有力な音楽ストリーミング・サービスのSpotifyが上場を準備していることが明らかとなった。
証券取引委員会に提出された書類によれば、Spotifyは10億ドル規模の上場を計画している。ただしわれわれがつかんだところでは同社は証券会社による引受を経ずに直接株式を公開する(DPO)という。10億ドルというのは暫定的な数字で、今後変更される可能性があるが、Spotifyの場合、新たな株式の発行と売り出しは予定されていない。公開されるのはあくまで既存投資家の株式となるようだ。
同社はニューヨーク証券取引所に上場を予定しており、ティッカー・シンボルはSPOTとなる。
提出された目論見書によれば、Spotifyの昨年の収入(売上)は40.9億ユーロ、2016年は29.5億ユーロ、 2015年は19.4億ユーロだった。純損失額は昨年が1.35億ユーロ、2016年が5.39億ユーロ、2015年が2.25億ユーロとなっている。
株主構成では共同ファウンダー、CEOのDaniel Ekが23.8%、共同ファウンダーのMartin Lorentzonが12.4%を所有している。
Spotifyによれば、現在61カ国で運営されており、月間アクティブ・ユーザーは1億5900万人、有料のプレミアム・サービス契約者は7100万人だという。
目論見書でSpotifyは下記のようないくつかの点に関してビジネス・リスクがあること認め、注意を喚起している。
同社はサービスの差別化と著作権者の権利保護について説明する中で、 「Apple、Amazon、Googleなど一部の競合他社は自身の音楽サービスをバンドルしたデバイスを開発し、また開発を継続している」と述べている。Spotify自身は現在スマートフォンやスマートアシスタントを内蔵したスマートスピーカーなどのデバイスを開発、販売していない。こうしたデバイスを大規模に売り出しているライバルは音楽サービスの利用者を増やす上で非常に有利な立場にある。こうした点からすると、Spotifyが将来スマートスピーカーやスマートヘッドホンの開発に向かうことはあり得る。
また同社は楽曲に関して知的所有権を有するレコード・レーベルに対して弱い立場にあると懸念する声もあった。つまり定期的な契約更改の際に、レーベル側はSpotifyが有利すぎると感じれば著作権料率を引き上げることができる。楽曲配信に関しては公的機関であるCopyright Royalty Board〔著作権ロイヤリティ委員会〕やASCAP、BMIといった著作権管理団体も各種の権利を有しており、Spotifyにとってコスト増の要因となり得る。楽曲使用に必要となる知的所有権はごく少数のレーベルや団体が独占している傾向にある。Spotifyが2017年にストリーミングした楽曲の87%についてUniversal Music Group、Sony Music Entertainment、Warner Music Group、Merlin Networkの4団体が権利を握っていた。こうした楽曲の権利者は料率を引き上げることによってSpotifyのビジネスを破綻させることも可能だ。
Spotifyの運営コストはこうしたコンテンツに対するロイヤリティ支払だけでなく、 ライバルに対抗するための研究開発や新機能の追加などによっても増大の傾向にある。ライセンス契約は複雑であり、契約に定められた最低支払額に達しないなどの場合は訴訟を招く可能性がある。こうした訴訟のコストも考慮しなければならないだろう。Spotifyはすでに多数の訴訟を抱えている。またGoogle等のライバルは巨大な特許権ポートフォリオを持っており、これをテコにしてSpotifyに対して知的所有権の侵害を主張してくる可能性もある。
取材継続中。
〔日本版〕DPO(Direct Public Offering )はニューヨーク証券取引所が定めた新しい上場方法で新株の売り出しを行わず、これに伴う証券会社の引受もバイパスするという。
画像:Bryce Durbin/TechCrunch
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)