新型コロナ蔓延のいま、我々は安全なオンライン投票について検討しなければならない

オンライン投票

予備選挙と選挙を延期した州が急速に増加している。ニュージャージー州は地方選挙の延期をも決定した。議会でさえ、今後挙がってくるパンデミック関連法案の採決をリモートな手段で行うべきという要求が高まっており、新型コロナウイルスの蔓延という前例のない事態に対処する中で、伝統から離れ、安全な選挙とは何かを再考している。

しかし、この議論では重要な背景を見落としている。多くの米国市民はすでに在宅でまたは海外からオンラインによる投票を行っているのだ。米国の23州およびワシントンDCでは一部の不在者投票をEメールで、また別の5つの州ではウェブポータルで行うことを認めている

我々は、一部の有権者にオンラインによる投票手段を提供することが義務付けられている2つの州の選挙担当官である。これらの有権者にとって、この議論は学術的なものではなく、必要上の問題である。従来の投票方式は海外在住者、軍勤務者、障害者にとって機能していない。選挙担当官として、市民の憲法上の権利を守るのは我々の義務であり、彼らがどのような環境にいるのであれ、また彼らの現実がどのようなものであれ、オンライン投票を実現することで、これらの2つのグループに属する人々が我々の民主主義に参画する機会が劇的に改善するのである。

オンライン投票を認めるか否かを議論すべきではない。そうではなく、問うべきは「電子的なかたちでの投票を促進するための最も安全な方法とはなにか」である。オンライン投票はすでに既存のものだからである。また一部の有権者グループにオンライン投票が必要とされており、そのニーズが近い将来拡大する可能性があるからである。

連邦投票支援プログラムが隔年で行う海外米国市民人口分析によると、全国で300万人の有権者が海外に在住しているが、そのうち2016年の選挙に投票したのは7%だけであった。同分析によると、投票方式におけるバリアを取り除くことで、投票率が30%上がることがわかった。また別の分析では、100万人近くの現役軍人が投票権を持っているにもかかわらず、2018年の選挙で実際に投票したのはそのうちの約23%にすぎなかったことが明らかになった

従来の郵送による不在者投票や決まった場所で行われる投票の仕組みはこれらの有権者の役には立たない。選挙権を奪われているのは、彼らだけではない。投票率について言えば、障害者を持つ3500万人の投票者にとっても現実は厳しい。2017年10月の米国会計検査院の報告書でも、プライバシーを守った形での投票を難しくする機械など、障害者が投票するにあたっての多くの問題が明らかにされた。 2017年のラトガース大学の研究で明らかになったように、過去2回の大統領選挙で障害者の投票率が2008年の57.3%から2016年の55.9%に下がっているのは無理もないことである。

新たなテクノロジーにより、海外に在住する米国市民や障害を持った有権者の投票へのアクセスが拡大され、確保される。ユタ州の最高齢の有権者である、106才のMacCene Grimmett(マッケーン・グリメット)さんについて考えよう。彼女が生まれた1913年には、女性の選挙権は認められていなかった。彼女は2年前に足首を負傷して以来、外出できなくなり、またペンをしっかり握ることも難しい。しかし昨年、モバイルデバイスのアプリのおかげで投票することができたのだ。テクノロジーによって力を得たマッケーンさんは、誰かに頼ることなく、匿名で、安全にそして威厳をもって、彼女の最も基本的な市民としての義務を遂行することができた。

全国で様々な規模の先行試験や検証が行われ、現在のところ前向きな結果が示されている。2019年にユタ郡が海外在住者に携帯電話による投票を提案したところ、投票率に飛躍的な増加が見られた。アプリを使って海外から投票した有権者の投票率は、投票日に実際に会場に出向いて投票した人の投票率よりも高かった。2019年には、オレゴン州でも市民に対しアプリによる投票を認めた

重要なのは、全ての先行試験に厳密に結果を精査する機能が含まれているため100%の精度を確保できる点である。

最終的な課題は、投票へのアクセスを最大化するために、安全で革新的な方法でいかにテクノロジーを継続的に用いるかである。安全は最優先事項である。我々は、相互につながりあった世界に住んでおり、海外の敵やその他の悪意のある組織が情報技術を使用して我々の政治システムを弱体化させようとしていることを深く認識している。今後に向けて進む中で、我々自身の責任として、自らの環境を理解しておくべきである。

これらの懸念は実際問題ではあるが、インタネットを基盤とした投票の必要性や潜在的なメリットを抑制するものであってはならない。我々のテクノロジーには全く綻びがないと盲目的に信じることはできないのと同様、何百万もの有権者の選挙権を無駄にし、選挙への信頼を揺るがすような無意味で全面的な不信に陥る必要もない。

大ざっぱな判断を下すのではなく、それぞれのケースを個別に検討する必要がある。例えば、アイオワ州では、不十分なトレーニング、検証の欠如や、ある政党による特定のテクノロジープラットフォームに関する政党幹部会での結果報告にトラブルなどがあったことが原因でオンライン投票がうまくいかなかった。その失敗がなぜユタ州の障害者やオレゴン州の軍人がアプリで投票し、承認することに悪影響を与えるべきなのだろうか?

全市民のために投票へのアクセスを確保することにより投票率を上げることは、我々の民主主義を守るために、最も優先すべき事項である。21世紀の今、投票に電子的な手段が含まれるのは必然の成り行きである。海外の有権者に関する問題に直面し、また国内ではCOVID-19のような新たな課題が発生し、人々が大勢集まり長い列を作ることは脅威と考えられる現在では特にである。

我々は投票へのアクセスを広げるため、システムを強化しより耐性の高いものにしつつ、試行や実験を継続していく必要がある。小規模の先行試験からはじめ、機能する点を確認し、結果を厳密に精査してから、それをまた新しい段階の検証へと活用していくのである。例えばアプリベースの投票はEメールで投票を返信するよりも安全であり、Eメールでは不可能な投票者の匿名性を保護することもできる(Eメールを開き、集計のため投票を紙の投票用紙に手書きでコピーする担当者は、誰が送信したかわかるため)。

これらはインターネット上での投票が現時点で成功を収めている側面である。我々がゆっくりと責任と自信をもって前進するのと並行し、これらの成功が議論が促進してくれるはずである。

【編集部注】寄稿者のAmelia Powers-Gardner(アメリア・パワーズ-ガードナー)は、2019年1月に就任したユタ州ユタ郡の郡書記官。Chris Walker(クリス・ウォーカー)はオレゴン州ジャクソン郡の郡書記官だで、2008年に初めて任命され、 その後2010年、2014年に再任された。

画像クレジット: NickS / Getty Images

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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