1台でPCとモバイル両方のUXを実現、Androidアプリも動くLinuxベースの「JingOS」を開発する中国Jingling

中国の著名なコンピューター科学者であるKai-Fu Lee(カイフ・リー、李開復)氏のSinovation Venturesが、ソフトウェア開発者のニッチ市場を狙っている。2021年4月にこのベンチャーキャピタルは、Linuxベースのタブレットとノートパソコンを開発する中国のスタートアップ「Jingling」の1000万ドル(約11億円)のエンジェルラウンドをリードした。ラウンドの他の投資家には、プライベートエクイティ企業のTrustbridge Partnersが含まれている。

Jinglingは2020年6月に創業されたばかりの企業だが、早くも、AlibabaのLinuxディストリビューション「Aliyun OS」や中国のオペレーティングシステムソリューションプロバイダーであるThunder Software、そして中国のオープンソースコミュニティなどから80名の社員が集まっている。

同社スタッフの大半は、現在、北京でJingOSと呼ばれるLinuxベースのOSを開発し、残りはJinglingのサプライチェーンがある深圳でハードウェアを開発している。

Sinovation VenturesのパートナーであるPeter Fang(ピーター・ファン)氏は次のように語る。「OSは投資価値の高い分野です。確かにiPad ProとMagic Keyboardの組み合わせは、仕事と娯楽向けの最良のプロダクトベースですが、今のところどのタブレットメーカーも、Androidのためのより優れたユーザー体験を提供できていません。そこで私たちはJingOSを支援することに決めました」。

投資家として彼は「この投資は、今後はARMベースのモバイルとデスクトップデバイスがさらに増えるというSinovationの認識と予想にも基づいています」と述べている。

Jinglingの最初のプロダクトであるJingPad A1タブレットもARMアーキテクチャをベースとし、正式発売前にすでに500台が販売され、クラウドファンディングキャンペーンでも大きな関心を集めている。Jinglingは現在、Tsinghua Unigroupのプロセッサーを使用しているが、Liu(リウ)氏によると将来的にはQualcommとMediaTekのチップセットを使う考えだという。

ソフトウェアのレベルでは、JingOSはGitHub上のオープンソースであり、すでに世界で5万回以上ダウンロードされている。その多くは米国とヨーロッパからだ。

しかし、Linuxのタブレットやノートパソコンを欲しい人が何人いるだろうか?Zhu Rui(シュ・ルイ)氏とともにJinglingを立ち上げたLiu Chengcheng(リウ・チェンチェン)氏によると、デベロッパーコミュニティからの需要は、同社の初期の成長を十分支えられるほどに大きいという。リウ氏はかつて、中国の指導的スタートアップニュースサイト36Krを創設、シュ氏はOSのエキスパートでMotorolaとLenovoに在籍していた。

リウ氏によると「一般的な消費者市場で、最初の足場を築くのは難しい」ため、Jinglingはその第一歩としてLinuxのコミュニティを狙ったのだという。

「Linuxの市場は大手テクノロジー企業にとっては小さすぎるし、小さなスタートアップが取り組むには難しすぎる。中国でモバイ用OSを開発しているのはJinglingの他にはHuawei(ファーウェイ)ですが、HuaweiのHarmonyOSは主にIoTを狙っている」とリウ氏は語る。

新しいOSを立ち上げるのは確かに無謀に近い挑戦だが、過去にも例はある。Linuxのノートパソコンも以前から存在しているが、Jinglingが考えているのは、1つのデバイスでデスクトップとモバイルの両方のUXを実現することだ。Jinglingが開発したJingOSは、WPS OfficeやTerminalのようなLinuxのデスクトップソフトウェアと、Androidアプリの両方と互換性がある。タブレットのJingPad A1には着脱式のキーボードがあるため、すぐにノートパソコンに変身する。それはAppleの、iPad用のMagic Keyboardと同じ仕組みだ。

リウ氏は「プログラマーへのギフトのようなものです。Linuxシステムの中でコードを書けると同時に、出かけるときにはAndroidのモバイルアプリも使えます」という。

今後、Jinglingはユーザーベースを拡大し、約2年間でChromebookの市場を攻略したいとリウ氏はいう。Chromebookは2020年のPC市場で10.8%のシェアを獲得し、Microsoftが支配するマーケットに徐々に食い込んでいる。しかしながらそれは、Chromebookが強いだけでなく、Windows搭載のパソコンの需要が鈍化しているためだとリウ氏は考えている。

Chrome OSの搭載機はノートブックのChromebookとデスクトップ機のChromeboxがあり、価格も仕様、機種、メーカー等により200ドル(約2万2000円)から550ドル(約6万500円)と幅がある。それに対してJingPad A1は、549ドル(約6万400円)からという価格になっている。パンデミックになってからリモートで仕事や勉強をする人が増え、タブレットもPCも売上が伸びているが、長期的に見るとJinglingは価格調整が必要であり、それなくして市場に自分の居場所を見つけることは困難だろう。

関連記事:2020年、Chromebookは絶好調

カテゴリー:ハードウェア
タグ:LinuxAndroid中国タブレットSinovation VenturesJingling資金調達

画像クレジット:Jingling’s Linux tablet JingPad

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Hiroshi Iwatani)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。