遺伝子にマンガ、動画ストリーミング……と、苦戦のゲームに変わる新事業を模索するディー・エヌ・エー(DeNA)が次に目を付けたのはキュレーションメディアだ。10月1日、住まいに特化したまとめサイト「iemo」を手がけるiemoと、女性向けファッションのまとめサイト「MERY」を運営するペロリの2社を合わせて約50億円で買収した。それぞれの買収金額は非公表。
自社事業との相乗効果を狙ったベンチャーへの投資に力を入れているDeNAだが、日本企業を買収するのは、実に横浜ベイスターズを95億円で買収した2011年12月ぶり。両社を傘下に収めることで、キュレーションプラットフォーム事業を始動する。収益の大半を依存するゲーム事業は引き続き注力する一方、キュレーションを新たな稼ぎ頭にしようとしている。
iemoはインテリアやリフォームに関する数万点の写真の中から、気に入ったものをクリッピングしたり、まとめ記事を作成できるサイト。「☆IKEA☆¥1000でおつりがくる?!オシャレな家具5選」や「水を入れるだけなんてもったいない!製氷皿のいろんな使い道教えます。」といった「住」に関する記事が数多く投稿されている。サイトには毎月、25〜40歳の主婦を中心とする約150万人がアクセスしている。
2014年4月には建築家やリフォーム業者、インテリアメーカーといった事業者向けの「ビジネスアカウント」を開設し、無料でiemoに自社の商品を掲載できるプラットフォームを構築。現在は約400事業者が登録している。
11月以降、ユーザーがリフォーム業者に仕事を発注できる機能をリリースする。同機能では今後、不動産販売業者とマッチングすることも視野に入れている。現在展開中のネイティブ広告に加えて、マッチングに応じて事業者が支払う報酬がiemoの収益の柱となる見込みだ。
買収後は、iemo創業者の村田マリを含めた全人員と、DeNAからの出向社員が共同で、これまで通りサービスを継続していく。
創業からわずか9カ月でイグジット
村田マリは、早稲田大学卒業後にサイバーエージェントの新卒1期生として入社し、新規事業を立ち上げに参画。退職後の2005年3月、1社目の創業となるコントロールプラスを設立した。結婚と出産を経て、2012年1月にソーシャルゲーム事業をgumiに譲渡し、2億円弱の売却益を得ている。iemoは、彼女がシンガポールに移住して第二の創業として2013年12月に設立した。
過去のインタビューで、スマホ向けメディアで「衣食住の『住』だけが未開拓だった」という理由からiemoを創業したと語った村田マリは、「買収までに想定外だったことはなく、完全に事業計画通り」と振り返る。創業からわずか9カ月でイグジットを果たしたのは、シリアルアントレプレナー(連続起業家)ならではの手腕と言えそうだ。DeNA傘下に入るに至った経緯については次のように語る。
「ここまでは過去の経験でやってこれても、今後、億単位の金額を投資するのは未知の領域。DeNAであれば経験も豊富で、失敗の確率も減る。私自身、IPOに夢がある経営者ではなく、サービスをたくさんの人に使ってもらい、家の作り方を圧倒的に変えたいという思いが強い。絶対にIPOをしなければいけないプレッシャーから解放され、サービスに注力できるのが魅力だった。」
月間ユーザー1200万人のMERYはEC強化へ
MERYは、ファッションに特化した女性向けまとめサイト。美容師やネイリスト、編集者をはじめとするキュレーターがまとめ記事を投稿している。2013年4月にサービス開始から1年半で、月間アクティブユーザー(MAU)は1200万人を突破。創業者の中川綾太郎によれば、ユーザー層は18〜25歳の女性が中心。夜10時以降がアクセスのピークタイムで、「雑誌を読むようなテンションで暇な時間や寝る前に見られている」という。
投稿されている記事は、「ロングブーツ履く前に!にっくき膝上の肉にさよならダイエット◎」や「プチプラ&シンプルで着回し力抜群!GUデニムアイテムで一週間コーデ」といったように、ファッション雑誌にありそうな内容が多いのが特徴。「オンラインで圧倒的なファッションメディアがない中、スマホでファッション誌を読むような体験ができるのが上手くはまった」と分析する。
現時点で収益面は「広告を一応やってますという程度」だが、今後はEC化を進める。具体的には「まだモヤモヤしている」が、ユーザーが読んだ記事から商品を購入できるイメージだと話す。「ブランドを指名買いするECは発達しているが、実際のショッピングでは絶対にパンツを買うつもりでも、ニットを買っちゃうようなことが多い。そんな新しいコマース体験をやっていければ」。なお、iemoと同様、MERYも引き続きサービスを継続する。
2社のノウハウでキュレーションメディアを横展開
今回買収された両社がメリットとして口を揃えるのは、スタートアップならではの課題である採用面での恩恵だ。
「買収前のiemoは8人の会社だったが、10月1日にはDeNAからの出向を受けて20人体制になる。アプリエンジニアやデザイナーなど、不足している人材をバッと出してもらえるのはありがたい。こうした人材は簡単に取れないし、(iemoではDeNAみたいに)東大卒の人材なんていない。」(村田マリ)
「うまくいっているスタートアップでも、さらに伸びれば人が必要になる。MERYは『見てもらう』メディアの部分では順調に成長したが、今後は別領域のECを組み込んでいくことになる。DeNAからコマース経験のある人材をサポートしてもらえるのは大きい。売却思考はなかったが、理想をどれだけ早く実現できるかを大事にしたかった。」(中川綾太郎)
iemoとMERYは、「スマホでダラダラ見られるキュレーションメディア」という点で共通している。iemoは「スマホ × 住」、MERYは「スマホ × 衣」という圧倒的な勝者不在のジャンルでユーザーを増やしてきた。そして、キュレーションの枠にとどまらず、「住」と「衣」という巨大産業のECを変えようとしている。
DeNAとしては、2社の人材を抱えてノウハウを得ることで、スピーディーに他のジャンルのキュレーションメディアを構築する思惑もありそうだ。各メディアで相互送客を行い、数年後にはキュレーションプラットフォーム全体でMAU5000万人を目指すという。