議事録から離婚まで、TechCrunchハッカソンで生まれた「○○の再開発」

「り・こ・ん! り・こ・ん!」会場に鳴り響く、大・離婚コール。11月15日、16日に東京・台場のコワーキングスペース「MONO」で開催した「TechCrunch Hackathon Tokyo 2014」での一コマだ。ハッカソンのテーマは「○○の再開発」。24時間の耐久ハックを終えてできたのは、議事録やクラウドファンディングを再定義する実用的なプロダクトから、暗くて面倒な離婚をカジュアル化するというサービスまで。ちょっと長めのレポートになるが、参加を希望していて来られなかった人や、今後ハッカソンに参加したい人のためにも、異様な盛り上がりを見せたイベントの模様をお伝えしたい。

ドラえもんの「ひみつ道具」でアイスブレイク

当日は週末にもかかわらず、140人近くが参加。中には小学5年生の女子もいたが、参加者のほとんどは社会人。チームではなく個人での参加が大半だったせいか、会場には若干の緊張感も見られた。

そんな空気をほぐすアイスブレイクでは、スケッチブックに一筆書きで、自分が最も好きなドラえもんの「ひみつ道具」を描けという指令が。ぐるっと会場を見回してみると、どこでもドアが多い印象。

そのほかにも、もしもボックスやスモールライトがあったり、

特別ゲストとして参加してくれたmasuidriveこと、トレタの増井雄一郎さんは「こえかたまりん」を描いていたり、

もはや一筆書きでもなく「???」といったものまでが描かれていた。

APIを1つ使えばルールは自由

アイスブレイクの頭の体操で空気が和んだ後は、ハッカソンで利用するAPIの説明だ。今回のハッカソンでは下記のAPIのいずれかひとつを使ってサービスを開発することがルール。それ以外は、使用言語や開発プラットフォームは自由。こっそりランサーズに発注するのもアリだ。

・デンソー:NaviCon(スマホで探した場所をカーナビへ送るアプリ)のURL発行など
・エクシング:言語解析API(係り受け・形態素・ポジネガ・感情・感覚の解析)
・HOYAサービス:VoiceText Web API
・セイコーエプソン:MOVERIO BT-200
・朝日新聞社:朝日新聞記事検索API
・楽天:楽天API(楽天市場や楽天ブックス、楽天レシピなどの情報を取得できる)
・構造計画研究所:クラウドメール配信サービス SendGrid
・Gracenote:音楽ソリューションAPI
・KDDIウェブコミュニケーションズ:クラウド電話&SMS API Twillio
・ぐるなび:ぐるなびレストラン検索APIなど
・インテル:Edisonボード、Galileo開発ボード
・シャープ:ネットワークプリント
・ソフトバンクロボティクス:Pepper
・NTTドコモ:ドコモAPI(画像・文字・音声認識、音声合成、トレンド記事抽出など)

アイデア発想のコツは「他家受粉」

各社15分ずつの熱のこもった説明を終えると、次はアイデアブレストの時間。ハッカソンの進行役を務めたリクルートの伴野智樹さんは、そのコツは「他家受粉」にあると話す。

他家受粉とは、他の個体の花粉によって受粉されることを指す言葉。遺伝子の組み合わせが増えることで、種としての適応度が高まる。ハッカソンにおいては、異なるアイデアやコンセプトが専門領域を超えて「受粉」しあうことで、社会環境でのアイデアやコンセプトの適応度も高まるのだとか。

伴野さんが「他家受粉」を促すために採用しているのが、アイデア吐き出しツールとして知られる「はちのすボード」だ。

参加者は、いくつものマスで構成される「はちのす」の中央に、自分が興味のあるAPIを書き、その周辺の「はちのす」にAPIに関連するキーワードを書いていく。例えばTwillioであれば、「メール」「電話」「SNS発信」といった感じだ。

さらに、周りの「はちのす」に、自分が作りたいプロダクトのテーマ、例えば「エンタメ」や「目覚まし」といったキーワードを記入し、そこからそのキーワードを細分化していく。

こうすることで、自分では考えも付かなかったアイデアとAPIの組み合わせが生まれるのと、伴野さん。「イノベーションは意外と、偶然の組み合わせの先にあるんです」。

ぼっち飯、自己紹介、離婚……再発明が続々

はちのすボードを書き終えると、次は「アイデアシート」に記入する。アイデアシートは、今回のテーマである「○○の再開発」を設定し、3行のサービス概要と絵を入れることがルール。利用を検討するAPIも書き込む。

全参加者がアイデアシートを記入した後は、お互いのアイデアを確認するための「アイデアウォーク」。あまり聞き慣れない言葉だが、ざっくり言うと、参加者がお互いのアイデアシートを見て、良いと思ったアイデアに星マークを付けたり、付箋でアドバイスを貼り付けたりするもの。

チームビルディングが後に控えるだけあって参加者が熱心なのはもちろんだが、APIパートナーも外部の知恵を取り入れようと、熱心にアイデアシートを覗きこんでいたのが印象に残った。

ちなみに、最も多くの星を集めたアイデアの1つは「離婚の再発明」というアイデアだった。

お互いのアイデアを確認した後は、いよいよチームビルディングだが、その前に多くの星を集めた「モテアイデア」の持ち主が参加者の前でプレゼンを実施した。

そこでは、特別ゲストとして参加した堤修一さんも登場。iOS方面で著名なエンジニアの堤さんは、500 Startupsに参加するグロース・プラットフォーム「AppSocially」の元開発者でもある。アイデアは、エプソンのスマートグラス「MOVERIO」で相手を見ると、その人がどんな特技や技術を持っているかがわかるというもの。「ハッカソンで初めて会う人同士が神経をすり減らさなくて済む」とアピールしていた。

チームビルディングは、伴野さんの「ナンパしまくってください」という掛け声とともにスタート。

参加者の7割が徹夜でハック

チームビルディングで作られたのは合計32チーム。その後はひたすらハッキング。エンジニア、ディレクター、デザイナーがひたすら手を動かす時間だ。

ハッキング開始から約4時間後には各チームが中間発表。それぞれが独自の「再開発」のアイデアを披露した。

その後はひたすら、ハッキング。

夕食の弁当がふるまわれたあとは、

ハッカソンでよく見るレッドブルの差し入れも。250本のレッドブルタワーは一瞬にしてなくなった。

多くの参加者が近くの「大江戸温泉物語」などで泊まり込んだり、会場の机につっぷしたり、

地べたで寝るなど、ハッカソンならではの光景も見られた。参加者の約7割は自宅に帰らずに開発を続けていたようだ。

朝型、明らかに前日と比べて疲労の表情を色濃く見せる参加者だが、最後の追い込みにむけて作業を続ける。Pepperくんもグッタリしていた。

そしていよいよ、成果発表のときだ。審査基準は「イノベーション」「完成度」「デザイン」の3点。中でも最も重視するのがイノベーション。つまり、革新性と新規性というわけだが、ここでは入賞した5作品を紹介しよう。ちなみに5チームは、11月19日に東京・渋谷で開催した「TechCrunch Tokyo」でライトニングトークをしてくれた。

CFTraq(クラウドファンディング・トラック)

クラウドファンディングサイトをクローリングして情報を取得するサービス。複数のサイトの情報を一元化できるのが特徴で、各サイトで募集中のプロジェクトを一覧したり、過去の調達額や支援者数の多い順にプロジェクトを表示することができる。プロダクトを開発したsawayamaさんは、「クラウドファンディングのプロジェクトは基本的に公開されているが、情報が整理されていない。個人的にも欲しかった」と話していた。

どこでもドアノブ

世界各国の観光地に行った気分になれるドアノブ風のガジェット。ドアノブを回すと世界各国の映像を表示したり、現地の人とTwillioを通じて音声通話できるというもの。音声通話は観光地のパブリックスペースに電話を設置する。例えばエジプトのピラミッド近くに設置した電話に発信した場合、「おい電話なってるぞ」と気づいた人が出るのだとか。審査員を務めたコイニーの久下玄さんは「誰が世界各国に電話を設置するの? 電源やネットワークは?」と戸惑いながらもアイデアをたたえていた。

loltube

15秒間のニュース動画を作成して共有するサービス。ユーザーはYouTubeから動画のハイライトをピックアップして15秒にまとめる。ゲームのプレイ動画などテキストでは伝わりにくいネタが適しているのだという。投稿された動画を組み合わせてストーリーを作ることもできる。

ギジロク ジョーズ

周囲360度を撮影できるカメラ「RICOH THETA」を使って議事録を作成するアプリ。音声認識で発言を文字起こしし、LINE風のUIで議事録がまとまる。THETAで撮影した画像は顔認識技術を用いることで、誰が何を話したかを特定することが可能。特定の会話の動画を再生できるので、会議の雰囲気も伝わるのだとか。みやこキャピタルの藤原健真さんは、「シンガポールに文字起こしのスタートアップがあるが、日本にはプレーヤーがいない。音声認識できない部分はクラウドソーシングで文字起こしすれば良いサービスになる」と高く評価していた。

密告者

電車内の痴漢を監視するアプリ。痴漢被害にあった女性はアプリを開いてHelpボタンを押すことで、電車内に設置されたGalileo端末からドコモの音声合成APIを用いて「痴漢です」というアラートを流せる。Bluetooth通信で同じ電車に乗っているアプリの利用者全員にメッセージを送ることもできる。通信面ではメッシュネットワークを採用。Bluetoothだけでチャットができるため、インターネットに接続できない地下鉄でも利用できる。蓄積したデータをもとに、どこの路線の何番車両に痴漢が多いか、といったこともわかる。

アグレッシブ離婚
最後に、惜しくも入賞は逃したものの、会場で熱狂的な支持を集めたプロダクトをお伝えしたい。「日本は離婚がタブー視されすぎている」ことを問題視したチームが手がけた「アグレッシブ離婚」だ。ウェブ上で相手の電話番号とコメントを入力するだけで離婚を申し込めるという、まさに「離婚の再開発」といっていいプロダクトだ。

離婚申込み後は、Twillioが承諾を求める電話を代行。人間味のない自動音声で「離婚に承諾する場合は1を、しない場合は2を…」という声が流れるデモでは、会場が大爆笑の渦に包まれた。プロダクトとしてはちゃんと設計されていて、離婚の承諾が得られた場合には、承諾の意思と離婚届を印刷できるネットワークプリントサービスのコードをメールにて通知。近くのコンビニのコピー機で離婚届を印刷、提出して離婚が完了となる。

審査員を務めたリクルートホールディングスの石山洸さんは、「リクルートはゼクシィをやっているが、離婚が増えるともう1回結婚することになる。トランザクションが増えるので、ぜひ流行らせてほしい」と大絶賛(?)していた。

Some photos are shot by joohoun(twilio)


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。