自動運転車用ソフトウェアを産業アプリケーションへ展開するためにOxboticaが48.3億円を調達

安全で信頼性が高く、費用対効果の高い自動運転車の登場を世界が待ち続ける中、自動運転車ソフトウェアの世界的先駆者の1社が、より直近のチャンスに対して注力するために、多額の資金を調達した。通常の道路外であるオフロード環境でのアプリケーションを構築するための技術を、産業界に提供することを狙う。

英国オックスフォードのスタートアップであるOxbotica(オクスボティカ)は、「universal autonomy(ユニバーサルオートノミー)」と呼ぶ技術を開発している。同社によればその技術は、使用されているハードウェアに関係なく、さまざまな環境で自動運転車のナビゲーション、知覚、ユーザーインターフェイス、車両管理、その他の機能を支える柔軟な技術だという。このたびOxboticaは有力な戦略的投資家や金融投資家たちからシリーズBラウンドとして4700万ドル(約48億3000万円)の資金調達を行った。

ラウンドを主導するのは石油・ガス大手BPの投資部門であるBP Venturesだ。他にラウンドに参加するのはBGF、安全装置メーカーのHalma(ハルマ)、年金基金のHostPlus(ホストプラス)、IP Group、Tencent(テンセント)、Venture Science(ベンチャー・サイエンス)、Doxa Partners(ドクサ・パートナーズ)がアドバイザーを務めるファンド群などである。

Oxboticaによれば、調達した資金はこの先顧客に向けて行われる展開のために使う予定だという。同社CEOによるとそのうちのいくつかは2021年中に稼働する予定とのことだ。対象となる顧客は鉱業、港湾物流などで、主要投資家がBPであることから、その顧客の規模や視野にあるプロジェクトが示唆されている。

CEOのOzgur Tohumcu(オスガー・トフムチュー)氏は、インタビューで「現在自動運転が必要とされている分野はどこでしょう?」という問いかけを口にした。「鉱山や港湾に行けば、車両がすでに使われているところを見ることができます」と彼はいう。「私たちは産業分野で大きな変革が起きていることを知っています」。

今回の資金調達と産業分野への注力は、Oxboticaにとって興味深い展開となる。スタートアップは2014年頃から存在していたが、元は学者であるPaul Newman(ポール・ニューマン)氏とIngmar Posner(イングマー・ポスナー)氏が一緒に創業したオックスフォード大学からのスピンアウトだった。その後ニューマン氏はCTOとしてスタートアップに残り、ポスナー氏はオックスフォード大学のAI教授のままだ。

これまでOxboticaは、たとえばNASAのマーズ・ローバーにセンサー技術を提供する(Financial Times記事)など、多くの注目を集めるプロジェクトに携わってきた。

時間をかけてSeleniumとCaesiumという名の2つの主要なプラットフォーム上に、それぞれナビゲーション、マッピング、知覚、機械学習、データエクスポートと関連技術そして車両管理を扱えるように技術を整えてきた。

ニューマン氏によると、Oxboticaが他の自律制御ソフトウェアプロバイダーと比べて際立っている点は、そのシステムが軽量で使いやすいところだという。

「私たちが得意とするのは、エッジコンピューティングの部分です」と彼はいう。「私たちのレーダーベースの地図は、1kmの範囲をカバーするためには、数百MBではなく10MBの容量を必要とするだけです【略】私たちのビジネスプランは、Microsoft(マイクロソフト)のような水平型のソフトウェアプラットフォームを構築することです」。だが、このような表現は、同社が開発しているものの価値に対して謙遜しすぎているかもしれない。Oxboticaはまた、自律制御システムに関連した膨大なデータを効率的に転送する方法も研究しており、シスコのような企業と協力して(PR Newswire記事)これらをオンライン化している。

近年では、Oxboticaは英国で路上における自動運転車の代名詞となっていたが、自動運転車のプロジェクトによくあるように、現状、すべてが期待通りには進んでいない。

Oxboticaが2018年にロンドンで始めた、自動運転パイロットプロジェクトのカーサービスAddison Lee(アディソン・リー)は、最初の車両を2021年には路上に投入するだろう予想されていた(未訳記事)。しかしそのプロジェクトは、Addison Leeが昨年Carlyle(カーライル)によって売却され(Addison Leeリリース)、同社がコストのかかる困難な目標だとして解体されたことで静かに幕が下ろされた。公的資金でバックアップされ、英国内の各都市に自動運転車を展開する予定のProject Endeavour(プロジェクト・エンデバー、プロジェクトサイト)はまだ道半ばのようだ。

ニューマン氏によれば、産業顧客への注目が、より野心的で大規模なアプリケーションと並行して進んでいるという。「道路外での応用である、精錬所、港湾、空港向けの産業用自動運転は、実際の路上自動運転に至る道の途中にあるものです」と彼はいう。異なるハードウェアで利用できるソフトウェアを提供する方針は堅持される。「私たちは常に『物理的対象ではなく、ただソフトウェアを(no atoms, just software)』というビジョンを掲げてきました」と彼はいう。「道は特別なものではありません。私たちのポイントは、どのようなハードウェアプラットフォームでも動作できるように、ソフトウェアの依存性をなくすことです」。

同社は、ハードウェアや応用に依存しない自律性に常に興味を持ってきたのだと主張しているだろう。だが最近では他の手段を試した結果、これまでのやり方ではなくOxboticaの戦略にならう他企業の例も増えつつある。そうした企業の中には、英国から出てきたもう1つの自動運転スタートアップであるFiveAI(ファイブAI)も含まれている。FiveAIは、元は自社で自動運転車の車両群を構築したいと考えていたが、2020年に他のハードウェアメーカーにソフトウェア技術をB2Bベースで提供する方針に切り替えた(未訳記事)。

これまでにOxboticaは約8000万ドル(約82億2000万円)を調達しているが、その評価額は公表していない。しかし、これからの展開や新しいパートナーシップによって、現状の市場の中でうまくいっていることが裏付けられるだろうと楽観視されている。

「BP Venturesは、Oxboticaに投資できることを喜んでいます。私たちは彼らのソフトウェアは自動運転車両の市場を加速できると信じているのです」と声明で語るのは、BP VenturesのマネージングパートナーであるErin Hallock(エリン・ハーロック)氏だ。「世界のモビリティ革命の加速への貢献は、顧客にソリューションを提供することに焦点を当てた総合エネルギー企業となるための、BPの戦略の中核をなすものです」。

カテゴリー:モビリティ
タグ:Oxbotica資金調達自動運転

画像クレジット:Oxbotica

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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