AI文書読み取りエンジンでホワイトカラーの生産性向上へ、シナモンが約9億円を調達

不定形のドキュメントでも読み取ることのできるAIエンジン「Flax Scanner」などを展開するシナモン。同社は6月1日、SBIインベストメントの運用するファンドなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行、三井住友銀行からの融資により総額9億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の投資家リストは以下の通り。内訳は第三者割当増資による調達額が約8億円、融資による調達額が約1億円となる。

  • FinTechビジネスイノベーション投資事業有限責任組合(SBIインベストメントの運営ファンド)
  • SBIベンチャー投資促進税制投資事業有限責任組合(SBIインベストメントの運営ファンド)
  • FFGベンチャー投資事業有限責任組合第1号
  • 伊藤忠テクノソリューションズ
  • Sony Innovation Fund
  • TIS

今回のラウンドはシナモンにとってシリーズBにあたるもの。同社では本ラウンドで第三者割当増資により総額10億円の調達を予定していて、2018年8月末日を最終クローズ予定日に追加の調達を進めるという。

なお同社は2018年2月にもMTパートナーズ、マネックスエジソン、ベクトル、RPAホールディングス、複数の個人投資家から資金調達を実施している。

シナモンの主要株主

独自開発のAIエンジンでホワイトカラーの生産性向上へ

シナモンは2016年10月の設立。代表取締役CEOの平野未来氏は2011年にmixiの子会社となったネイキッドテクノロジーの創業者でもある、シリアルアントレプレナーだ。

同社ではホワイトカラーの生産性向上をテーマに、文書を読み取るAI OCRサービスのFlax Scannerのほか、AIチャットボット「Scuro Bot(スクロ・ボット)」、レコメンデーションエンジン「Lapis Engine(ラピス・エンジン)」など独自のAIエンジンを軸にした複数のプロダクトを展開している。

主力サービスであるFlax Scannerは、PDFやWord、手書きの文書などを情報を抜き出し、データベースに自動で取り込めるというもの。手書き文字の読み込み精度が実データで95〜98%と高いことに加え、不定形のドキュメントにも対応しているのが特徴だ。

「たとえば運転免許証のように共通のフォーマットがあるものであれば、そこに記載されている氏名や生年月日といった情報をAIが抽出することはできていた。一方で住民票のように自治体ごとにフォーマットが異なる場合、同じような情報であっても既存のAIでは自動で抽出することが難しかった」(平野氏)

Flax Scannerの場合はディープラーニングを利用して文書を読み取り、テキスト情報がどの情報に属したものなのかを分類(これは「住所」、これは「名前」といったように)。整理をした上でシステムに自動で入力する。

契約書から要点を抽出する、請求書の情報を登録する、手書きの文書をデータ化するといったシーンを中心に、幅広い用途で利用可能。現在は金融・保険業界での利用が多く、特にデータ入力業務におけるニーズが高いという。

平野氏の話では、大手企業の場合データ入力に毎月1億円ほどのコストがかかっているケースも珍しくないそう。今までは人力で頑張っていた作業を人工知能が肩代わりできれば、コスト削減や業務スピード改善を実現しうるだけでなく、人間が本来やるべき仕事に時間を使えるようにもなる。

また直近では特化型の音声認識プロダクト「Rossa Voice(ロッサ・ボイス)」の開発にも着手。これは「コールセンターのやりとりや会議の議事録を自動で書きおこす」システムだ。

「一般的に音声認識というとGoogleを始めIT業界の巨人がやっているイメージが強いが、これらは汎用型の音声認識技術。一方でシナモンで開発を進めているのは、特定のシーンで使える特化型のもの。実際に企業で使うシーンを想定すると、業界ごとの専門用語などを正確に認識できる必要があるので汎用型では難しい面もある」(平野氏)

現在は実証実験を実施している段階。正式なローンチ時期は未定だが秋頃を目標にしている。

2022年までにAIエンジニア500人体制目指す

ベトナムに構える人工知能ラボの様子

シナモンでは今回調達した資金をもとに各プロダクトの基盤技術を強化するほか、人材採用を進める方針。プロダクトのラインナップもふやしていく計画で、大企業以外でも導入しやすいようなパッケージの開発や、新規プロダクトのR&Dにも取り組む。

なお同社はベトナムに人工知能ラボを構えており、大量のAIエンジニア(シナモンにおいてはディープラーニングをゼロから組める人のことを指すそう)を採用できる仕組みを構築。同社には現在40名ほどのAIエンジニアが在籍しているが、2022年までに「AIエンジニア500人構想」の達成を目指すという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。