タダのランチやタダのエネルギーはない、と言われる。ところが、必ずしもそうではない。連続起業家として大成功し、イギリス政府の科学大臣でもあったLord Paul DraysonのスタートアップDrayson Technologiesは、高周波(RF)信号からエネルギーを取り出して、一連の低電力消費デバイスの電源にする技術を、商用化しようとしている。
そんなデバイスは、IoT分野の製品も含み、同社の概念実証製品である空気汚染センサーや、それほど電力を必要としないウェアラブルも含まれる。
この”Freevolt“技術をさらに発展させ、より多くのアプリケーションを市場化し、そのために技術をライセンスするとともに新製品を社内でも作っていくために、同社はこのほどシリーズBで800万ポンドを調達した。そのラウンドをリードしたのはこれまでの投資家Lansdowne PartnersとWoodford Investment Management、これに、とくに挙名されない投資家たちや同社のスタッフも参加した。
RFをエネルギー源とする技術が1960年代、あるいはそれよりも前からあることは、Draysonもよく知っているが、ロンドンのImperial Collegeにおける研究をベースとするFreevoltの技術は、従来と違ってかなり高くて安定的なエネルギー効率を実現している。そして現在は、Wi-Fiやセルラー、デジタル放送など、大量のRF電波が、エネルギー利用という見地からは、無駄に放出されている。
具体的には、Freevoltの技術はマルチバンドアンテナと整流器を使用する。つまり同時に複数かつ多方向のRF帯域からエネルギーを取り出すことができる。ほかにも、従来の技術と違って実用性が高いと主張できる要素が、さらに二つほどある。
ひとつは、現代社会、とくに都市部では、ブロードキャストされているRF信号が非常に多いこと。そしてもうひとつは、電力をあまり要しないが電池の交換や充電は不便、というデバイスのユースケースがとても増えていることだ。それは、言うまでもなくIoTの分野だ。Draysonは具体的に、ビーコン、センサー、低電力ウェアラブルなどを挙げ、ソーラーと違ってエネルギー源が可視である必要がなく、むしろ目立たないところに隠れている、と彼は指摘する。
また、彼自身に技術者としての経験と、環境技術への関心がある。たとえば彼は、電気自動車とその無線充電の研究開発に携わったこともある。しかし産業界がFreevolt技術を大々的に採用するためには、今よりももっとエネルギー効率の良いデバイスが、一般的に普及する必要がある。
つまり技術者たちが発想を変えて、もう、‘もっと大きな電池を入れられるスペースを作ろう’とか、‘ユーザーにもっと頻繁に充電してもらおう’、などと言わなくなることが重要だ。言い換えるとRF信号という無料のエネルギー源を利用するためには、その前提として、まったく新しいタイプの低電力デバイスを技術者たちが設計する必要がある。それは、改良の積み重ねによる電力効率のアップと、これまでとは違った新しい設計方針という、二つの側面で進められるだろう。
このような視点に立つと、Draysonが言うように、Freevoltを電源とし、毎日充電する必要のないスマートウォッチは、決して夢物語ではない。人生で最良のものは、本当はすべてタダなのかもしれない。