暗号資産取引のリスク検知でマネロン対策を支援するBassetが5000万円を調達

(写真右から3人目)Basset代表取締役CEO 竹井悠人氏

暗号資産(仮想通貨)による“自由な”取引が世の中に与えたのは、国境を越えた自由な送金や安価な送金コストといったメリットだけではない。日本では2017年4月に資金決済法が改正され、仮想通貨交換業者の登録制が導入されたが、その後もコインチェックZaifなど、取引所からの暗号資産流出事件が起こっているし、投機的な取引による利用者保護の問題や、違法な売買、マネーロンダリングで利用されるといった不適正な取引のリスクもある。

これらの課題を受けて、今年6月7日にはあらためて、資金決済法と金融商品取引法の改正法が公布された。また国際的にも規制強化への要求が高まるマネーロンダリングやテロ資金供与に関しては、6月21日、政府間会合である金融活動作業部会(FATF)から暗号資産サービスプロバイダーに対し、対策の強化を求めるガイドラインが発表されている。

暗号資産を巡るこのような背景の中、仮想通貨交換業者にも厳格な本人確認「KYC(Know Your Customer)」に加えて、資産の預入れ、引出しの取引を都度リスク評価・分析する「KYT(Know Your Transaction)」が求められるようになっている。2019年7月に設立されたBasset(バセット)は、仮想通貨交換業者や行政機関向けに、ブロックチェーン取引の分析・監視ソリューションを開発するスタートアップだ。9月18日、BassetはCoral Capitalを引受先として、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

“RegTechカンパニー”として金融機関を支援していく

Basset創業者で代表取締役CEOの竹井悠人氏は、前職のbitFlyerではCISO(Chief Information Security Officer)およびブロックチェーン開発部長を務めていた。ほかの3名の創業メンバーもbitFlyerに在籍していた同僚たちで、bitFlyerからスピンアウトするような形で独立したのがBassetだ。

竹井氏はbitFlyerでの業務を通して「暗号資産の取引所では今後、コンプライアンスがとても重要になる」と考えていた。同時にデータ分析の観点からも、コンプライアンスプロダクトの分野に強く魅力を感じていた。だが、bitFlyerは仮想通貨取引所。コンプライアンス製品をつくる会社ではないし、スタートアップとしてイノベーションを追うステージを卒業して、取引所、金融機関として安定した運営を金融庁からも求められるフェーズにあった。そこで竹井氏は「新しいチャレンジにそろそろ取り組むタイミング」として、6月末にbitFlyerを退職し、Bassetを立ち上げることにしたという。

Bassetが開発しているのは、暗号資産のマネーロンダリングを防止するためのデータ分析サービスだ。これはブロックチェーンデータを分析することで、資金の流れを追うプロダクトである。BTC(ビットコイン)やETH(イーサリウム)をはじめ、金融庁のホワイトリストで指定された暗号資産のリスク検知・評価とマネーロンダリング対策に対応していく予定だ。

Bassetでは、仮想通貨取引所や、金融庁などの行政機関へのソリューション提供を想定している。また警察や司法機関などでの利用も考えられている。竹井氏は「我々が把握しているだけでも、世界で過去2年間にサイバー攻撃によって取引所から暗号資産が流出した金額は1200億円相当にのぼり、流出した資産は小口の送金を繰り返してマネーロンダリングされ、犯罪者の手に渡っている」と述べ、「これらの取引による資金の流れは、世界各国の警察が欲している情報だ」と説明する。

竹井氏は「コンプライアンス関連のニーズは金融機関の間でどんどん高まっている。ブロックチェーンの世界はすべてデータでできている。その中でコンプライアンス遵守に対応する『レギュレーション(法規法令)×テクノロジー』のRegTechカンパニーとして、クライアントを支援していきたい」と話している。

世界的に見ると、同様のソリューションを提供する企業としては、米・ニューヨークに拠点を置き、欧米でサービスを展開するChainalysis、英・ロンドンに本社があるElliptic、今年5月に楽天ウォレットが提携したCipherTraceといった先行者がいる。

「彼らが日本市場へ進出するという話もあり、今後戦っていくことになるということは認識している」と竹井氏は述べつつ、「コンプライアンス強化のためには1つのサービスを使っていればよいということはなく、我々のような別の分析ソリューションが要らないというわけではない」と続ける。

「こういった分析ツールでは、どれだけ多くのデータをカバーするかというのが重要。海外の会社が英語圏で強いのは当然だが、一方アジア言語圏はどうかと言えば、日本語、中国語などのソースについては我々の方が目が届きやすい。そこにフォーカスをして差別化を図ろうと考えている」(竹井氏)

竹井氏によれば、あるシンクタンクが発表した統計では、金融機関が使うコンプライアンス関連のテクニカルソリューションの数は、これまで1製品で完結していることが多かったのだが、ここ数年は利用する製品数が増える傾向にあるのだという。「理由としては、データソースのカバレッジが多ければ多いほどよい、という状況の中で反社会的勢力のデータベースなど複数のデータをチェックすることが増えていることが挙げられる。また顧客や企業の照会をするといった、さまざまな用途がある中で、複数製品を組み合わせてコンプライアンスプログラムを組むのがより一般化しつつあるためだ」(竹井氏)

そのような背景から「我々のようなブロックチェーンのフォレンジック(インシデントにおける証拠調査・解析)の分野でも、1つの製品のみならず、複数の製品を組み合わせて利用していただくということは、今後あるのではないか」と竹井氏は見ている。

取引可視化はマーケティングに使える可能性も

プロダクトは現在も鋭意開発中。「MVP(Minimum Viable Product)はできあがっており、現在、いくつかの仮想通貨取引所でトライアルで利用してもらっている」(竹井氏)とのことだ。

調達資金はエンジニア採用などに主に投資すると竹井氏は述べている。ほかに、世界各国の犯罪者データベースを参照するためのデータパートナーシップ締結や、サーバー運用、分析のための計算にかかるフィーなどにも充てる可能性があるという。

竹井氏は今後の同社の展望について、「ブロックチェーン関連のコンプライアンスという領域をスタート地点としているが、実際の犯罪捜査に役立てるためには、まだまだいろいろな機能が足りていない。また取引所のコンプライアンス対応として、反社チェックまですべてやりたいとなるとブロックチェーンのデータだけでは完結しないので、ほかのデータも集め始めている。データを広げる、機能を増やすという観点での拡大は考えている」と話す。

また「捜査・コンプライアンスに関するフォレンジックツールとしてだけではなく、暗号資産の取引が可視化できるということは、マーケティングにも使える可能性がある。さらに、例えば将来ビットコインでの支払いを受け付けたいという店舗が増えた場合に、そうした店舗でマネーロンダリングの検出プラットフォームとして利用してもらい、店頭での高額商品の購入がマネーロンダリングの温床にならないような使い方というのも想定している」とも竹井氏は語っていた。

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TechCrunch Japan

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