Amazonが中東市場に進出―、現地のEC大手Souqを6億5000万ドルで買収

世界制覇に向けて動くAmazonの次の狙いは中東だ。中東市場進出のため、同社が現地のEC企業Souqを6億5000万ドルで買収したとする複数報道内容を、われわれの情報筋が認めた。アラブ世界のAmazonとも言われているSouqは、同地域最大のEC企業だ。契約書のサインの「インクはすでに乾いている」と、Souqに近い情報筋は語っている。

Souqは本件に関するコメントを控えており、同社CEOのRonaldo Mouchawarも、TechCrunchからのメールや電話には応えなかった。

Amazonも同様にコメントを控えており、広報担当者であるTy Rogersからは「Amazonでは噂や推測に基づいた報道に対してのコメントは控えております。ご連絡ありがとうございました」という返事を受け取っただけだ。

中東市場にとっては、今後大きな変化に繋がる可能性のあるニュースだが、買収額は投資家が願っていたほどではなかった。1年前にSouqが2億7500万ドルを調達したときには、10億ドルという評価額がついており、さらに昨年末にも実はSouqとAmazonの間で、Souqの株式の30%をAmazonに売却するという話が進められており、その際の評価額も同じく10億ドルだったのだ。

昨年eBayやUAEの小売企業Majid Al Futtaimとも買収交渉を進めていたSouqは、Amazonとの最初の交渉が決裂してから本日までに、買収額を5〜7億ドルの間で上下させながら、徹底的に議論を進めてきた。そしてようやく両社は、「お互いに飲み込める」金額として、6億5000万ドルでの買収に落ち着いたとある関係者は語る。

買収額はもともとのSouqの評価額よりも低くなってしまったものの、投資家は少なくとも今回の買収によって投資分プラスアルファのお金を回収できそうだ。Crunchbaseの情報を見てみると、SouqはこれまでにBallie GiffordやIFC Venture Capital Group、Jabbar Internet Group、MENA Venture Investments、Naspers、Standard Chartered Bank、Tiger Global Managementらから計4億2500万ドルを調達している。

Amazonは今回の買収によって、現地で既に大規模なオペレーションを行っているSouqの力を使い、これまでサービスを提供していなかった中東市場にすぐに攻勢をかけることができる。

Souqは、CEOのMouchawarがアラビア語のポータルサービスMaktoobのECビジネス以外をYahooに売却した後の2005年頃に誕生した(なお件のポータルサイトは、2014年に起きたYahooの海外事業縮小の一環として閉鎖された)。

現在Souqは、参加ショップ数や販売している商品の数では、中東市場最大のECサイトと言われている。同社のマーケットプレイスには、7万5000件のショップが登録されており、電子機器やファッション、家庭用品、カーアクセサリー(最近追加された)などを含む30以上のカテゴリーで、合計約200万点もの商品が販売されている。

Amazonは今回の買収で、マーケットプレイスだけでなく、Souqのフルフィルメントビジネスも手に入れることになる(物流とフルフィルメントは、地域を問わずAmazonのビジネス拡大において重要なカギを握っている)。さらに両社の契約の中には、Souqのオンライン決済代行サービスPayfortも含まれていると言われており、決済に関する専門技術や、中東市場向けにローカライズされた決済サービスまでAmazonの手にわたる可能性もある。

McKinseyのレポートによれば、中東市場の小売消費額におけるEコマースの割合は現在約2%程しかないが、今後EC市場が成長していく中で、SouqのおかげもありAmazonは重要な役割を担っていくことになるだろう。

盛り上がる中東のEC市場

同地域のEC市場を狙っている企業は他にも存在する。最近誕生した野心あふれるEC企業のNoon.comは、サウジアラビアの公営ファンドとドバイの不動産王Mohamed Alabbar(ドバイ・モールやブルジュ・ハリファ等を所有)から10億ドルを調達した。まだNoon.comはサービスを開始していないものの、地元メディアは「今週中」にNoon.comがローンチされると報じており、これもSouqの身売りに関係していると情報筋は話す。

昨夏の重要な出来事として、Alabbarを中心としたコンソーシアムが物流会社Aramex株式16%を取得した。これにより、Alabbarの所有するEmaar Retail Groupが持つ広大なオフライン店舗網を、デジタル面で補完する存在としてのNoon.comのローンチという、大きなプランのために必要だったインフラが整ったことになる。

Amazonも以前、中東進出に向けた物流パートナーとしてAramexへの興味を示していたと関係者は話しており、AlabbarらによるAramexの株式取得がAmazonにプレッシャーをかけることになった可能性が高い。

さらにAlabbarの動きによって、Noon.comがSouqのビジネスを脅かす存在になったということも、AmazonとSouqが再度交渉のテーブルにつくきっかけとなり、両社の契約を実らせる要因になったとある関係者は語っている。

究極的には、例え希望金額よりも売却額が低かったとはいえ、Amazonへの売却がSouqを前進させる上では最適の選択だったと言える。さらに投資家にとっても、Amazonに比べて経営面で劣るeBayや、オンラインではなくオフラインに強いMajid Al Futtaimより、Amazonの方がパートナーとして優れているだろう。

なおNoon.com以外にも、昨年6700万ドルを調達したWadiや、Rocket Internetの投資先であるNamshiなど、Souqと競合する現地EC企業は存在する。

Souqの買収によって、インドのようにAmazonがこれまで築いてきた近隣地域でのプレゼンスがさらに広がっていくことになる。ちなみに最近Amazonはインドに攻勢をかけ、FlipkartやSnapdealといった企業と戦いを繰り広げている。現在FlipkartとSnapdealは合併交渉を進めていると報じられており、これはAmazonによるインド事業への何十億ドルという投資と、それによる同社の業況の拡大に対する動きのようだ。さらにFlipkartがeBay Indiaを買収しようとしているという噂もある。eBayのインド事業はそこまで大きくはないものの、この話が実現すればインドのEC市場に大きな影響が及ぶだろう(eBayの広報担当者は本件に関して、噂や憶測に対してはコメントを控えていると語った)。

インド進出時に、現地企業を買収せず時間をかけて事業を作り上げていったAmazonの辛抱強いアプローチを考えると、中東市場に素早く進出するための現地企業買収という今回の動きは注目に値する。

これまでAmazonは、ゼロからビジネスを作り上げることをモットーとしていたこともあり、新規市場に進出する際は比較的時間をかけていた(ゆっくりとした拡大方針は、EC事業だけでなくEchoやAlexaといったプロダクトでも採用されており、アメリカでは大成功をおさめている両プロダクトも、海外ではこれまでのところイギリスとドイツにしか進出していない)。

東南アジア進出に向けたAmazonシンガポールのローンチは、当初今年のQ1に予定されていたが、年内のローンチへと計画が延期されたと複数の情報筋は語る。一方同社は、現在オーストラリアでのサービス開始に向けて準備を進めているとも報じられている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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