著名自動運転車エンジニアがUberに仲裁を強制する申立てを提出

Levandowski

営業秘密訴訟の渦中にいた、著名な自動運転車エンジニアであるAnthony Levandowski(アンソニー・レヴァンドウスキ)氏は、彼の元従業員が彼に科された1億7900万ドル(約190億円)の判決の少なくとも一部の費用を負担しなければならないと要求して、Uberに強制仲裁を申し立てた。

3月末に提出された強制仲裁の申し立ては、レヴァンドフスキ氏の破産手続きの一部である。これはUberと、前Google、現在Alphabetの傘下にある自動運転プロジェクトのWaymoを巻き込み、紆余曲折を経た長い法的な物語の最新章である。

この申し立ては、Uberにレヴァンドフスキ氏との補償契約を遵守するよう強制する最初の法的措置である。Uberは、2016年にレヴァンドフスキ氏の自動運転トラックのスタートアップ企業であるOttoを買収したときに補償契約を締結している。この契約でUberは、レヴァンドフスキ氏の元雇用主であるGoogleからの請求に対してレヴァンドフスキ氏を補償するとしている。

Uberは、米国証券取引委員会に提出された配車会社の年次報告によると、利害が少なくとも6400万ドル(約69億円)になると見ている。一方で2020年3月にGoogleに1億7900万ドルを支払うように命令されたレヴァンドフスキ氏は、明らかにそれ以上を狙っている。

関連記事:米裁判所が自動運転技術の元エンジニアにGoogleへ約192億円を支払うよう命じる

「Uberは彼に対する補償義務の一部として、弁護の掌握を主張したため、アンソニーは過去3年間、彼の個人的弁護をUberに委譲していました。その後、Uberは結果が気に入らず、突然態度を変え、彼を補償しないと言ったのです。Uberの行為は間違っており、アンソニーは自身の権利を守る必要があります」と、レヴァンドフスキ氏の弁護士であるGoodwin ProcterのNeel Chatterjee(ニール・チャテルジ)氏はTechCrunchに電子メールで送った声明で述べている。

背景

レヴァンドフスキ氏は、2009年のGoogle自動運転プロジェクトのエンジニアおよび創設メンバーの1人だった。このプロジェクトは社内でプロジェクトChauffeur(ショーファー)と呼ばれていた。このGoogleの自動運転プロジェクトは後にスピンアウトしてAlphabet傘下事業のWaymoとなった。今週提出された裁判所の文書によると、レヴァンドフスキ氏はChauffeurプロジェクトに関する仕事に対してGoogleから約1億2700万ドル(約137億円)を受け取っている。

レヴァンドフスキ氏は2016年1月にGoogleを去り、他3人のGoogle出身者、Lior Ron(リオ・ロン)氏、Claire Delaunay(クレア・ドロネー)氏、Don Burnette(ドン・バーネット)氏とともに、自動運転トラックの会社であるOttoを立ち上げた。UberはOttoの創業から8カ月も経たないうちに買収した。

最近の申し立てによると、Uberは買収が完了する前に外部のフォレンジック調査会社であるStroz Friedbergを雇い、レヴァンドフスキ氏と他のOtto従業員の電子機器を確認するなどのデューデリジェンスを実施した。調査の結果、レヴァンドフスキ氏が自分のデバイスにGoogleに属するファイルを所有していたこと、および証拠が破壊された可能性があることが判明した。

Uberは法科学的な証拠にも関わらず、以前の雇用に関連してGoogleから提起される訴訟からレヴァンドフスキ氏を保護する広範な補償契約に同意している。レヴァンドフスキ氏は受け取った補償金1億2700万ドル(約130億円)の一部または全部をGoogleが取り返そうとするのではないかと危惧していた。

その予想が実現するのにそれほど時間はかからなかった。買収の2カ月後、Googleはレヴァンドフスキ氏とロン氏に対して2件の仲裁要求をした。Uberはどちらの仲裁の当事者でもなかった。しかし、レヴァンドフスキ氏を擁護する補償契約に基づき、巻き込まれることになった。

Uberはその義務を受け入れ、レヴァンドフスキ氏を弁護した。仲裁が行われている間、Waymoは営業秘密の盗難を理由に2017年2月にUberに対して個別に訴訟を提起した。裁判となり和解に至ったこの訴訟でWaymoは、レヴァンドフスキ氏が企業秘密を盗み、それをUberが使用したと主張した。この和解でUberは、Waymoの秘密情報をUberのハードウェアとソフトウェアに組み込まないことに同意した。また、UberはシリーズG-1ラウンド720億ドル(約7兆7600億円)の評価ごとに、Uber株式の0.34%を含む和解金を支払うことにも同意した。当時の計算で、これはUberの株式で約2億4480万ドル(約264億円)に相当した。

一方、仲裁委員会は2019年3月にGoogleの元従業員それぞれに対して仮仲裁裁定を下し、レヴァンドフスキ氏に対する判決は1億2700万ドル(約136億円)となった。この判決にはレヴァンドフスキ氏とロン氏が共同で責任を負う100万ドル(約1億780万)も別途含まれている。Googleは、利息、弁護士費用、その他費用の要求を提出し、12月に最終的裁定が下された。

ロン氏は2月に970万ドル(約10億4500万円)でGoogleと和解したが、レヴァンドフスキ氏は判決に異議を唱えた。サンフランシスコ郡高等裁判所は3月に彼の申し立てを棄却し、レヴァンドフスキ氏が責任を負う仲裁合意を彼が遵守することを求めるGoogleの申し立てを認めた。

Googleとレヴァンドフスキ氏、Uber間の法廷争いが進められ、レヴァンドフスキ氏は刑事起訴された。2019年8月、彼はGoogleで働いていた間の33件の営業秘密の窃盗および窃盗未遂について連邦大陪審により起訴された。先月、レヴァンドフスキ氏は米国地方検察官と法的合意に達し、営業秘密の窃盗1件の罪を認めた。

これから

レヴァンドフスキ氏の弁護士は、最終判決が彼に対して下されたとき、Uberはその補償契約を果たさなかったと主張している。レヴァンドフスキ氏はUberが支払いを拒否したため、連邦破産法第11条を申請せざるを得なかったと語った。

「Uberとレヴァンドフスキ氏は補償契約を締結していますが、Uberが最終的にそのような補償に責任があるかどうかは、同社とレヴァンドフスキ氏間で係争になる可能性があります」とUberは述べており、SECに提出された年次報告書でも同様の表現を使用している。

レヴァンドフスキ氏の法務チームがUberに仲裁を強制するよう裁判官を説得できたとしても、結果が肯定的であるとは限らない。仲裁には数カ月かかることがある。最終的に、レヴァンドフスキ氏が敗訴する可能性もある。しかしこの申し立てにより、レヴァンドフスキ氏は、法律用語を利用してではあるが、発言することでGoogleとUberでの彼の雇用の詳細を共有することができる。それらの中には、Googleの従業員を採用するレヴァンドフスキ氏の活動についてUberが何を(そしていつ)知っていたか、およびレヴァンドフスキ氏が彼のノートパソコンにダウンロードしてフォレンジック調査中に発見された情報に関する詳細が含まれる。

Uberとレヴァンドフスキ氏の間の最初の亀裂は、裁判所文書の時系列によると、2018年4月に発生している。申し立てで示された主張によると、このときUberはレヴァンドフスキ氏に対し、仲裁で彼を弁護するためにかかった費用の返還を要求する意思があると伝えている。当時Uberはレヴァンドフスキ氏に対し、返還要求の理由の1つはレヴァンドフスキ氏が「黙秘権の不当に広範囲な行使を通じて自身の供述で証言を拒否した」ためであると述べている。レヴァンドフスキ氏はGoogleとの仲裁中、黙秘権を供述に使用している。

裁判所文書によると、Uberはレヴァンドフスキ氏に黙秘権を放棄して仲裁中に証言することを要求したことはない。レヴァンドフスキ氏は、Googleと仲裁委員会に対して、彼が証言する意思があることを直ちに通知し、仲裁審問の前に供述することを申し出たと語った。

■Uberに仲裁を強制するために米国破産裁判所に提出されたアンソニー・レヴァンドフスキ氏の申し立て)
Levandowski-Uber Motion to Compel by TechCrunch on Scribd

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

原文へ

(翻訳: Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。