電動航空タクシーのLiliumがBaille Giffordから38億円を調達、評価額が1000億円超に

ほとんどの空の便が地面に拘束され休止している今、航空輸送の大きなブレイクスルーを目指すドイツのスタートアップであるLilium(リリウム)が、そのサービスの構築にさらなる資金を調達した。タクシーのようなフリートを編成し街から街へ乗客を運ぶことを目的とした、完全電動の垂直離着陸航空機を開発する同社は、3500万ドル(約38億円)の追加投資を獲得した。

この資金は、2020年3月にLiliumが調達を発表したばかりの2億4000万ドル(約260億円)という投資ラウンド(未訳記事)の追加拡張投資なのだが、注目すべきは、このスタートアップの資本政策表に今話題の高名な企業が新規参入している点だ。Tesla、SpaceX、Sporufy、Airbnbなどを支援するスコットランドのベンチャー投資企業Baillie Gifford(ベイリーギフォード)だ(3月のTechCrunchの記事では、この260億円はTencent、Atomico、Freigeist、LGTといった従来の投資家からのものとお伝えした)。

Liliumの最高商業責任者であるRemo Gerber(リモ・ガーバー)博士はインタビューの中で、さらに多くの投資家をラウンドに招くよう交渉中だと明言していた。これは、我々がさる情報筋から2019年に入手し、4億ドル(約430億円)の追加調達を目指していると伝えた話(未訳記事)と一致する。

現在のところ、Liliumの調達額はトータルで3億7500万ドル(約410億円)となり、同社に非常に近い情報筋が確認したところによると、評価額は10億ドル(約1080億円)を超えるという。それにより同社は、航空業界参入を目指す企業としては、もっとも資本金が多く評価額が高いものとなった。

今回の追加拡張投資は、長期戦を覚悟しつつも短期的な数多くの変化に対応しなければならないLiliumにとって絶妙なタイミングだった。旧型試作機がメンテナンス中に炎上する(electrek記事)など技術的なつまづきの後、原因究明のために計画が一時停止していたが、最初の商用サービス開始への道筋を外れることはなかったとガーバー氏はいう。ただし、それはまだ5年先の2025年の話だ(計画では、最初は人間のパイロットが操縦し、自動航行「航空機」で運行されるのは10年後となる)。

だが一方では、多くの企業が新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる世界経済低迷の打撃に備えるために、さまざまな業界の活動が全体的に鈍化し停滞している。その中には、Liliumにとって重要な3つの業界も含まれる。航空、製造、旅行だ。

ガーバー氏によれば、今回の資金投入はこの機を活かすものであり(投資企業にBaillie Giffordが加わったことは大きいと彼は指摘する)、同時に、今後の不確実な時代に何が起きても対応できるようLiliumの財政を強化するものだという。同社には現在450名の従業員がいるが、世界中で数百万人もの人々が失業する中、1人の解雇者も出していない。デザイン部門の大多数の人たちは自宅で作業をしており、またLiliumには広大なスペースがあるため、社会的距離を確保しつつ製造が行えるよう設備を整え、次の開発段階に対応させるとガーバー氏は話している。

とはいえ、都市部に渋滞を引き起こす自動車や、通勤経路が入り組み、その他の乗り物では採算が合わない鉄道などの交通機関に取って代わる空飛ぶ乗り物の実用化を目指す、将来の競合相手も数多い。

その中には、やはりドイツのスタートアップであるVolocopter(ボロコプター)も含まれる。そこもまたタクシーのような新しい空飛ぶ乗り物とサービスの開発を行っており、2020年2月には940万ドル(約10億円)の投資を獲得している。さらに、既存のヘリコプターを使って大金を支払えるごく限られた人向けに空飛ぶタクシーサービスを展開するBlade(ブレード)やSkyryse(スカイライズ)の他にも、Kitty Hawk(キティーホーク)、eHang(イーハング)、Joby(ジョビー)、Uber(ウーバー)などが名を連ねている。Kitty Hawkは、つい先週、その壮大な自動飛行プロジェクトを廃止(未訳記事)し、この分野での活動を活発化するために、自動飛行プロジェクトに資源と重点を移すことにした。

安全対策、設計の信頼性、乗り物としての効率性を最重要視するのは、これらメーカーだけではない。規制当局もそこに注目している。だが、規制に関しても進歩の兆しが見えている。例えばイギリスでは2020年5月に革新的な航空輸送用の航空機を開発する企業をより多く支援する取り組みを英国政府が発表(gov.ukプレスリリース)、した。革新的な産業を支援し、未来の運輸業界に、より持続性の高い形態を構築するという同政府の政策目標の一環だ。

Liliumは、スコットランドのエジンバラから参入を助けてくれるBaillie Giffordの力を借りてイギリス、さらにヨーロッパ以外の世界における事業展開の好機を狙っている。「私たちはLiliumで画期的な輸送手段を開発しようと情熱を燃やす並外れた人々を支援できることを、大変に喜ばしく思っています」とBaillie Giffordの投資マネージャーMichael Pye(マイケル・パイ)氏は声明の中で述べている。「まだ初期段階ではありますが、このテクノロジーは低炭素な未来に意味深い多大な利益をもたらすものと確信しています。そして私たちは、数年後のLiliumの進歩を大変に心待ちにしています」。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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