転職サイト「ビズリーチ」など人材サービスを展開するビジョナルは1月27日、スタートアップを資金面と採用面からサポートする独自のファンド「ビズリーチ創業者ファンド」の投資第2号案件を発表した。ビジョナルが投資先として選んだのは、アート作品のストレージサービスを展開するbetween the artsだ。ビジョナルからの出資額は未公開だが、between the artsが今回実施したシードラウンドの合計調達額は5500万円だという。
ビズリーチ創業者ファンドは、2018年10月に設立されたビジョナル独自のスタートアップ支援ファンドだ。同ファンドでは、スタートアップへの資金提供はもちろん、ビジョナルが展開するビズリーチやキャリトレといった採用系サービスの無償提供、ビジョナル経営陣が持つ採用面でのノウハウの提供などを通し、創業期のスタートアップの支援を行っている。
設立時に発表された第1号投資案件は、TechCrunch Japanが毎年開催する「スタートアップバトル」の2019年王者のRevComm(レブコム)だった。ビズリーチ創業者ファンドによる支援を受け、同社は創業期の6カ月で4人のエンジニア採用に成功。その後も従業員数は順調に増え、創業5年目の現在では83人が在籍している。
今回、ビズリーチ創業者ファンドが第2号の支援先として発表したのは、アート作品のストレージサービスを提供するbetween the artsだ。同社はアートコレクターなどのユーザー向けに、空調が管理された自社倉庫でのアート作品預かりサービスを提供している。利用料金は作品の大きさによって500~5000円の間で設定されており、平均単価は1000円ほどだという。
コロナ禍でリモートワークが増え、ビデオチャットの背景におしゃれな絵を飾りたいなど、アートに対する需要も加速してきた。一方で、アート作品が増えるにつれて課題になるのが保管場所の確保や管理だ。between the artsが目指すのは、そういったユーザー向けに簡単に利用できるアートの管理方法を提供することで、「アートを購入して楽しむ」という市場自体を創出することだ。
「日本におけるアートの購入額は年間400円程度であるのに対して、米国では年間1万円ほど。その差は25倍にもなる。一方で、美術館を訪れる人の数を見ると、その差は3倍でしかない。アートを買う楽しさを伝えられるようなサービスを作ることができれば、その25倍という差が縮まっていき、大きな市場が生まれるのではないかと考えている」と、between the arts代表の大城崇聡氏は話す。
採用サービスと人材が増えた今、重要なのは経営者の意識改革
特に創業期のスタートアップにとって、最も大きな課題となるのは人材採用だ。2020年版の中小企業白書を見ても、依然としてスタートアップ業界に人材の需給ギャップが存在することは明らかだ。
ただ、例えばビズリーチが設立された2007年と今を比べると、人材データベースの数も増え、スタートアップも簡単にそこへアクセスできるという時代になった。それでもスタートアップ業界の人材不足が発生してしまうのは「経営者側にも責任がある」と語るのはビジョナル代表の南壮一郎氏だ。
「スタートアップ業界に流入する有能な人材は著しく増えている。ただ、それに応じて人材の見極めも難しくなっている。昔は、スタートアップで働きたいという強い信念を持ち、かつ心理的なバリアを超えてくる人材の絶対数が少なかったが、現在はより多くの人材とより多くのスタートアップがマッチングする時代になり、人材の見極めが以前よりも難しくなっている。『成長痛』みたいなものだ。そのような状況で重要なのは、自分たちのありのままの姿をいかに求職者に伝えられるかだと思っている。華々しく見えるスタートアップだが、もちろん大半の仕事はつらいものだ。そういった部分も含めて求職者に対して正直に向き合うことでミスマッチが減り、離職者も減る」(南氏)。
人材採用に利用できる各種サービスが整い、スタートアップで働きたいと思う人材も増えてきたが、そんなときにこそ重要なのが、経営者自身の意識改革なのかもしれない。それを学ぶためには単に採用サービスを利用するだけでは不十分であり、経営者同士の横のつながりや先輩経営者からの教えが必要になる。ビズリーチ創業者ファンドでは、ビジョナル経営陣や投資先の経営者とともにある種のコミュニティを構築し、今後も採用に関するノウハウを伝えていくという。
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