能なのか否かは、どうしたらわかるのか?

データ駆動の慈善家でさえも、常に適切な問題を提示できるわけではないことに、私はずっと以前から気がついていた。大きな成果が得られたからと言って、それを成功とは断言できない。企業や財団が何か良いことをしたからと言って、それらの団体の社会的インパクトが最大化されたことにはならない。

やはり、社会的インパクトの最大化とは、単に、企業がその中核となる能力を発揮することだ。もしハイテク企業が(そしてそこから誕生した億万長者の慈善家が)公共の緊急事態に役に立つスキルセットを持っていたなら、彼らの責務はそれを使うこと、それをうまくやることだ。

現実世界の問題に目を向けるよう、我々はずっとハイテク企業に訴え続けてきた。だから、今それをしている彼らに、文句を言うのは止めよう。

だが、ハイテク企業が期待を裏切っても批判するなと言っているわけではもちろんない。人々は、Amazon(Whole Foodsを含む)、Instacart、Seamless、DoorDashが最前線の従業員の保護を怠ったとして、適切は批判を下した。ハイテク企業は、その主要な機能を完全に果たしたときも、負うべき責任は負わなければならない。

テクノロジーはサプライチェーンを動かし続ける以外にも、新型コロナウイルスのパンデミックに打ち勝つための戦略を実行する際には、必ず中心的な役割を果たすことになる。世界中にPPEを配布する場合には、FlexportやApple(アップル)といった企業が獲得した物流の専門知識が必要になる。大規模テストを行うには、Gilead Sciencesなどのバイオテクノロジー企業の新製品を素早く展開しなければならない。管理体制の監視には、VerilyやPalantirが行っているような大量のデータ収集と分析が必要になる。そしてもちろん我々は、ワクチンや治療薬を大量に製造して配布しなければならない。Amazonなどが、その役割を果たせると私は期待している。

そこでビル・ゲイツ氏が思い浮かぶ。彼は、有望なワクチンの製造工場を今すぐ建設すると発表したことで、新型コロナウイルス対策のハイテク分野における最も中心的な人物となった。ゲイツ氏は、単なるハイテク系慈善家ではない。長年の勉強の末、彼は世界でも屈指のパンデミック対応の専門家になっていたのだ。彼に指針を求めることは、一人のハイテク億万長者の力に頼ることではない。その工学とプロジェクト管理のスキルを、この数十年間に発生した厄介な公衆衛生上の問題の対策に活かてきた実績を持つ人物のリーダーシップを受け入れるということだ。

もちろん、理想的な世界では、ゲイツ氏が埋めている穴を、とっくに政府が埋めているはずだ。そうなっていないことは許しがたい。だが、健全な民主主義とは、社会全体に貢献を求めることができることでもある。そして優れた公共政策とは、解決策が見つかるごとに、そこから最良のものを選び出すことだ。

それは、ときにはワシントンD.C.の郊外にいる名も無い官僚であったり、またときには、公衆衛生オタクのハイテク業界の大御所だったりもする。

【編集部注】筆者のScott Badeは、マイク・ブルームバーグ氏の元スピーチライターであり、「More Human: Designing a World Where People Come First」の共同著者。

画像クレジット:Cole Burston/Bloomberg via Getty Images / Getty Images

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。