米国時間11月4日の夜、Cruise(クルーズ)の自律走行技術の詳細について語ったエンジニアたちがTesla(テスラ)の名前を口にすることはなかった。あるいはそうする必要もなく、明確なメッセージが伝えられたのだ。
GM(ゼネラルモーターズ)の自動運転部門であるCruiseが、極めて詳細な技術および展開ロードマップを発表した。これは高度な運転支援システムを搭載した車両を含め、人間が運転するどんな車両よりも安全で拡張性の高い自律走行車を同社がいかにして構築してきたかを誇示することを目的としたものである。
イベントでCruiseが自社の技術をアピールしていたのはもちろんだが(当然のことながら才能ある人材のリクルートのためでもある)、同時にこのイベントは自律走行車全般についての議論の場ともなっていた。木曜日に登壇したエンジニアやプロダクトリーダーらは、シミュレーションの利用方法や独自のチップなどのハードウェア開発、アプリや車両の設計などさまざまな要素を紹介してくれた。
「Under the Hood」とブランディングされたこのイベントは、2021年10月に開催されたGMの投資家向け説明会でCEOのDan Ammann(ダン・アマン)氏が、Chevrolet Bolt(シボレー・ボルト)の改良版を皮切りに、数年後には各目的に合わせた自律走行車Origin(オリジン)を何万台も展開して、商用のロボットタクシーや配送サービスを開始する計画を明らかにしたことを受けて開催されたものである。
Cruiseはカリフォルニア州で商業配送サービスの認可を取得したばかりで、さらにドライバーレスのライドヘイリングとして課金できるようになるにはまだもう1つ別の許可が必要だ。それでもCruiseはコストを十分に削減して、迅速にスケールアップしていくことができると考えている。
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その方法は以下のとおりだ。
システムの検証だけではなく、スケールアップのためにシミュレーションを利用する
Cruiseはシミュレーションを多用しており、それは安全性を証明するためだけでなく新しい都市で何百万マイルものテストを行うことなくスケールアップするためでもある。
同社は進出する都市の地図を作成する必要はあるものの、車線変更や道路閉鎖など、必然的に起こる環境の変化に合わせて都市を再マッピングする必要はない。Cruiseが新しい都市に進出する際には、まずWorldGenと呼ばれる技術を使用する。これは「予測できないような道から細部に至るまで」都市全体を正確かつ大規模に生成するもので、これによりエンジニアが新しいオペレーションデザインの領域を試すことができるのだと、Cruiseのシミュレーション部門の技術戦略リーダーであるSid Gandhi(シド・ガンジー)氏は話している。つまりWorldGenは未来のシミュレーションが行われる舞台となるものなのである。
最適な環境を作り上げるため、Cruiseは24の異なる時間帯の明るさや天候などを考慮し、さらにはサンフランシスコに設置されたあらゆる街灯の光を体系的に測定した。
「高忠実度の環境とプロシージャルに生成された都市を組み合わせることで、新しい都市に向けて効率的にビジネスを拡大することができます」とガンジー氏は話す。
そして次に同氏は道路上で自律走行車が収集した実際の事象を、編集可能なシミュレーションシナリオに変換する「Road to Sim」の技術を紹介した。これにより、すでに見たシナリオと比較してテストすることで自律走行車が逆行しないようにするという仕組みである。
「Road to Simでは、知覚から得られる情報と、何百万マイルもの実走行から得られたヒューリスティックな情報を組み合わせて道路データから完全なシミュレーション環境を再現します。シミュレーションができたら、実際にイベントのバリエーションを作成し、車両や歩行者のタイプなどの属性を変更することができます。これは、AV開発を加速させるテストスイートを構築するための、非常に簡単で非常に強力な方法です」。
Cruiseが実際の道路状況で収集できていない特定のシナリオのためにはMorpheusがある。Morpheusは地図上の特定の場所に基づいてシミュレーションを生成できるシステムで、機械学習を利用して必要なだけパラメータを自動入力し、何千もの特殊なシナリオを生成してそれに対して自律走行車をテストするというものである。
「特殊な状況の解決に向けての実地テストは減少傾向にあります。なぜなら滅多に起こらないイベントを適切にテストするために何千キロもの距離を走らなければならず、拡張性に欠けるからです。そのため私たちは、大規模なパラメータ空間をスケーラブルに探索してテストシナリオを生成する技術を開発しているのです」。
テストシナリオには、他の道路利用者が自律走行車に反応する様子のシミュレーションも含まれている。Cruiseのこのシステムはノンプレイヤーキャラクター(NPC)AIと呼ばれており、これは通常ビデオゲーム用語なのだが、この文脈では複雑なマルチエージェントの行動を表現するシーン内すべての車や歩行者を指している。
「Morpheus、Road to Sim、NPC AIの3つの機能が連携することで、まれに発生する困難な事象に対してより確実なテストを行うことができるようになりました。これにより、現在ある特殊な問題を解決できるだけでなく、将来の類似した問題も解決できるという確信を得ることができました」。
ガンジー氏は、合成データを生成することで、Cruise の自律走行車が特定のユースケースをターゲットできるようになると述べ、特に緊急車両の識別や相互作用について言及した。これは、ADAS(先進運転支援システム)のAutopilotが緊急車両との衝突を繰り返しているとして連邦政府の監視下に置かれているTeslaを意識したものに違いない。
「緊急車両は他の種類の車両に比べて稀ですが、極めて高い精度で検出できる必要があるため、当社のデータ生成パイプラインを使用して救急車、消防車、パトカーのシミュレーション画像を数百万枚作成しています。我々の経験では、ターゲティングした合成データは道路データを収集する場合よりも約180倍速く、数百万ドル(数億円)も安くなります。また、合成データと実データを適切に組み合わせることで、データセット内の関連データを1桁以上増やすことができます」とガンジー氏は説明している。
自社開発の2つのカスタムシリコンチップ
10月に開催されたGMの投資家説明会にて、CruiseのCEOであるアマン氏は、Originの計算能力に多額の投資を行い、今後4世代にわたってコストを90%削減し、利益を上げられるようにするという計画を説明した。その際アマン氏は、コスト削減のためにカスタムシリコンを自社で製造するという意向には触れたものの、そのシリコンを使ってチップを製造するということについては表明していない(TechCrunchは予測していたのが)。しかし11月4日、OriginプログラムのチーフエンジニアであるRajat Basu(ラジャット・バス)氏はこの説を実証してくれた。
「当社の第4世代コンピュートプラットフォームは、社内で開発したカスタムシリコンをベースとする予定です。これは当社のアプリケーションに合わせて作られたもので、フォーカスを可能にして処理能力を向上させるとともに、ピースコストと消費電力を大幅に削減しています。コンピュートは安全性の観点からも重要なシステムであり、冗長性が組み込まれています。それに加えて毎秒10ギガビットのデータを処理するAVシステムでは、かなりの電力を消費することになります。当社のMLHチップを使うことで複雑な機械学習パイプラインをより集中的に実行することができ、それにより性能を落とさずにエネルギー効率を上げることができます」とバス氏は説明している。
CruiseのAIチームは2つのチップを開発している。センサー処理チップは、カメラ、レーダー、音響などの各種センサーのエッジ処理を行うもので、2つ目のチップは、ニューラルネットワーク専用のプロセッサーとして設計されており、AIチームが開発した大規模なマルチタスクモデルのような機械学習アプリケーションをサポートし、加速するものである。バス氏によれば、この機械学習加速装置(MLA)チップは、特定のクラスのニューラルネットやMLアプリケーションを解決するのにまさに適したサイズであるという。
「これによりパフォーマンスを極めて高いレベルで維持することができ、当社にとって付加価値のないことをするためにエネルギーを浪費しないようにしています。複数の外部ホストと組み合わせることも、スタンドアロンで動作させることも可能で、最大25Gまでのシングルイーサネットネットワークをサポートし、総帯域幅は400Gに達します。今回量産を開始するMLAチップはほんの始まりに過ぎません。今後時間をかけて消費電力を抑えながら、さらなる高性能化を進めて参ります」。
Cruiseのエコシステム
今回のイベントでCruiseが明らかにしたのは、成功裏にスケールアップするために必要な自律走行車技術だけでなく、未知のシナリオに遭遇したときの自律走行車の判断を検証するリモートアシスタンスオペレーターやカスタマーサービスの他、人々が実際に乗ってみたいと思う車両、カスタマーサポートや事故対応などを効率的かつ容易に処理できるアプリなど、エコシステム全体を考えているということである。
Cruiseのプロダクト担当副社長であるOliver Cameron(オリバー・キャメロン)氏は同イベントで次のように述べている。「研究開発を愛される製品へと進化させるためには、人工知能やロボット技術以上のものが必要です。安全な自動運転車というだけでは不十分であり、これは長い道のりの最初の一歩に過ぎません。何百万人もの人々の日常生活に取り入れられるような競争力のある製品を構築し、拡張するためには、安全な自動運転という基盤の上に多数の差別化された機能やツールを構築する必要があります。こういった機能をどのように実装すべきかは、特に安全性の問題にまだ頭を悩ませている企業にとっては明白ではないでしょう」。
画像クレジット:Cruise
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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)