退屈な教科書を「ピクサー」みたいな動画に置き換えて学習効果を上げるSketchyが約31億円調達

医学部の勉強は厳しい。しかし、それがPixar(ピクサー)みたいだったらどうだろう?

視覚的学習プラットフォームのSketchy(スケッチー)は、医学部の学生が試験前に暗記しなければならない難しい教材の情報を、イラスト化したシーンに置き換えている。たとえば新型コロナウイルスの説明に田園地帯の王国を用いたり、サルモネラ菌の解説にサーモンのディナーを使うといった具合だ。目標は、試験中に学生がそのシーンを思い出し、その中を歩き回ってあらゆる情報を回収できるようにすることだ。

Sketchyの戦略は奇妙に見えるかもしれないが、実際にはよく知られたものだ。「メモリーパレス」(記憶の宮殿)という、記憶の初期にモノと概念を結び付ける記憶術がある。現在のところ、Sketchyは3万人以上の有料会員を擁し、今年の収益は700万ドル(約7億3000万円)に迫る勢いだ。

この勢いを維持しつつ、コンテンツの新たな垂直市場に乗り込むために、Sketchyは、創設7年目にして初めてベンチャー投資を受けることにした。2020年11月、同社はThe Chernin Group(TCG)主導による3000万ドル(約31億円)のシリーズA投資を調達したと発表した(Businesswire記事)。そして米国時間12月2日、一部の株式がReach Capital(リーチ・キャピタル)に第二次取引で売却された。現在それは300万ドル(約3億1300万円)の価値に相当する。創設以来、自己資金でやってきた企業にしてみれば、これは大きな共同投資だ。またこの取引により、オンライン教育の方向性が明らかになってきた。

この資金は、Sketchyが医学生のためのコンテンツサービスの枠を乗り越え、法務から看護に至る医療分野もカバーする教育プラットフォームを目指す中でもたらされた。新たな資金を得て、Sketchyは社内にアニメーションスタジオを開設し、さらに多くのアーティストや、今はコンサルタントとして協力している医師を雇い入れる計画だ。

ストーリー

Sketchyの魔法と有効性は、そのほとんどが共同創設者の全員が医療分野出身であることから生まれている。

この会社は2013年に設立された。当時まだ医学生だったSaud Siddiqui (サウド・シディキ)氏とAndrew Berg(アンドリュー・バーグ)氏は、微生物学用のもっと効果的な学習方法を必死に求めていた時期だ。学習に弾みをつけるために、バーグ氏とシディキ氏は、キャラクターが登場する物語を作って概念を記憶しようと考えた。その後、何度か試験でいい成績が取れるようになると、クラスメートのためにも物語を作るようになった。

「サウドも私もアーティストではないので、絵はひどいものでした」とバーグ氏はいう。絶え間なく要望が入るようになると、2人はその稚拙なスケッチをYouTubeで公開した。やがて、シディキ氏とバーグ氏は、クラスメートで絵が上手かったBryan Lemieux(ブライアン・レミュー)氏を引き込み、彼らの物語を描いてもらうことにした。その後、ブライアンは双子の兄弟Aaron(アーロン)を誘い、メンバーが揃った。

時間は流れて現在、シディキ氏とバーブ氏は救急医療での研修を終え、レミュー兄弟は医学から離れる決意をした。それぞれ2つの仕事のバランスを保とうと頑張ってきたが、ついに全員がこの会社にフルタイムで取り組むことになった。それでも医療現場で培った知識は、この仕事に活かされている。

このスタートアップの名称は一度変更されている。設立当初はSketchyMecical(スケッチーメディカル)だったが、ただのSketchyにリブランドされた。絵を主体とすることで全員が同意してこの名前にしたのだが、ネガティブな印象もある(訳注:Sketchyは素描のようなという意味だが、大ざっぱ、中途半端、怪しい人などの意味もある)。将来またリブランドされる可能性がある。

社名の意味はともかく、同社の主張によれば米国の医学生の3分の1がサービスを利用しているという。収益の大半は、おもにステップ1とステップ2の試験勉強をしている医学生を対象にした12カ月間のサブスクリプションだ。

いろいろな意味でB2Cは手堅いビジネスモデルだが(手続きだらけの大学を相手にするよりも、個人に出費を促すほうが簡単だからだ)、同社は有望なB2B事業の拡大も発表している。現在のところ、収益の20%は医科大学との直接契約によるものだ。共同創設者たちは、当面は両方の成長方法を追求するが、いずれは大学との契約を増やし、学生が費用を負担せずに済むようになればうれしいと話している。

新型コロナを越えて

Sketchyに投資しているReach CapitalのJennifer Carolan(ジェニファー・キャロラン)氏は、Sketchyの医学生を対象にしたプロダクトマーケットフィットは「彼らのコンテンツに価値があることの強力なシグナル」だと話している。Picorize(ピコライズ)やMedcomic(メドコミック)といったライバルはいるものの、Sketchyの製品には正当性があり、新たな垂直市場への拡張が可能だと彼女はいう。この投資会社がSketchyに投資を持ちかけた理由の1つには、顧客獲得コストが低いことがあると、キャロラン氏はブログ記事に書いていた。

とはいうものの、リモート学習のおかげで新規ユーザーからの需要急増に潤っている他の多くのエドテック企業とは異なり、Sketchyは新型コロナウイルス特需の恩恵には浴していない。

「私たちは、プロダクトマーケットフィットが見つけられず、コロナ後に需要が爆発した企業とは違います」とバーグ氏。「私たちは、ずっとそこにいて、ずっと成長を続けてきました」。

つまり、今回の資金調達の本当のきっかけは、新型コロナウイルスによる影響ではなく、継続的な成長で得た資金を、より多くのデジタルカリキュラム垂直市場に投入したことだ。

長期的には、Sketchyも、教科書出版社に取って代わろうと目論むTop Hat Jr(トップ・ハット・ジュニア)やNewsela(ニューゼラ)などのスタートアップの軍勢に加わることになる。リモートの世界では、生の動画コンテンツは価値の喪失が早い。新規参入組はそれらに代わる、より効率的でエンゲージメントの高いコンテンツを提供しようと努力している。

「課題として、決して先を急がないことがあります」とシディキ氏。「私たちは、長年保ってきた品質のレベルを堅持しつつ、規模を拡大したいと考えています」。

【Japan編集部】公開当初この記事には、Sketchyは3200万ドルを調達したと書かれていた。しかしそれは誤りで、正しくは3000万ドルとReach Capitalの第二次取引で資金を調達している。

カテゴリー:EdTech
タグ:Sketchy医療オンライン学習資金調達

画像クレジット:Sketchy

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。