物議を醸し出しながらも広く使われる顔認識のAnyVisionがソフトバンクなどから約261億円調達

顔認識は、人工知能の応用分野の中でも特に問題の多い分野だ。コンピュータービジョンを使って顔を識別し、その後、その人の身元を特定することは、プライバシーやデータ保護、仕事の目的やシステム自体を支える倫理観について多くの疑問を投げかけている。しかし、その一方で、顔認識はさまざまなユースケースで広く採用されている。今回、この分野で物議を醸しながらも成功を収めているスタートアップの1つが、大規模な資金調達を完了した。

イスラエルのスタートアップであるAnyVision(エニービジョン)は、顔で人を識別するAIベースの技術を開発するだけでなく、大勢の中から高い体温の人を検出する技術も開発している。同社は2億3500万ドル(約261億円)の資金を調達したと認めた。

今回のシリーズCは、AIスタートアップとしては大規模なラウンドの1つだ。ソフトバンクのVision Fund 2とEldridge Industriesが共同でリードし、既存投資家も参加した(表には出ていないが、Robert Bosch GmbH、Qualcomm Ventures、Lightspeedなどが名を連ねている)。同社はバリュエーションを公表しておらず、問い合わせ中だ。PitchBookによると、AnyVisionは過去に約1億1600万ドル(約129億円)を調達しており、2020年の前回のラウンド以来、多くの顧客を獲得してきた。

また、AnyVisionのCEOであるAvi Golan(アビ・ゴラン)氏は、ソフトバンクの投資部門の元オペレーティングパートナーであることも特筆すべき点だ。

今回調達した資金は、SDK(Software Development Kit)の開発継続のため、特にエッジ・コンピューティング・デバイス(スマートカメラ、ボディカメラ、その他のデバイスに使用されるチップ)を動かし、同社のシステムのパフォーマンスとスピードを向上させるために使用されるという。

AnyVisionのシステムは、ビデオによる監視、監視員による警告、会社などの組織が群衆を監視・制御するといったシナリオで利用される。例えば、人数の把握、小売店での滞留時間の分析、違法行為や危険な行為の警告などに利用される。

「AnyVisionの認識AIのイノベーションは、受動的なカメラをプロアクティブなセキュリティシステムに変え、組織が高度なセキュリティの脅威に対してより全体的な視点を持つことを可能にしました」とゴラン氏は投資を発表する声明で述べた。「Access Point AIプラットフォームは、人、場所、プライバシーを保護すると同時に、コスト、電力、帯域幅、運用の複雑さを削減するように設計されています」。

多くの報道に触れ、AnyVisionの名前を知っている人もいるかもしれない。

同社は2019年、その技術によりイスラエル政府がヨルダン西岸地区のパレスチナ人の監視を密かに実行していると報道された。

同社はこれを否定したが、この話はすぐに同社の評判に大きな汚点を残すことになり、同時に顔認識の分野全体にさらなる監視の目を向けることになった。

これを受け、ベンチャー部門「M12」を通じてAnyVisionに投資していたMicrosoft(マイクロソフト)は、その投資と、顔認証投資に対する同社の姿勢を全面的に監査することになった。最終的にマイクロソフトは株式を売却し、今後、このような技術には投資しないことを約束した。

それ以来、AnyVisionは、顔認識という大きな市場には多くの課題や欠点があることを認め、この分野での「倫理的」なプレイヤーになるべく懸命に取り組んできた。しかし、同社を巡っては論争が続いている。

2021年4月のReuters(ロイター)の報道では、ロサンゼルスのCedars Sinai(シダーズ・サイナイ)のような病院から、Macy’s(メイシーズ)のような大手小売店、エネルギー大手のBPまで、今日どれだけ多くの企業がAnyVisionの技術を使用しているかが紹介されている。AnyVisionの権力とのつながりは、単に大きな顧客を持っているということだけではない。ホワイトハウスのJen Psaki(ジェン・サキ)報道官は、かつてこのスタートアップのコミュニケーション・コンサルタントを務めていた。

また7月6日、The Markupに掲載されたレポートでは、2019年に発行されたユーザーガイドブックを含むAnyVisionのさまざまな公開記録を調べ、同社がどれだけの情報を収集できるのか、どんなことに取り組んできたのかについて、かなり不利な状況を描いている(ある試験運用とその報告書では、テキサス州の学区の子どもたちを追跡している。AnyVisionは、わずか7日間で5000枚の生徒の写真を収集し、16万4000件以上の検出を行った)。

しかし、AnyVisionの技術が役に立ち、有用となり、あるいは歓迎されると思われるケースは他にもある。例えば、体温を検知して、高い体温の人と接触した人を特定する機能は、新型コロナウイルスの不明瞭なケースをコントロールするのに役立つ。例えば、人が集まるイベントでウイルスを封じ込め、遂行するための安全策を提供する。

また、これは明確にしておきたいが、この技術を開発・展開している企業はAnyVisionだけではなく、監視の目にさらされているのもAnyVisionだけではない。米国のClearview AIは、何千もの政府や法執行機関で利用されているが、2021年初め、カナダのプライバシー当局から「違法」と判断された。

実際、こうした技術がどのように発展していくのか、どのように使用されるのか、そして一般の人々がこれをどうに見るようになるのかという点においても、物語は完結していないようだ。今のところ、論争や倫理的な問題があったとしても、AnyVisionの勢いはソフトバンクを動かしているようだ。

「視覚認識市場は初期段階にありますが、欧米では大きな可能性を秘めています」と、ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズのパートナーであるAnthony Doeh(アンソニー・ドー)氏は声明で述べた。「我々は他のカテゴリーでAI、バイオメトリクス、エッジコンピューティングによる変革の力を目の当たりにし、AnyVisionが数多くの業界で物理環境分析を再定義するユニークな位置にあると信じています」。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:顔認識AnyVision資金調達Softbank Vision Fundイスラエルコンピュータービジョン

画像クレジット:Design Cells / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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