英AIチップメーカーGraphcoreが約230億円調達、IPOも視野に

自動サービスによるシステム、薬剤開発やウイルス拡散の予測に使われているプラットフォーム、5Gネットワークのトラフィック管理など、人工知能ベースのアプリケーションは動かすのに途方もない計算能力を必要とする。そうしたタスクに合わせたプロセッサーのデザイン・製造分野における最大手の1社が米国時間12月29日、事業を次なるレベルにもっていくために大きなラウンドをクローズした。

英国ブリストル拠点のAIチップメーカーGraphcore(グラフコア)はシリーズEで2億2200万ドル(約230億円)を調達した。CEOで共同創業者のNigel Toon(ナイジェル・トゥーン)氏がインタビューの中で明らかにし、調達した資金はいくつかの主要目的のために使われると述べた。

Graphcoreはまずこの資金を「IPU(Intelligence Processing Unit)」と呼ばれるアーキテクチャを基にしたテクノロジーを引き続き展開するのに使う。IPUはAIアプリケーションのために最適化されているNVIDIA(エヌビディア)やIntel(インテル)のチップと競合する。そしてGraphcoreは今後あり得る上場に向けた財政面の補強にも資金を使う。

今回の調達で、Graphcoreが保有するキャッシュは4億4000万ドル(約456億円)となり、ポストマネーのバリュエーション27億7000万ドル(約2868億円)で2021年をスタートさせることになる、とトゥーン氏は述べた。

「当社は賭けに出て急成長し、目の前にあるチャンスを最大限活用するという攻めの立場にあります」と同氏は付け加えた。今回のシリーズEを「プレIPO」ラウンドと呼ぶには時期尚早かもしれませんとも話し、「十分なキャッシュを確保し、これにより次の段階に移ることになります」と述べた。ここ数週間、同社は英国ではなく米国のNASDAQ(ナスダック)上場を目指しているのではと噂されてきた。

今回の資金調達は複数の投資家からのものだ。カナダのオンタリオ州教職員年金基金がリードし、Fidelity InternationalやSchroders、そして既存投資家のBaillie GiffordやDraper Espritも参加した。Graphcoreの累計調達額は7億1000万ドル(約735億円)になった。

シリーズEでGraphcoreはバリュエーションを増やした。2020年2月にシリーズDの資金調達に1億5000万ドル(約155億円)追加したとき、バリュエーションは19億5000万ドル(約2020億円)だった。しかしそれでもやはり、トゥーン氏は今年が同社にとって「困難の多い」年だったと表現した(世界全体にとってもそうだった)。

「スピードバンプ(減速させるための路上の隆起)の年だったと思います」とトゥーン氏は話した。「困難に直面し、物事を進めるスピードを再調整しました」。

多くの企業にとってそうだったが、2020年はさまざまな面で異なっていた。

1つには、Graphcoreのハードウェアとソフトウェアのプロダクト開発は、これまでになく小さなパッケージに最速のプロセッサーを搭載して進められた。同社は7月にフラッグシップのチップ「GC200」の第2世代と、同チップで作動する新しいIPU Machineを立ち上げた。IPU Machineについて、同社は立ち上げ時に「ピザボックスのサイズで」処理能力ペタフロップを達成した初のAIコンピューターと表現した。

その一方で、そうしたプロダクトの製造と立ち上げの大部分はリモートワークで行われた。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑制するために従業員は在宅勤務となった。新型コロナは世界を呑み込み、事業運営の仕方を大きく変えた。

実際、業界全体として、そして先行きが不透明な中で企業がいかに支出し、投資するかも大きく変わった。Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Google(グーグル)など一部の企業は自社チップ製造に真剣に取り組むようになった。他の企業では統合整理がみられた。たとえばNVIDIAはArm(アーム)を400億ドル(約4兆1400億円)で買収した。

こうした動きはGraphcoreにとって逆風となった。Graphcoreは買収する予定はまったくない、とトゥーン氏は述べた。同社の戦略は自社のリソースによる成長をベースとしている。

そして、驚くことではないが、同氏はNVIDIAによるArm買収を歓迎していない。「注意深くなければ、あまりにも統合が進んでイノベーションを殺しかねません」とトゥーン氏は話した。「当社は英国政府に自社の姿勢を明確に示しました。当社は、NVIDIAとArmのディールがいいものだとは考えていません」。これは多少皮肉だ。というのもトゥーン氏と共同創業者のSimon Knowles(サイモン・ノウルズ)氏は前のスタートアップを他ならぬNVIDIAに売却したからだ。

トゥーン氏はまた、Graphcoreの新規顧客についても言及を避けた。しかし金融サービス企業やヘルスケア業界、自動車メーカー、インターネット企業など、同氏がいうところの「巨大企業」が関心を示していると述べた。そうした企業は、システムを運営するのに、あるいは自前で開発することもあるプロセッサーを補完するために、Graphcoreが構築しているテクノロジーを必要としている。(Graphcoreの戦略的投資家にはMicrosoft、BMW、Bosch、Dellが含まれる)

Graphcoreは「大量生産ボリューム」の最新プロダクトを出荷していると話した。そしてトゥーン氏は大企業数社が2021年に発表されるだろうと述べ、来年はチップ業界にとって全体的に2020年より平穏な年になるだろうとの見通しを示した。

来年はテクノロジー、特に次世代コンピューティングの需要が顕著に出てくるはずだ。投資家たちは2020年の混乱が収まるにつれ、Graphcoreの事業は伸びると確信している。

「クラウドテクノロジーや5G、AIの浸透といった昨今のコンピューティング潮流のおかげで、専用AIプロセッサーのマーケットは今後数年のうちに大きくなることが予想されます。Graphcoreがこの部門でリーダーになると確信しています」とオンタリオ州教職員年金基金イノベーションプラットフォーム(TIP)のシニアマネジングディレクターであるOlivia Steedman(オリビア・スティードマン)氏は述べた。「TIPはそれぞれの分野で最先端をいくGraphcoreのようなテックを活用した事業への投資に注力しています。Graphcoreの今後の成長とプロダクト開発を支えるために、ナイジェル、そして彼の強固な管理チームと提携することを嬉しく思います」。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Graphcore資金調達

画像クレジット:Graphcore

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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