新iPhone SEはこんな時代だから求められる「安かろう良かろう」なスマホ

正直にいって、iPhone SEについて何かとの比較の会話をするのは難しい。このデバイスはiPhone 11と同じ様相を呈しているが、iPhone 11とは別ものだ。

iPhone SEは廉価版だ。Apple(アップル)のほかのラインアップに照らしてこのデバイスを徹底比較しても、iPhone SEの潜在的ユーザーのほとんどにとってはさほど重要ではないだろう。

iPhone SEはシンプルにお買い得なのだ。本当に。本当に素晴らしいスマホだ。ホームボタンなしというスタイルに慣れてしまった私にはそんなに魅力的には見えないが、多くの人にとっては素晴らしいスマホになることは間違いない。そして、この廉価版を発売するタイミングも良い。今、アップルの最新技術を搭載したiPhoneが399ドル(日本では税別4万4800円)から購入できるのは大きい。

iPhone SEをひと言で説明するとしたら「iPhone 11の機能を持ったiPhone 8」だろう。そしてその言葉は、まさに的を射ている。アップルが「スペア」部品でスマホを生産していることにはいささか肩をすくめたくなったが、親愛なる読者の皆さん、その話題についてあなたがどれだけ熱くなるかどうかは、あなたがスマホにどれだけのお金を費やせるのか、そして、カメラの品質やスマホのサイズを皆さんがどの程度重視するかによるのだろう。

それではレビューを始めよう。

サイズ感

小さめだが、小さすぎではない。4インチのスマホが欲しいならその望みはかなわないが、すっきりとした軽量薄型で取り出しやすいのは確かだ。これが重要要素なら、最新の中身が搭載されたこのスマホ一択だと思う。

実をいうとしばらく前に、ポケットデバイスとしてiPhone SEを買ったのだが、私は4インチのスマホではきちんと入力できないことがわかった。

新しいiPhone SEはその点は問題ない。私にとっては4.7インチが正確に入力できる最低ラインだ。もちろん手が小さい人は関係ない。小さい手の持ち主なら逆にiPhone SEは少し大きすぎると感じるかもしれない。だが現在の他のiPhone同様、実質的に小さくできている。

iPhone SEにはTouch IDが登場する。偶然にも我々の多くがしばらくマスクをつける生活になってしまった中、Face IDは自然とその有効性が限定されてしまう

ホームボタンを押すのはとても変な気分だ。iPhone Xのずば抜けた耐久性とスワイプ可能なインターフェイスの実用性が無視されたかたちだ。スワイプ操作はとても自然でやりやすかったので、その動作を変えるのは容易ではない。Touch IDデバイスから乗り換えるのなら大丈夫だが、iPhone Xなどから機種変更する場合は慣れが必要だ。

iPhone 8でわかっているので、デザインについては他には特にいうことがない。持った感触も良くモダンだ。

バッテリー寿命テストを入念に行う時間はなかったが、一見したところ大丈夫そうだ。インデックス付けやその他のバックグラウンド動作のせいで、最初の数日は特に見極めが難しい。また新しいiPhone SEはIP67等級を備えている。つまり水深1mまでの水中に最大で30分間耐えることができる。これは最初のSE以来、iPhoneの事故による破損を最も減らすことに成功した機能の1つだ。

カメラ

iPhone SEに搭載されているのは単眼カメラで、現在のラインアップと比較すると珍しいものだ。焦点距離28mmの広角レンズ搭載シングルカメラが搭載されている。焦点距離は最近のiPhoneに見られるものよりも少々長くなっている。最近のiPhoneのほとんどは焦点距離26mmだ。つまり、写真の画角が主流のラインアップよりも少々狭くなる。iPhone XRのような望遠レンズはついていない。

iPhone SEはiPhone 11と11 Proのまったく新しい画像処理技術が最適化されたかたちで搭載されている。A13プロセッサのISPとニューラルエンジンがさまざまな方法でiPhone SEをサポートしている。現在、写真はそのほとんどがコンピューター数学で作られていることを考えれば特にそうだ。

iPhone 11の画像処理技術を採用しているため、望遠レンズがないという欠点があったとしても、iPhone SEのカメラは市場に出回るスマホカメラでも優れているほうだ。この画像処理技術を採用していなかったら画像の品質に関してはもっと「古い」感じだったと思う。ただ昨今は、ほとんどの写真がレンズやセンサーよりむしろCPUやGPUで処理されている。

私のテストでは、iPhone SEのカメラはiPhone 8よりも大分向上していることが証明され、iPhone XRよりも多くのポートレートモードが使える。追加モードでは、背景から被写体を切り抜くことに重点を置いている。こうした機能はニューラルエンジンの能力(高頻度、低リフト機械学習タスク専用のA13のチップの一部)に直結し、セグメンテーションのマスキングやセマンティックレンダリングを実行する。

また、映画のような安定感で、拡張ダイナミックレンジ4K/30fps動画と4K/60fps動画を録画できる。

ただし、iPhone11の画像処理技術を採用することによるの最大のメリットは、強化されたSmart HDR機能だ。この機能についてはiPhone 11のレビューで説明している。これにより、明るいハイライトから影のディテールまで、幅広い色調範囲のディテールが向上する。iPhone SEがiPhone 11と同等の画像処理デバイスになることはないが、普通のスナップ写真を最高の出来にすることはできる。

鮮明度、演色、ダイナミックレンジに関していえば、「先代」iPhone SEをはるかに凌ぐ。また、iPhone 8よりも明らかに優れている。アップル製品のラインアップの中でiPhone 8はすぐにSEに取って代わられるだろう。

デバイスのダウングレードを考えている方には、ほぼすべての点においてiPhone 11 Proの画像品質にはかなわないことをはっきりとお伝えしておく。まあこれは予想どおりである。iPhone 11 ProはSEよりもはるかに高額なデバイスだ。

iPhone SEにはナイトモードがない。このため暗がりでの写真はiPhone 11よりも明らかに劣る。リアカメラに光学手ぶれ補正が採用されているので多少の助けにはなるが、撮影が難しい状況下では上位機種と同等のパフォーマンスは望めない。

その他のほとんどの方向性でカメラの性能が良いことを考えれば、おそらくはこれが写真撮影という点においてiPhone SEではなくiPhone 11を勧める最大の理由だ。そのような会話になったらばの話だが。ただ、多くの人がiPhoneをメインのカメラとして使っていることを考えると、iPhone 11を持っていて損はないと思う。どんなものであろうと、iPhoneで撮影する写真に満足している方はSEで大満足だろう。技術面やパフォーマンスが強化され、驚愕的とまではいかなくても安定の光学的フロントエンドが実現されている。つまりは「そういうこと」だ

画面

私はiPhone XRよりもiPhone SEの演色を好む。カタログ上ではLiquid RetinaディスプレイとRetina HDディスプレイは同様のパフォーマンスを実現するとされているが、私はXRの色調があまり気に入らない。True Toneをオフにして同じ輝度だと、iPhone SEのほうがもっとニュートラルな暖かさがあり、iPhone XRは寒色寄りのスペクトルになっている。

こうした観察は文字通り所見であって裏付けはない。アップルがiPhone SEで採用しているパネルは特別なものではない。 いつものiPhoneのように普通に「素晴らしい」。iPhone 11 ProのOLED画面は言うまでもなくブラックレベル、色、色調の切り札だ。

iPhone XRとiPhone SEの画面の主な違いは、XRの「端から端まで」のラップアラウンドディスプレイとSEのより標準的な長方形ディスプレイだろう。それと、「タップしてスリープ解除」も違いの1つだ。

XRとSEではピクセル合計数が32%違うというのは、私のテストでは全然気にならなかった。同じ326 PPIなのもそんなに驚くことはない。

ジェスチャー機能については、「タップしてスリープ解除」が本当に恋しい。この機能があるiPhoneを使っていた人にとって、タッチするだけでスリープ解除して画面表示できないことは利便性で一歩後退となる。SEへのダウングレードを考えている人は、この機能がなくなることを踏まえてほしい。

この機能のないiPhoneからの変更なら問題ないが、そうでなければきっと恋しくなるはずだ。

エントリーを円滑に

iPhone SEは、アップルのエコシステムへのエントリーというこれまで最も摩擦があったセクションを円滑にした。以前までのアップルは、転売される中古デバイスか、家族から譲られるお下がりを廉価版モデルへの入り口の「穴埋め」に使っていたが、iPhone SEは最初から自分のものにできる製品になっている。実際、価格に対して素晴らしい価値がある機種だ。

この低価格設定は、純粋に実用的な多くの面を通じて確認できる。安価でアップルのデバイス価格設定表のギャップを埋めるものだ。アップルが最後に手頃な価格帯の商品を発売したのは、2013年の補助金提供時代のiPhone 5cだ。アップルは実質的には「低価格スマホ」戦略にコミットしていなかったので、iPhone 5cは実際に入り口問題の解決の役には立たなかった。同社はみんなが望むローエンドのスマホの代わりに、iPhone 5ユーザー向けのアップグレードパスとして比較的ハイエンドなスマホを発売したのだ。

そしてとうとう今回「低価格」iPhoneがどのように機能するか確認することができる。

アップルの役員たちはこの「低価格」という言葉は嫌いだろうが、私の気に入ってる英国の慣用句に「cheap and cheerful」(価格が安い上に品質も良い)というものがある。そしてiPhone SEはまさにそのとおりなのだ。魅力的で低価格で使いやすい。デバイスにとっては悪くないタグラインだ。

ただ、アップルにとってのメリットは何だろうか?iPhone XRやその他のデバイスの価格を下げることは長い目で見てやる価値があるのか?

同社にとってのiPhone SEのアピールを完全に理解するために、考慮点を箇条書きにしてみた。

2018年、アナリストのHorace Dediu(ホレス・デディウ)氏は、アップルがiPhoneの「長持ち」戦略を重視しているようだと言及した。この戦略では、販売台数よりも用途とユーザーを優先する。これは同社が出荷台数データの報告を停止し、サービスカテゴリーについての指標値が急上昇した際に強化された。

つまり、アップルがiPhoneを長期的に循環させるほど、個別の売り上げは低くなるが、そのエコシステムに人々を長く留まらせておけるようになる。これはすべて、アップルがしきい値を高くするよりも入り口を広げる方法でさらに多くの利益を得ているという事実につながる。iPhone SEはアップルの新しいオーディエンスを広げる。iPhone SEは、iPhoneを初めて使うユーザーや、若者が最初のデバイスとして購入したり、現在予算を切り詰めている人にとって最適なスマホだ。

近代的なスマホ時代にアップルが低価格市場へ参入するのはこれが初めてのことだ。それだけでなく、同社がサービスビジネスに舵を切ってから最初のiPhoneとなる。アップルは、デバイス市場が飽和期に突入するいま、すべてのiPhoneが他社のビジネスやアップルの他部門のビジネスになくてはならないものになると見たのだ。

iPhone SEはアップルのエコシステムに人々を呼び込み、定着させ、人々はこの先何年もアップルのサービスカテゴリーにお金を落とすようになる。デバイスを何年も所有して機種変更することがなくてもだ。

重大な市場混乱で消費者の大きな購入が目立たない中、 アップルは本当のニーズに対応できるiPhone SEの投入タイミングを完璧に見極めた。エントリーへの壁はさらに低くなり、消費者はこの購入がこの先2~5年間、アップルのソフトウェアサポートに完全バックアップされること、そしてアップルが他社よりもはるかに優れたセキュリティとプライバシー保護の実績があることを知っている。自粛生活が続く現在、こうしたポケット機器は人と繋がり、健康で安全に暮らす最善な方法についての情報を提供してくれる。

スマホは、誰もがいつでも、どこからでも情報ネットワークにアクセスするためのデバイスとなり、それは一般的なものとなった。その間、スマホはさまざまな社会病の原因として指差される役割を引き受けてきた。ささいなことに執着しつづけ、人々を怠け者にするような技術の開発にばかり熱をそそいでいると言われることもあった。そうした方程式は今、すべて塗りつぶされている。親たちが自粛生活中のスマホやPCの利用について考え直しはじめたように、ソーシャルメディアは生活を自慢するためのもののではなく、正気を保つための重要なツールになった。また、もしかしたらスマホは、我々と本当の孤立の間にある唯一の防波堤なのではないかと気づかされることにもなった。

iPhone SEはまたとない時期に現れ、アップルはこうしたメリットを幅広いオーディエンスが受けられる機会をつくりだしたのだ。

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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